じゃあこれで臨時の仲間ってことで
「レンジャー?」
「マジかよ。ありゃ、この辺で冒険者やってるような連中じゃないだろ」
疑問符を浮かべるイストファと違い、カイルは即座にそう反応する。
「知ってるの、カイル?」
「おう。レンジャーってのは……あー、なんて言えばいいんだ。えーと、そうだな……」
まず一言でレンジャーという職業を説明するのであれば「野外行動のエキスパート」である。
野外での様々な技術、そして弓や各種道具の取り扱いにも長けた、器用さがものを言う職業でもある。
アーチャーやハンターではなくレンジャーと呼ばれるのは、そうした技術に長けているからであり、トラップスミス程ではないが罠に関する技術や知識も保有している事がある。
しかしながら、彼等は基本的にダンジョン向きではない。というのもレンジャーの主武器は弓であり、「矢」という弾数制限が存在するからだ。
トランスポーターのような荷物持ちでもいない限り、レンジャーを攻撃役として数えるのは中々難しく、またレンジャーもダンジョンを潜る冒険者として活動する事は非常に稀である。
「えーと……なんで?」
「引く手数多だからだよ。護衛としては色んな役割こなせて優秀だし、元々は森林国家レーヴェンが発祥の職業だ。余程の事が無けりゃレーヴェン中心に活躍してるから、こっちにゃ流れてこねえはずなんだが」
「つまり、余程の事があったんですかね」
「その辺は詮索ナシってやつよ」
チッチッ、と人差し指を振るナタリアにカイルは「そうだな」と頷く。
「ま、そういうことなら俺は問題ないと思うぜ。お前等はどうだ?」
「僕はいいと思うけど」
「ていうか、難色を示してたのはカイルだけですよね」
「あ、あはは……ボクも賛成です」
ドーマのツッコミにカイルがサッと視線を逸らすが、イストファはナタリアに「それじゃあ、よろしくお願いします」と答える。
「オッケー、それじゃ商談成立ってやつね。行こ? 待たせてるから案内したげる」
そう言うナタリアに案内されて辿り着いたのは、あまり混んでいない食堂。
これから混み始めるのか人気が無いのかは分からないが、空きの目立つ食堂の奥のテーブルにちょこんと座る……恐らくは少女の元へとナタリアは歩いていく。
「やっほー、おまたせ!」
「あ、ナタリアさん……」
ちょっと弱々しい感じの笑みを浮かべる少女は、年は恐らくはイストファ達と同じくらい。
胸部を覆う硬革鎧と、布の服。それと壁に立てかけた木製の弓、そして腰の矢筒が彼女が弓を使う職業であることを明確に語っている。
髪の色は女性としては短めに揃えた青色。同色の瞳はパッチリと可愛らしいが、何処となく弱気な印象が拭えない。
「バッチリ誘えたよ! アタシのお薦めのパーティ!」
「え、その人達がですか?」
「んだよ」
「ヒッ、すみません!」
「ちょっとカイル」
「だってよぉ」
カイルをイストファが窘めるが、少女は少し顔を青くしたままだ。
このままではいけないと察したイストファは努めて笑顔を作り、少女へと話しかける。
「えっと、初めまして。イストファです」
「あ、はい。その、初めまして。エリスと申します……」
「カイルの事はごめんなさい。でも、悪い人じゃないんです」
「え、いえ。こちらこそ初対面なのに失礼な事を……」
「気にしてないです。というか、何が失礼だったのか僕には分かんなかったですし」
あはは、と笑うイストファにカイルが頭痛を抑えるような仕草をするが、それはさておき。
「ナタリアさんから話は聞いてますけど……僕達と今回組むって事で問題ありませんか?」
「えと、は、はい。私こそお役にたてるか分からないんですけど、それでもよろしいのでしたら」
「何かあっても、僕がカバーしますから」
当然のようにイストファがそう言うと、エリスは目を丸くし……やがて、コクリと頷く。
「……はい。私も、頑張りますので」
「じゃあ、よろしくお願いしますね!」
微笑みながら差し出したイストファの手を、エリスは少し悩んだ後に握り……ほわっと微笑む。
「よ、よろしくです……」
「私はドーマです。よろしくお願いしますね、エリスさん」
「あ、ボクはミリィです」
「あー……俺はカイルだ。怖がらせたのは悪ィ。謝る」
全員の挨拶の後、カイルが決まり悪そうに謝り、エリスも「私こそすみません」と頭を下げる。
その様子を見てナタリアがパンと手を叩く。
「よし! じゃあこれで臨時の仲間ってことで……お昼食べてから出ましょ!」
「おいおい、成果を出す為の臨時パーティだろ? いいのか?」
「どうせ皆準備なりご飯食べるなりしてから出るわよ。慌てるのは二流よね」
ナタリアに言い切られ、カイルは軽く頭を掻いて椅子に座る。
「……ま、それもそうだな」
「カイルがそう言うなら僕もそれでいいと思うけど」
続けてイストファも椅子に座ると、ドーマとミリィもそれに続く。
「俺は空揚げだな」
「カイル、揚げ物好きですよね」
「こういう場所でもねえと食わねえからな」
「僕は……うーん……」
そんな会話を交わしながら軽い親睦会も兼ねた昼食をとって、ナタリアとエリスを加えた6人で、森林地帯へと向かう為の話し合いを進めていくのだった。





