何かがおかしい
だが、それが何かを確認する暇はない。杖のオークの放った電撃をイストファが防ぐと同時に、斧のオークが突進しイストファに斧を振り下ろす。
技も何もない、力任せの一撃。シンプルかつ剛力であるが故にそれは純粋な脅威で……見た瞬間、イストファは逸らしきれないと確信する。
ならばどうするか。
小盾で防ぐ? 否。防いだとして、小盾持つ腕に深刻なダメージをもたらすだろう。
逸らせない、防げない。ならば迎撃する? 否。あの振り下ろしを正面から受け止めるのは愚の極みだ。
どうする、どうすれば。一瞬のうちにイストファの頭の中を様々な対抗手段が駆け巡り……そして、ギインという金属同士のぶつかり合う重い音が響く。
そうして、そこにあったのは……断ち切られた斧を振り下ろす驚愕の表情のオークと……短剣を振り上げたイストファ。
必殺剣。イストファに繰り出せる最高の一撃が、鉄の斧を見事斬り裂き……宙を舞う斧の刃が、近くの地面に突き刺さる。
同時に腕に伝わる反動のような痛みは、今は無視できるレベルだ。
「メガン・ボルト!」
「ガッ!」
同時にカイルの放った電撃がオークの顔面へと命中し、オークは頭から倒れるようにして地面に転がる。
「イストファ!」
「うん!」
自己強化を終えたドーマと並びイストファはオークナイトへと向けて走ろうとして……しかし、2人の足はそこで止まる。
モンスターの叫び声と、武器と武器がぶつかり合う音が背後から聞こえたからだ。
「!?」
「まさか!」
叫び振り返った背後には、ゴブリンに襲われているカイル達の姿。
だがそこにはナタリアもエリスもいる。
ナタリアの蹴りがゴブリンを弾き飛ばし、エリスの矢がゴブリンの頭に狙い過たず突き刺さる。
そしてそれだけの時間があれば、カイルの魔法がゴブリンを消し飛ばすには充分だった。
「なんだってんだ畜生!」
「こんなタイミングで……!」
カイル達の視線の先には、草をかき分け木々の間からやってくるゴブリンの群れ。
そしてその隙をつくかのように、オークナイトの2体が飛び出してくる。
「こっちは任せろ! お前らはそっちに集中しろ!」
カイルの叫び声にイストファ達は武器を構えなおし、オークナイト達を迎撃するように走り出す。
振るわれる剣はゴブリンのような適当なものではなく、恐らくは何かの理に基づくもの。
それが人外のパワーで振るわれる事で風を裂き、ゴウという音を立てて襲い掛かってくる。
だが、そこはイストファもドーマも慣れたものだ。
軌道を変えられないギリギリを見極め回避すると、ドーマは足の関節を狙い蹴りを、そしてイストファは鎧の隙間を狙い短剣を振るう。
だが、蹴りにオークナイトは揺らがず……短剣はギャリン、という音と共に弾かれる。
オークが揺らがない理由は単純。強靭、その一言。
短剣が弾かれた理由は……。
「鎖帷子……!?」
全身鎧の下に、更に鎖帷子。重装の極みのような装備をして尚、この動き。
その事実に驚愕しながらも、イストファは振るわれる横薙ぎの一撃を回避する。
その近くではドーマがもう1体のオークナイトの剣を丸盾で防ぎ、その衝撃に顔を歪ませている。
「なんて力……強化しているというのに、ここまで……!?」
目の前のオークナイトに集中しようとしたドーマを、オークマジシャンの放った火球が襲う。
ズガン、と響く爆発音と火炎はドーマを焼き……槍のように突き出されたオークナイトの「突き」が、鎧ではなく神官服の下に仕込んだ帷子を貫く。
「が、は……!」
あと少し深ければ致命傷。そんな一撃を受け、ドーマはそれでも下がり追撃を避ける。
「く……ヒール!」
塞がっていく傷。しかし、流された血や壊れた帷子まで直るわけではない。
そしてイストファもまた、オークナイトの怒涛の連撃の前に必殺剣を放つタイミングを掴めずにいる。
カイル達は……フォレストウルフまでもが増援に加わり、イストファ達のフォローはできそうにない。
しかし、何故。何故こんなにも徹底的に運が悪い状況に追い込まれているのか。
「運……? いえ。何か、何かがおかしい……!」
メイスを構えオークナイトとの距離を測っていたドーマは、奥で立派な剣のオークナイトとオークマジシャンに守られているローブのオークが先程から奇妙な動きをしてい事に気付く。
まるで、何かに指示を出しているような、そんな動き。
魔法? それともオークマジシャンへの何かの指令?
考えがまとまらないままにドーマはオークナイトと打ち合い……腕が痛みで痺れていくのを感じる。
力では敵わない。敵うはずもない。なら、別の手段を。どうするか一瞬迷うドーマに、背後から飛び出してきたフォレストモンキーが羽交い絞めでもするかのように絡みつく。
そして、その瞬間。ドーマは今回の騒動の発端となった「能力」の事を思い出す。
「まさか……!」
オークナイトの剣が、振り下ろされる。
ドーマの神官服を、帷子を裂いて。
「が、は……っ」
まさか、まさかそんな。しかし、そうとしか考えられない。
つまり、あのローブのオークは。オーク達が逃げを選んだ理由は。
「オーク……テイマー……そんな、ものが……!」
今だしがみ付いたままのフォレストモンキーが下敷きになって悲鳴をあげ、それごとトドメを刺そうとオークナイトが剣を振り上げる。
そして……。
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