これは予想だが
「ん、んぅ……」
そんな小さな声が響き、イストファがピクリと反応しベッドの上のドーマへと振り向く。
そこでは丁度、ドーマがハッとしたような顔で起き上がり周囲を見回していたところだった。
「私のメイス……! って、あれ? 此処は……」
「メイスならそっちの隅だ。お前の靴もな」
言いながらカイルが部屋の隅を指差すと、ドーマは少しずつ状況を理解したような顔になっていく。
そしてペタリとベッドの上に座り込むと……安心したような大きな息を吐く。
「……良かった。帰ってきたんですね、私は」
「お帰り、ドーマ」
「お帰り」
「お帰りなさい、ドーマ」
三者三様の挨拶にドーマも少し照れたように「ただいま」と返すが、すぐにベッドに倒れこんでしまう。
「はあ……地獄のようでした」
「何処行ってたの?」
「森の奥ですよ。ほら、町の外にあるでしょう?」
「あ、うん」
言いながらイストファは街の外の森の事を思い出す。
武器を手に入れたらいつか行こうと思っていた森だが……実際に武器を手に入れてからは、まだ行った事が無い。
「そういえば行った事ねえな。お前等、そんなとこ行ってたのか」
「ええ。丁度モンスター駆除の時期らしくて。一通りの修行の後に実技試験だとかって、かなり奥まで進みまして……」
どんよりと暗いオーラすら漂って見えるドーマに「何があったの?」とイストファが聞けば、ドーマはフッと小さく笑う。
「前回か前々回あたりの討伐で討ち漏らしたオーク達が居たみたいで。オークエンパイアが出来かけているのを……どういう嗅覚してるのか、ステラが見つけまして」
「オークエンパイアだあ!?」
「え、何それ」
「ボクも聞いたことないですけど」
「……考え得る限り、オーク関連の災害では最上位から数えた方が近いヤツだ。最低1000体以上のオークと、それを纏めるオークエンペラーによる超大規模集落だ。都市が堕ちるレベルだな」
大失態だぞ……と呟くカイルだが、「あー」とドーマが呟く。
「それなんですけどね。なんか陰謀絡みだったみたいで、ステラが怪しい人間捕まえてました」
「はあ!?」
「いや、私も分からないんですよ。テイマーがけしかけてきたアースドラゴンを斬り飛ばしてましたし。私は私で必死でしたし。なんかいつの間にか全部終わってたといいますか……最後の最後まで何が起こってたのか分かりませんでした……」
イストファ達は思わず顔を見合わせるが……やがて、イストファがカイルに視線を向ける。
「ねえ、カイル」
「なんだ」
「アースドラゴンとかオークエンペラーって、ミノタウロスと比べてどのくらい強いの?」
「オークエンペラーは、ミノタウロスに……まあ、無傷ではないが勝つだろうな。アースドラゴンは、オークエンペラーもミノタウロスも昼飯に出来る。つーか、何が起こってたんだソレは」
「分かりませんってば」
答えるドーマにカイルも「そうだろうな」と呟き頭を掻く。
「なんか知らない所で色々動いてる気がするな。気にはなるが……あんまり首突っ込まねえ方がいいかもしれねえな」
「そうなの?」
「ああ。そもそもアースドラゴン持ちのテイマーなんてのは……あ、テイマーは知ってるよな」
「知らない」
アッサリと首を横に振るイストファに、カイルは「そこからか」とガックリと肩を落とす。
「簡単に言うと、モンスターを仲間に出来る奴だ。なんでもかんでもってわけじゃねえが、とにかく才能がモノ言う職業だな。ただ、ダンジョン探索には向いてねえ」
「え、でもダンジョンなんてモンスターの巣窟じゃないですか」
「ダンジョンのモンスターはテイムできねえらしい。たぶん法則みたいなのが違うんだろうな」
過去、守護者をテイムしようとテイマーが挑んだこともあったらしいが、その試みは全て失敗しているのだとカイルは語る。
「それにだ。強いモンスターは大概デカいが……そんなもんがダンジョンの入り口通れると思うか?」
「あっ」
「なるほど」
確かに、ダンジョンの入り口の大きさを考えればミノタウロスでもやっと通れるかどうか……といったところだろう。
そして通れるサイズで考えれば、ゴブリンやスケルトンが役に立つとも思えない。
「ま、それはさておいてだ。ドラゴンをテイムできるテイマーなんてのは貴重だ。領主どころか国が抱え込む。そんなもんが居たとなると……」
言いかけて、カイルは苦い顔になる。
「……俺絡みかもなあ」
「でもカイルは王子様でしょ?」
「俺を殺したい誰かがいるかもって話だよ」
言いながらカイルは組んだ腕を指で叩く。
「デュークの野郎が来た時から嫌な予感はしてたんだよなあ……たぶん相当釘刺されたはずだが、諦めてねえんだろうなあ」
大きな溜息の後、カイルは全員の顔を見回す。
「……どうする? 聞きたいか? 聞かねえってのも手だ」
「聞くよ」
即答するイストファに、カイルは「おいおい」と唸る。
「多少は躊躇しろよ」
「親友でしょ、僕達」
「あ、私も聞きます」
「ボクもです」
イストファの後を追うように同意するドーマとミリィに、カイルはしばらく躊躇し……やがて、諦めたような表情になる。
「……これは予想だが、俺の兄弟の仕業だろう。1人、やりそうな奴が居る」
第三王子、ヘンドリクソン。カイルが出したのは、そんな名前だった。





