アレは此処で絶対に
そして。その剣が振り下ろされるよりも速く、雷撃がオークナイトの顔面へと突き刺さる。
「ガッ……!?」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
叫び声と共に、全身鎧を纏いフルフェイスの兜を被った戦士が大剣を構えオークナイトへと突っ込んでくる。
「でええええりゃああああああ!」
ガオン、と音を立てて振るわれる大剣はオークナイトの鎧とぶつかり激しい音をたて、オークナイトは新たに現れた脅威を警戒するように距離をとる。
「ローゼェ!」
「分かってるわよ! ファイアランス・ディレイ! リピート、リピート、リピート!」
重戦士の後を追うように出てきた少女が杖を構え「リピート」と叫ぶ度に少女の周囲に火の槍が増えていく。そして……その数が7本を超えた時、少女は叫ぶ。
その間にも重戦士はオークナイトと打ち合い……「グラート!」と自分を呼ぶ声が聞こえた瞬間、全力で「横」へと跳ぶ。
「リリース! いっけええええ!」
「ガアアアアアアアアア!」
高速で放たれる火の槍が次々にオークナイトに着弾し、その鎧に穴を開けていく。
響くオークナイトの絶叫は鎧ごと焼かれ貫かれる痛みか。
それでも突貫しようとするオークナイトはしかし、忘れている。
「させねえよ」
ゾン、という音。
兜と鎧の間。首を刎ねる大剣。オークナイト自身の突っ込もうとする勢いをも利用した一撃は、その首を空高く跳ね上げる。
ぐらりと背後へと倒れるオークナイトの死骸が地面に倒れ伏したのを見て、重騎士はフンと鼻を鳴らし……倒れたドーマをチラリと見る。
「貴方、は……」
「よし、生きてるな。ヒールは使えるか?」
「ええ、なん、とか」
「そりゃ重畳。俺としても命の借りを返せて嬉しい」
そう、重戦士は……以前ゴブリンヒーローの件で出会った男、グラート。
そして魔法を放ったのは、彼の新しいパートナーとなっていた魔法士の少女、ローゼであった。
「さて、と……」
グラートが見たのは、二方向。
未だ増え続けるモンスターたちと戦っているカイル達と、オークナイトと打ち合っているイストファ。
「ま、あっちは平気だろ。なら……うおおおおおお!」
叫びながらカイル達の方へと突っ込んでいくグラートをため息をつきながら見送ったローゼは、自分にヒールをかけ始めるドーマの近くに立つ。
「バッカみたい。何簡単に分断されてんのよ。こんだけ人数いて、その程度しかやれないの?」
言いながら、ローゼはイストファへと視線を向ける。
そこでは、ちょうどイストファの一撃がオークナイトの鎧と帷子を裂き一撃を与えたところだった。
「……今のは凄かったかもだけど」
言いながら、よろよろと立ち上がったドーマを横目で見る。
「やめときなさいよ。ヒール使ったって、失った血が戻るわけじゃ……きゃ!?」
突然ドーマに押しのけられ、半ば怒ったような声をあげたローゼは……ドーマの振るったメイスに牙を砕かれ悲鳴を上げながら転がるフォレストウルフを見て「ヒッ」と声をあげる。
「い、いつの間に……」
「アイツです」
ドーマの視線の先には、ローブのオーク。
「オークテイマー……奴が居る限り、この状況は変わりません」
「は!? テイマー!? 何言ってんのアンタ!」
テイマーとはモンスターをテイムする者の事ではあるが、モンスターをテイムするモンスターなど聞いたこともない。
ローゼの発言は当然のものとは言えた。それほどまでに有り得ない……聞いたこともないものだ。
「恐らく学習したのでしょう。人間のテイマーの作ったオークエンパイアが、オークにテイマーというモノを生み出してしまったんです……!」
「え、待って! 今何か聞いちゃいけないような事聞いたわよ!?」
「アレは此処で絶対に倒さねば!」
「あ、ちょ……!」
走り出すドーマと、カイル達の援護として大暴れするグラートを慌ただしく見比べて……ローゼは「もう!」と叫びドーマを追って走り出す。
「ホーリー……レイン!」
走るドーマが放ったのは、天を貫き……そして降り注ぐ聖なる光の雨。
それはオークテイマーがさらに繰り出そうとしていたモンスターを、そしてオークナイトやマジシャン、テイマーをも貫く。
「ガギャッ……!」
体を焼かれる痛みに膝をつくオークテイマーをオークマジシャンが慌てたように支え……しかし、体力だけではなく魔力をも消耗しきったドーマの身体強化が切れて転ぶよう倒れこむ。
「ちょっと!」
「でやああああああ!」
心配するように立ち止まるローゼの先で、イストファが叫ぶ。
そう、ドーマのホーリーレインで出来た隙。その最大のチャンスに、イストファの再度の必殺剣がオークナイトの腕を斬り飛ばす。
「ガグアッ……!」
そこに、更に必殺剣。オークナイトの身体が揺らぎ……大きな音を立てながら、地面に倒れる。
これで、残るは3体。一番立派な装備のオークナイトが剣を構え……イストファは短剣を構えなおし、荒い息を吐く。
「ぜえ、ぜえ……」
息が荒い。短剣を握る腕が、ズキズキと痛む。
短時間での必殺剣の連打の影響だろうか、とも思うが……そうしなければオークナイトの防御を突破できない。
通常であれば防御の硬い相手には魔法による補助などがある。
しかしカイル達は今手一杯で、イストファには魔力が無い。
頼れる手札は必殺剣しかありはしない。
だからこそイストファは短剣を握り……そして、オークマジシャンに支えられているローブのオークの……オークテイマーが自分を指し示す指に、微かな疑問を抱く。
いったい何を。そう考えながらも走ろうとしたイストファの頭に、声が響く。
―従え―
明確な意思をもって伝わってくるその「声」に……イストファは立ち止まり、頭を押さえた。





