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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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既知などと驕る事の許されない未知

 疲労し荒い息をつくイストファ達の視線の先に、それは確かにあった。

 黄ビッグスライムが守護者であることは疑いようもなく、しかしイストファ達に攻撃を仕掛けてくる素振りもない。

 あくまでその場から動かない姿勢を崩さないその姿に、カイルは「ツイてたな」と呟く。


「正直、これ以上の消耗はヤバかった。戦うにせよ撤退するにせよ、此処で場所を確認できたのはデケえ」

「でも、正確な位置なんて分かりませんよ?」

「大体の方角は分かったろ? さっき居た位置が分かってて移動した方角が分かってんなら、そこから何となく算出は出来る」

「断言されても……」


 ボクにはそんな事できませんよ、と疲れた笑いを浮かべるミリィだったが、それでも気を取り直したように黄ビッグスライムを睨みつける。


「それで、どうします?」

「そうだな……イストファ、どうだ?」

「うん、大丈夫」

「オーケイ、なら此処は俺がやる」


 そう言い切るカイルにドーマとミリィは疑問符を浮かべるが、カイルは答えずにイストファへと顔を向ける。


「イストファ。マンイーターの時の事覚えてるか」

「え? うん……あ、根っこが襲ってきた時の話?」

「そうだ。俺がアイツにデカい魔法をぶつける。その詠唱の間、何か起こるかもしれねえ。だから、邪魔させるな。ドーマとミリィも、頼むぜ」


 そう言われて、3人は頷き……黄ビッグスライムへと視線を再度向ける。

 全く動く様子のない黄ビッグスライム。魔法攻撃を出来るはずなのにしてこないのは何故か。

 それは黄ビッグスライムが階層守護者であるが故なのかどうか。

 分からないが、チャンスである事は事実だった。


「よし、いくぞ!」


 カイルが杖を構え、魔力を練り始めたその瞬間。黄ビッグスライムが、それに反応したかのように体を動かす。

 輝く身体から放たれる雷撃は正確にカイルを狙い、麻痺に頼らずとも相当の威力のものであることが見ただけで理解できる。

 だが……来ると分かっている分には対処はある程度可能。

 そして、カイルを守るように立つイストファの短剣にはその「対処」が出来る。

 マジックイーターである短剣は黄ビッグスライムの雷撃を斬り裂き、吸収する。

 

 いつものイストファであればそのまま飛び出すところだが、そうはしない。

 カイルに任せると決めた以上、そこから外れる事はしない。

 ドーマとミリィも周囲の警戒に集中し……イストファが数度の雷撃を弾いた後、カイルの詠唱が完成する。


「待たせた。ぶちかましてやるぜ……!」


 カイルの杖に集うのは、強大な火の魔力。

 イストファと出会った頃であれば考えられない魔力を籠めた杖を、カイルは黄ビッグスライムへと向ける。


「くらいやがれ、フレイムブレイザー!」


 ゴウ、と。強烈な炎が光線の如く射出される。

 火炎放射などという言葉では生温い、射線上全てを焼き尽くすかのような炎。

 ……そもそも火魔法には幾つかのレベルがある。

 下からホット、ヒート、ファイア、フレイム、ブレイズ。

 ファイアからが一般的な火属性攻撃魔法であることを考えれば、フレイムはその上。

 カイルがイストファと会った時に使用していた「フレイム」も本来はそのレベルの魔法であったわけだが……カイルの著しい魔力の成長は、ついにその「フレイム」魔法を使用可能になるまでに至っていた。

 故に、黄ビッグスライムが抵抗する事も出来ずに焼け溶けたのは……決して、不思議な結末ではない。

 魔石をその場に残し消えた黄ビッグスライムを見て、全員が歓声をあげる。


「やった! やったよカイル!」

「流石ですねカイル!」

「うわあ、これでこの階層クリアですか!? クリアですよね!」


 各々の喜びようを見せるイストファ達にカイルも少し照れたように笑う。

 魔法士としての自分の成長を見せることが出来たのもそうだが……それを素直に喜べる仲間がいるという嬉しさを、再度噛み締めたのだ。


「褒めても何も出ねえよ。さ、魔石を拾って次行こうぜ」


 正直、運の要素が強かった。

 途中でギガアメイヴァに追われていなければ、此処に辿り着くまであと数日……いや、それ以上かかっていたかもしれない。

 だが、たとえ運であろうとも辿り着いた。そして、運だけでない事も充分に分かっている。

 だからこそイストファ達は堂々と小屋へ進み……その扉に手をかける。

 たいした抵抗もなく開いた扉の先には、やはり次の階層への階段。

 ゆっくりとそれを降りていくイストファ達の姿が消えた後、小屋の扉は誰が触れたわけでもないのにゆっくりと閉まり……小屋は、その姿をスッと消失させる。


 マッピングの通用しない、移動する出口。

 それがこの階層の探索を困難にしている原因ではあるのだが……未だ、それを誰も知らない。

 既知などと驕る事の許されない未知は未だ偏在し……いつも誰かを惑わし続ける。

 そうして誰も、何もなくなったその場所に辿り着いたギガアメイヴァは……残念そうにその身体を揺らすと、高速で地面に潜り、その痕跡を土をかけて消し去る。

 その犠牲者が今後出るのかどうかは……今は、誰にも分からない。

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