王都への旅
そして、準備を整えたイストファ達がステラに連れられ街の入り口広場まで行くと……そこには遠巻きにしている野次馬たちの中心に豪華で大きな馬車があり……そして護衛らしき騎士たちと群集の整理をしている衛兵隊の姿があった。
「おお、ステラ様!」
そんな中、黙って立っていた男がステラを見て声をあげる。
パリッとした執事服を纏った男はかなりの美形で、ステラに対する好意のようなものが透けて見えている。
……まあ、ステラが美女であることを考えれば当然の反応ではあるのだろう。
それを見てカイルがちょっと眉を顰めるが、イストファは分かっていない風な顔だ。
「……そちらが例の件に尽力されたという……?」
「ええ、そうよ。ちなみに余計な事は言うなとも言われてるんじゃない?」
「……! 大変失礼致しました」
カイルをチラチラと見ていた執事は慌てたように視線を戻すが、すでにカイルの不機嫌度はマックスだ。
「どうしたの、カイル……」
「どうもしねえよ。お前は全く悪くねえから気にすんな」
「いや、気にするよ。親友じゃない」
イストファに言われ、カイルはちょっと驚いたような顔になり……やがて、照れたように頬を掻く。
「……ま、そうだな。そりゃそうかもな。へへっ」
「イストファ」
ドーマに裾を引っ張られ、ミリィにじっと見られたイストファは無邪気に笑いながら「勿論2人も親友だよ!」と返す。
「おい、今のタイミングでやることか……?」
「だって寂しいじゃないですか」
「そうですよ。それにボク達だって心配してますよ?」
ちょっと不満そうなカイルにドーマ達がそう言えば、カイルも「仕方ねえなあ……」と返すしかない。
「えーと……と、とにかくお乗りください。すぐに出発致します」
その様子を見ていた執事がそう告げると、カイルを先頭に全員が馬車に乗っていき……その豪華さにカイルとステラを除く全員が目を見開く。
「凄い……」
「これは確かに……」
柔らかそうなソファに机、まるで上等な宿の部屋のような内装にイストファ達は驚き、カイルとステラは慣れたようにそこに早々に座り……ほぼ同時に、正確にはステラに遅れてカイルが自分の隣を叩く。
「あ?」
「何かしら」
睨み合う2人を見て、意味の分からなかったイストファがドーマへ振り返り……ドーマは溜息をつきながらイストファの手を引っ張り、ステラの隣に自分が、そしてその隣にイストファを座らせる。
「お前なあ……」
「こんな事で喧嘩しないでくださいよ……もう」
「え? え? どういうことなの?」
「つまりですね、あの2人は自分の隣に座れって言ってたんですよ」
「あ、なるほど……」
ドーマの説明にようやく理解したイストファだったが、すぐに困ったような顔になる。
「……そっかあ……」
「そんな悩む必要はないですよ。いい年して大人げないライトエルフもイストファのことしか頭にないカイルもどっちも悪いんですから」
「言うじゃないダークエルフ」
「なんですかライトエルフ。事実でしょう?」
睨み合うステラとドーマを見て、ちょっと引いたイストファが自分の隣にモフッと音を立てて座ってきたミリィに囁く。
「えーと……もしかしてライトエルフとダークエルフって」
「街でもたまに睨み合ってるの見ますよ。仲悪いんじゃないでしょうか」
「え、そうなんだ……気付かなかったよ」
確かドワーフとも仲悪かったような……とイストファは思い出す。
思い出して……ふと、イストファはとある事実に気付く。
「あ、そういえば……ステラさんって何歳なんだろう」
言われて全員が動きを止め……ステラに視線が集まっていく。
「……何歳なんですか? ライトエルフ」
「乙女の秘密よダークエルフ。闘争がお望み?」
「デュークとも昔からの知り合いだったっぽいし……結構年いってるよなババア」
「もしかして王子サマだから殴られないとでも思ってる? 私は遠慮なくガツンといくわよ」
一通り脅すと、ステラはイストファに笑いかける。
「イストファ。エルフみたいな長命種はね、一定の段階で肉体の成長が止まるの。つまり実質20歳と言えるわね」
「うわあ暴論……」
「言っとくけど、私は見た目が女の子っぽくても容赦は一切しないわよ」
ミリィを黙らせたステラに笑顔で「ね?」と言われ、イストファは思わず「あ、はい」と答えてしまう。答えざるを得ない雰囲気を悟ってしまったのだ。
別に否定する気は一切ないのだが、なんかちょっと怖かった。仕方のないことと言えよう。
「まったく、どいつもこいつも無粋なんだから」
「あ、あはは……」
「ていうか、なんで全員でそっち座ってんだよ。ミリィ、ちょっとそこ変われ」
「ヤです」
身を乗り出すカイルと、首をフルフルと横に振るミリィがやり合っている間に、何かの準備を終えたらしい執事が馬車の中に入ってくる。
「出発の準備が整いました。およそ4日で王都へ到着する予定となっております」
「凄いなあ。王都って遠いって聞いたけど」
「この馬車も馬も『特別製』だからな。詳しくは言えねえが、色々秘匿された技術はあるってことだ」
「カイル様の仰る通りでございます。それでは、王都への旅の間……よろしくお願いいたします」
頷く執事が馬車の扉を閉めると、ほぼ揺れも無いままに馬車の窓からの景色が動き始める。
門を出て、街道へと出た馬車は……イストファが「わあ」と驚きの声をあげるほどの速度で王都へ向かい走り始めた。
迷宮都市を一時離れ、王都へ。
こんなに中々外に出ない主人公も珍しい気がします。





