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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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そこは信用してるんですね

しろがねさんからレビューをいただきました!

ありがとうございます!

「今戻ったわよ!」


 そう言いながらステラがイストファ達の集まるカイルの部屋にやってきたのは、丁度一週間が経過した頃の話だった。

 肩に担いでいるのはぐったりとしたドーマであり、どうやら特訓が終わったということらしいが……扉を開けたミリィをそのままにズカズカと入りドーマをベッドに投げるステラを見て、カイルは何とも微妙そうな顔をする。


「此処は俺の部屋なんだが」

「うん、知ってるわよ。でもどうせ此処に居るだろうと思ったし」

「……いや、まあ、いいんだが」

「あの、それでステラさん……戻ったってことは」

「ええ、バッチリよ。頼まれた麻痺治しと、ついでに解毒とかも仕込んでおいたわ」


 なるほど、確かにバッチリではある。神官戦士どころか、神官として最低限必要な技能が全て揃ったと言ってもいい。


「あの、ありがとうございますステラさん」

「別にいいわよイストファ」


 そうイストファに答えながら、ステラは優しげに微笑んでみせる。

 イストファとミリィはつられて笑い、カイルは胡散臭そうな顔をしているが……それはさておき。


「あの子をちょっと手助けするくらい、なんでもないもの。7階層の攻略を手伝えとか言い出したら、断ってたけど」

「いえ、そんな事は言いません」

「でしょ? そこは信じてるわ」


 イストファの返事に満足そうに頷くステラだったが……自分を見ているカイルの視線に気付き、怪訝そうな目を向ける。


「あら、どうしたの?」

「どうもこうも。お前、一応俺等のパーティメンバーなんだろ?」

「ええ、そうね?」

「どのくらいになったら、一緒に行動する気なんだ?」


 その言葉に、イストファもミリィも興味深げな視線をステラへと向ける。

 今の攻略階層は第7階層。一線級と呼ばれるような段階に行ってもなお、ステラは合流する様子を見せない。

 なら、一体何処がステラの求めるラインなのかを気になるのは当然といえたが……ステラはそんな3人の視線に、小さく微笑んでみせる。

 

 そしてその瞬間、3人の視界から消えた。


「!?」


 一体何が。理解の追いつかぬ間に聞こえてきたのは、背後からのステラの声だった。


「これが私と貴方達の今の差ね。どう、イストファ……見えた?」

「……いえ。全く見えませんでした」

「そうね。目が追えてなかったもの」


 正直なのは良い事よ、と人差し指を自分の唇にあてながらステラは微笑むが、3人の中にあるのは戦慄にも近い感情だ。

 カイルとミリィが動きを追えなかったのは、まあいい。

 2人は元々身体能力に関してはあまり高い方ではない。

 だが、魔力が無いせいで身体能力に成長が全振りされているはずのイストファが、ステラの動きを追えていない。これは恐るべきことだ。


 ……つまり、ステラ1人でイストファ達を簡単に全滅させ得る。

 ステラは今、それを証明してみせたのだ。


「これだけの差があるのに、私が同行するのは……貴方達にとって、得かしら?」


 単純に損得で言うならば、得だ。

 ステラという巨大な戦力1つで、今までよりずっと速く、ずっと深くへ潜れるだろう。

 それによって得られる成長も大きいものであるはずだ。

 だが……イストファが、カイルが……そして少し遅れてミリィが首を横に振る。


「いいえ。ステラさんについていくだけじゃ、僕達は強くなれません」

「技術や思考は師匠を見て学ぶって考え方もあるわよ?」

「でもそれでは、ステラさんには追い付けません」


 そう、デュークも言っていたことの意味を、イストファはずっと考えていた。

 ステラのやろうとしている、イストファの育成方針。

 ステラが最低限の事しか教えない理由。


「ステラさんの真似では、僕はステラさんの隣には一生立てません」

「ええ、そうね」


 言いながら、ステラは満足そうに微笑む。


「私の戦い方を教えても、私の劣化品が出来るだけ。それだけじゃない。私の教えた戦い方は、当然私に通用しない。それじゃあ、つまらないのよ」

「とんでもねえこと言ってやがるな」

「そうでもないわよ。私はイストファに、私が認められる男の子に育ってほしいだけだもの」

「それが出来ると本気で思ってるのか」

「ええ。イストファなら、必ず」


 自信満々な表情を浮かべるステラとカイルはしばらく睨み合い……やがて、カイルが小さく溜息をつく。


「……ま、そうかもな。イストファなら、お前に届くかもしれねえ」

「言っておくけど、貴方にもある程度期待はしてるのよ? 1人の男性としてはダメだけど」

「俺もお前みたいな女は御免だっつーの」


 本気で嫌そうな顔をすると、カイルはイストファへと振り向く。


「お前もこの女はやめとけよ? 色々こじらせてるタイプだ」

「あら、失礼ね」

「事実だろ」


 カイルが吐き捨てるように言うと、ステラは肩をすくめ再び3人の視界から消える。

 動きを追えたわけではないが、恐らくはそうだろうと思って見た先……部屋のドアの前に、ステラは居た。


「ま、それについてはいいわ。私もね、貴方達との冒険はちょっと楽しみにしてるところはあるのよ」

「はい、頑張ります!」

「うん、それでこそよ。じゃ、頑張ってね」


 微笑みながらドアを閉め去っていくステラの……今度はちゃんと聞こえる足音を聞きながら、カイルはベッドで気絶したままのドーマに視線を向ける。


「ま、アイツがバッチリって言うならバッチリなんだろう」

「そこは信用してるんですね」


 ミリィが意外そうな表情でカイルに言うと、カイルは重々しい様子で頷いてみせる。


「まあな。俺はアイツはあんまり好きじゃないが、それでもイストファと俺が会う切っ掛けを作ってくれた張本人だからな。それについては、感謝してるんだ」

「そういえば皆さんの出会いについて聞いた事が無かったような気もしますけど」

「お、聞くか? 別に構わねえぜ」


 ちょっと話したかったらしいカイルが、少しばかりカイルの美化の入った思い出話を始めて。

 それはドーマが起きるまで続けられたのである。

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