まるで、天然のトラップ
なぁがさんにレビューいただきました。
ありがとうございます!
「あっぶねえ……そういうことかよ」
「ど、どういうことですか?」
ドーマとて、警戒していなかったわけではない。
なのにアメイヴァはいつの間に足元にいたのか。それが分からなかったドーマはカイルに問いかけるが、カイルが地面に目を向けているのを見て「まさか」と呟く。
「……たぶんだが、アメイヴァは地面の中にいる可能性がある」
「……なんて厄介な」
そう、この極彩色の楽園はあちこちに池や沼のようなものがある。
実際にスライムがそうである事からも、アメイヴァも当然そこから出てくるものと誰もが思い込む。
しかし、実際にはアメイヴァは不定形の粘液のようなモンスターだ。地面の土の、その僅かな隙間に潜んでいる可能性だって充分に有る。
「見てみろ。穴が開いてやがる」
「ほんとだ……気付かなかった」
言われてみると、確かに地面に小さな穴が開いている事にイストファ達は気付く。
そして同時に、その恐ろしさにも気づきゾッとする。
こうしてアメイヴァ達は、獲物が来る事を待っているのかもしれない。
この草も生えた場所で、こんな小さな穴の存在にどれ程気をつけられるだろうか?
スライムの存在や沼から出てくるかもしれないアメイヴァの事も考えれば、最悪戦闘中の避けられないタイミングで出てこられても不思議ではない。
「まるで、天然のトラップですね」
「実際トラップなんだろうよ。ったく、嫌になるぜ」
「……これからは地面にも気をつけないとね」
「下ばっかり向いて歩いてるわけにもいかねえがな」
言いながらカイルが示すのは、遠くに点々と存在する木々だ。
青々と葉の茂った木々だが……カイルの言いたいであろうことを、全員がほぼ正確に理解する。
あそこにもアメイヴァが居て、落ちてくる可能性もある。つまりは、そういうことだ。
「……木には近づかないようにしようか」
「賛成です」
「ボクもです」
「ま、それが無難だな」
頷き合い、イストファ達は再び歩き出す。
先程よりも慎重に、足元にも注意を払いながら。そうしてみると、怪しい穴が点在している事も分かってくる。
……かといって、その全ての穴をつついて回るわけにもいかない。
たとえ其処からアメイヴァが奇襲を仕掛けてくるかもしれないと思ってはいても、アメイヴァをそれで全滅させられるはずもない。
此処はダンジョン。通常の環境とは違い、モンスターに全滅などという概念は恐らく存在しないからだ。
「……怖いね」
「ええ。ですが、進むしかありません」
イストファの呟きに、つい先ほど襲われかけた事を忘れられるはずもないドーマが答える。
充分以上に気をつけながら歩く7階層は、1階層のような不思議な力が働いているわけでもないのに視界が狭まっているように感じていた。
極彩色の楽園。それは人間にとっての楽園ではなく、この階層に蠢くモノ達の楽園。
此処は間違いなくスライムやアメイヴァにとっての理想の狩場であり、人間達にとっては、そこを脅えながら通る地獄でしかないのだ。
「右っ!」
ゴポリ、という音を察知したイストファが叫び、カイルが杖を向ける。
そこには小さな穴から黄色のアメイヴァが顔を出しており、薄く輝いていた瞬間だった。
「フレイムッ!」
ゴウ、と音をたてて放たれるカイルの炎の魔法が地面をなめるように黄アメイヴァを焼くが、それに負けぬとでも言うかのように黄アメイヴァが電撃を放つ。
「ぐあっ……!」
流石に光の速さにイストファが勝てるはずもなく、肩に電撃を受けたカイルが後ろへと倒れこみミリィに支えられる。黄アメイヴァはすでに消滅したようだが、それで何も問題がない……などと言えるはずもない。
「ヒール! 大丈夫ですかカイル!」
「問題はねえ。くそっ、ボルト系列の魔法でよかったぜ。サンダー系列だったらヒールじゃ治らねえ痺れが残ったかもしれねえからな」
相手を砕くボルト系の電撃魔法とは違い、焦がしたり痺れさせたりすることを主とするサンダー系の電撃魔法。もしそれであった場合、カイルの言う通りヒールでは治らない。
「う……すみません。麻痺を治す魔法は授かっていないんです」
「キュアパラライズはなあ……迷宮武具の神に期待するのは無茶だろ」
今までドーマが授かっている魔法からしても、迷宮武具の神ニールシャンテは武器や肉体の取り扱いをどうにかする魔法を中心に授ける神だと考えていい。
それはそれでかなりレアな……神官戦士には喜ばれそうな神だが、今だけはカイルとしては舌打ちしたい気分でもあった。
「居るとは思ってたが、普通に黄色も出てきやがるな。一応聞くがイストファ、あれに対応出来たりは」
「流石に無理かな……正面から来たら短剣で防げるかな、とは思うけど」
「だよな。光の速度超えろってのは……あ、いや。ステラなら防げそうな気もするな」
「僕もそう思う」
この場には居ないステラの事を思い浮かべながら心通じ合うイストファとカイルではあったが、それはさておき。
「とにかく、ヤバくなったら即座に帰還の宝珠で帰るぞ。この階層……思った以上に厄介だ」
「うん、そうしよう」
そうして再度進み始めたイストファ達だが……おおよそ数時間後に、色付きアメイヴァやスライムの大群に囲まれ慌てて撤退を余儀なくされる事になる。
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