今は難しい話はナシにしようぜ
そして、イストファ達が降り立ったのは次なる階層……8階層だ。
だが、降り立った瞬間……イストファ達は驚愕に目を見開く事になる。
「うわ、暑っ……!」
「すげえな」
降り注ぐ太陽の光。先程まで居た階層とは違い、水分を含まないカラッとした空気。
ギラギラと照り付ける光が眩しく、乾いた大地が熱を照り返す。
巨大な岩のような山々が周囲に並び立つ、そんな場所。
「ねえ、カイル。此処って……」
「例によって情報は売ってねえ。というか確定できてねえ」
「どういうことですか?」
イストファに答えたカイルに、ドーマがそう問いかける。
情報が錯綜するのはいつものことだが、クリアした人間がいる以上は正解に近い情報をギルドが選別しているはずだ。
なのに確定できていないというのは一体……という当然の疑問だ。
「俺もよく分かんねえんだがな……どうにも出口に関する情報が一致してねえ。守護者に関する情報も幾つか候補がある、らしい。そんなもんを流石に高価格では売れねえってことでな。むしろ情報提供を頼まれたくらいだ」
「はあ、なるほど……」
確かにダンジョン情報は階層を下れば下るほど値段が上がる。
8階層の情報ともなれば、ギルドも未確定情報を売るのに躊躇するのだろうか?
「でも、名前くらいはあるんですよね?」
ミリィがそう聞けば、カイルは大きく頷いてみせる。
「ああ、この第8階層は……『巨獣大陸ガルファング』だ」
「巨獣大陸……」
「ガルファング……?」
「南の方に実在する大陸だ。そことソックリだって事で名づけられたらしい」
「そうなんですか?」
「行った事ねえから知らん。だが、本の知識だけで言えば似てる……かもな」
巨獣大陸ガルファング。南方にある巨大大陸で、その存在が確認されたのはおよそ数百年前。
海洋研究者ウルスにより発見されたのが始まりだった。
それ以降、当時は新大陸ガルファングと呼ばれていた大陸に利権や新発見を求めて旅立った者が多く居たが……そのほとんどは帰ってこなかったか、壊滅的な被害を受けて帰ってきた。
その理由は、至極単純。
その大陸の支配者は人を遥かに超える巨大な身体を持つ生物達であり、人など捕食されるか踏み潰されるかだけの弱者でしかなかったからだ。
無論、そんな中で生き残っている小さなモノ達も居るには居る。
しかしそんなモノ達は並大抵ではない狡猾さを身に着けた相応の強者であり……やはり「ぬるい環境」で生きてきた者達に抗しきれる相手ではなかった。
故に、当時の人々はガルファングの制覇を諦め「巨獣大陸」と名付けたという。
今となっては、一部の犯罪者が追手を振り切る為にガルファングに渡るか、命知らずたちが腕試しに向かうのみとなっている。
「……とまあ、こんなところだな」
「へえ……」
「つーか、どのみち今日は此処の探索はしねえんだ。戻ろうぜ、暑いし」
「ですね」
「賛成です……」
いつものように登録の宝珠に触れると、イストファ達はカイルの持つ帰還の宝珠で地上へと戻る。
そうしてダンジョンの入り口まで戻ると、ようやく7階層クリアの喜びが沸きあがってくるのを全員が感じていた。
「……あははっ」
「ハハッ」
「ふふっ」
「えへへっ」
互いに笑い合い、肩を叩き合う。
その姿を奇妙なものを見るような目で見る者もいれば、微笑ましそうな顔になる者もいる。
しかし、イストファ達にとってそれはどうでもよかった。
この喜びは、自分達だけが知っていればいい。
「やったああああ!」
「よし、よし! ハハッ、やっちまったぞオイ!」
「私達、かなりやれてますよね!」
「ですよね、凄いですよね!」
8階層。たとえダンジョン攻略にのみ力を入れているとはいえ、異例の速度と言えるだろう。
実力、運。どちらが欠けてもこうはならない。
あれから到達済最下層がどうなったかは分からない。しかし冒険者としてベテランになればなるほど安定や引退を考える者が増えるのもまた事実であり……現時点でどうなっているかはその情報を買わなければ不明であったりする。
「とりあえず、飯食って宿に帰ろうぜ」
「うん、それがいいね」
外の時刻はもう夕方。丁度何処の食事処でも夕食を出し始める時刻であり、丁度良いとも言えた。
「何食べる?」
「揚げ物がいいだろ」
「私はもうちょっとサッパリしててもいいんですけど」
「サラダつければいいんじゃないです?」
そんな会話を交わしながら、4人は手近な食事処へと入る。
丁度人が増え始めてきた時刻ということもあって食事処はザワついていて、しかし看板嬢が元気よく声をかけてくる。
「いらっしゃいませー! あちらの席にどうぞ!」
案内され着いた席でカイルが中心となって幾つかのメニューを頼み、4人は小さく息を吐く。
「しかし……今回もハードだったな」
「うん。正直、アレは死ぬかと思ったし……」
「ああ、アレな……」
アレ、と言っているのは当然ギガアメイヴァの事だが、カイルの教育で「売る前にペラペラ喋るな」というのが徹底されている。
「ま、詳しい話は飯食って帰ってからだ。今は難しい話はナシにしようぜ」





