ボク達の一週間の使い方は
「ん、戻ってきたか。ドーマが居ないって事は」
「えーと……ステラさんが一週間鍛えるって言ってた」
「……大丈夫かアイツ。生きて帰っては来るだろうけど、見分けつかない別人になってたりしねえだろうな」
「え、ステラさんて……あのライトエルフの人ですよね? そこまで無茶はしないんじゃ」
疑問符を浮かべているミリィを見て、カイルは大きな溜息をつく。
「そうか……お前、あの女の事ほとんど知らねえんだよな。言っておくけどアイツ、クソ化け物なんて言葉じゃ生易しいからな」
「ちょっとカイル」
「あー、言葉が悪いのは分かってる。だが、俺は他に表現できる言葉を持ってねえ」
イストファにそう言うと、カイルは自分自身を指差す。
「いいか。例えば俺がアイツと同じ程度の魔力を持ったとしよう」
「うん」
「はい」
「今のところ、魔法対決で勝てるイメージが無え」
その言葉に、イストファは軽く驚きの表情を浮かべる。
カイルが自分の魔法の知識に自信を持っているのも、努力家であるのも知っている。
そして普段から天才と豪語してもいる、そんなカイルが言う言葉とは思えなかったのだ。
「意外そうな顔してるけどな、イストファ。魔法ってのはセンスも大事だが、知識量は何より重要なんだ」
「そうなの?」
「ああ。魔法ってのは正しい知識で正しい運用をしてこそ効果を最大限に発揮する。そして当然だが、手札は多けりゃ多い程良い。でもって、今回の件でアイツは……ステラは、俺より遥かに知識量が多いことが確定してる」
キュアパラライズの事だろうと、イストファはすぐに理解する。
「でも……あれは神官の魔法でしょ?」
「そういう問題じゃねえんだ。なあイストファ。俺がヒールを使わない理由が分かるか?」
「え? あ、でもそういえば……どうして?」
「簡単に言うと、神官の使う魔法は法則が違うんだよ。魔法士の魔法とは違う理で動いてる、独自の系譜だ。これはミリィの呪法も同じだな、本人の適性が深く関係してる」
つまるところ、魔法士の「魔法」と神官の「魔法」、そして呪法士の「魔法」は全く違うものだ。
本人の魔法適性が関係しているからこそ、互いに役割が重複しないとも言える。
「だが、ステラは魔法士の魔法も神官の魔法も使える。それも、世間の常識を超えた範囲でだ。こういうのを、なんて呼ぶか分かるか?」
「……すごい魔法使いとか?」
「賢者とか魔導士っつーんだ。だがまあ……基本スタイルはたぶん剣士だよな?」
「だと思う、けど」
「そうなると、ステラは職業分類としては『魔導剣士』だな。1人であらゆる状況に対応できる、理屈の上でだけ存在してる超人だ。ま、他の武器が扱えねえってのも想像できないから『魔導戦士』かもしれねえけどよ」
つまり、ステラは超凄いということなのだろう。イストファがそう納得して頷くと、カイルが「半分も分かってねえだろ」と呆れたような表情になる。
「え、えーと……その賢者とか魔導士っていうのは、カイルはなれないの?」
「分からん」
「分からんって」
「本人の魔力の質の問題だから、基本的には先天性のものなはずだ。んでもって俺には、神官の魔法を使う適性は今のところ無い」
だが、とカイルは続ける。
「将来、全く可能性が無いというわけでは、勿論無え。何か後天的に賢者の域に届く手段だって、あるかもしれねえ」
「なら、カイルの将来の目標は賢者なんですか?」
「大魔法士だ」
ミリィにそう答えると、カイルは軽く息を吐く。
「さっきも言ったが、魔法士の魔法と神官の魔法に必要な魔力は違うんだ」
「うん」
「でもって俺は、魔法士以外の魔法に魔力を割くつもりは今のところ、ねえ」
「何故ですか?」
「ドーマに任せればいい事を、なんで俺がやる必要があるんだ」
カイルは言いながら、自分を含む3人を順番に指差していく。
「俺達はパーティだろ。それぞれの役割を極める事に専念するべきだ。違うか?」
「うん、といっても……ドーマは僕が情けないのもあって、神官から神官戦士になっちゃったけど」
「どうせ、いずれ神官戦士になってたよ。迷宮武具の神とやらの授ける魔法は、どう見てもそっち系だ」
「あ、あはは……」
確かにその通りだろうとイストファも思う。自己強化魔法の充実っぷりは、まるで神から「前に出て戦え」と言われているかのようですらある。
「そういう意味では、ドーマも迷宮武具を持つべきだと思うんだけど」
「そこまで育ててる余裕はねえよ。お前のを最優先で育てないといけないしな」
「うっ……」
「此処から先、いつまでも黒鉄の防具じゃいられねえぞ。お前が崩れたら俺達が全員崩れるんだ」
「うん……分かってる」
そう、イストファの役割は最前線に立ち、出来るだけ長く健在であり続ける事だ。
その為には、防具をもっと進化させていかなければならないのは当然だ。
「という事は、ボク達の一週間の使い方は決まった感じですかね?」
「ああ」
ミリィにカイルが頷き、そんな2人の視線を受けてイストファも頷く。
「魔石集め……だよね」
「そうだ。出来るだけ良質な魔石を集めて、ドーマが戻ってきた時にまとめて合成する」
「よし、なら早速行くべきですよね。どの階層に?」
ミリィに聞かれたカイルはニヤリと笑うと、その答えを口にする。
「決まってる。俺達が行くのは第3階層……末路の海域だ」





