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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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アタシも仲間にいーれて

「分かりません」


 カイルの質問に、職員はあっさりとそう答えてみせる。


「分かりません、って……いや、おい」

「そうとしか言いようがないんですよ。森林地帯には定期的に調査も出していたはずですが、それに引っかからなかった事も不明ですし」


 そう、冒険者ギルドとて無能ではない。

 自警団との合同での定期的なモンスター掃討以外にも定期的な調査依頼を出し、緊急に対処すべき案件が無いか、常に気を配っているのだ。

 その調査依頼にオークエンパイアのような規模のものが引っかからなかった事は、冒険者ギルドとしても驚きの事実であったのだ。


「ですので、今回の緊急依頼の運びとなりました。今日から森林地帯の一斉探索を行い、現状の確認、そして可能であれば目につくモンスター全ての撃滅。不可能であれば生態調査。そのような形となっています」

「フン、なるほどな」


 手元の紙をペシペシと叩きながら、カイルは目を細める。


「指名依頼も出してるだろ。ステラとか……後はこの街のトップクラスの連中とかにな」

「ご明察の通りです」


 カイルの指摘に、職員は微笑み肯定する。


「金級冒険者ステラさんをはじめとして、何人かの冒険者やパーティには遊撃隊としての役目をお願いしています。万が一の取りこぼしも許さない。そういう作戦です」


 この街の冒険者のほとんどを駆り出すような作戦であり、当然かかる金も相当のはずだ。

 しかし、それだけ冒険者ギルドは……そして衛兵団と、その上にいる迷宮伯は今回の件を重く見ているという証明でもあった。


「では、よろしくお願いいたします」


 笑う職員が「次の方々!」と言うのを合図にイストファ達はカウンターからずれ、空いている場所に行き紙を覗き込む。

 紙に書いてあるのは、先程カイルが言ったのが概要だが、もっと細かい内容が書かれている。

 

 依頼内容、エルトリア近辺の森林地帯の調査。

 特に範囲は定めず、森林地帯全体を対象とする。

 見つけたモンスターは撃滅、あるいは「何」が「どの程度」居たかを記録する。

 集落のようなものが出来ていた場合は撃滅を推奨するが、不可能と判断した場合はギルドに即時連絡のこと。この場合、報告を功績と認める。

 特殊個体は、特に重要度『高』とする。


 おおよそ、こんな内容だ。


「つまり……モンスターを見つけ次第やっつけろってことだよね?」

「そういうこった。何も無くても1日あたりで、1人に4000イエンだ。初心者が下手にダンジョン潜るより稼げるわな」

「かなり高額だよね、それって」

「高額かはさておいて、成果をあげれば増額ってことで稼げる奴も引っ張り出せるしな。数を集めるにゃ丁度いい額だ」


 この紙を読む限り、そして先程の説明を聞く限りでは「成果」は個人ではなくパーティに付与される。

 となると、人数を集めて大きく稼ごうとする者も当然出てくるだろう。

 そしてそれは多少のトラブルこそあれど、結果的に大きな成果を出すだろうと言えた。

 しかし……1つの懸念が、カイルにはあった。


「さっさと出るぞ、嫌な予感がする」

「え?」

「どういうことですか?」


 ドーマとミリィは疑問符を浮かべるが、イストファが落ち着かないように周囲を見回しているのを見て、ドーマが察したように「あ」と呟く。


「さっきから視線が……」


 そう呟くイストファの耳には、周囲の声も届いていた。


「アイツ等が……」

「そうは見えな……」


 視線のほとんどは、イストファの知らない冒険者のものだ。

 恐らくは先程の「新しく来た冒険者」といった者達なのだろうが……イストファ達はそそくさと冒険者ギルドを出て、道を曲がり一息つく。


「やれやれ、俺等の名前も売れてきてるみてえだな」

「でも、あんまり嬉しくないね」


 イストファのそんな言葉に、カイルは軽く肩をすくめてみせる。


「そりゃあな。名前が売れるってのは嫉妬も受けるってこった。特に俺等はガキだしな」

「そういうものなのかなあ」

「そういうもんだ」


 言い切るカイルにイストファは複雑そうな表情になるが……道向かいから歩いてくる人物を見つけ「あっ」と声をあげる。


「あ、イストファじゃん。やっほー」

「ナタリアさん、こんにちは」


 頭を下げるイストファにナタリアは「かたいねー」と笑う。

 トラップスミスのナタリアは今日も1人のようだが……そのまま近寄ってくると、獲物を見つけたかのように二ッと笑う。


「ね、緊急依頼の件。聞いた?」

「あ、はい」

「アタシも仲間にいーれて!」

「お前をかあ?」


 イストファが答える前に嫌そうな顔をしたのはカイルだが、そんなカイルにナタリアは不満そうな視線を向ける。


「何さ。別に知らない仲でもないじゃない? コードの馬鹿はライバル意識剥き出しだけど、アタシはそうじゃないし」

「そうは言ってもなあ。実際戦闘でどの程度役に立つんだ?」

「立つわけないじゃん。アタシ、トラップスミスよ? 体術はそれなりだけど、オーク相手に出来るわけじゃないし」

「んー……でもナタリアさん、あの時凄かったですよね?」


 食堂でのケンカを思い出しながらイストファが言うと、ナタリアはニャハッと笑う。


「あのくらいならねー。ていうかえーと、カイルだったよね? アタシを今回の仲間に入れるメリットは、他にもあるんだなー」

「メリットって……なんだよ」

「ふふーん」


 胸を張ると、ナタリアは人差し指を自慢げに振ってみせる。


「レンジャーを1人確保してるんだ。今アタシを仲間に入れてくれたら、その子もついてくるよ?」

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