1階層ほど大変じゃねえよ
「チッ、早速か!」
現れたスライムの色は白っぽい半透明が2、青が1、茶が1。大きさは人間の大人の頭よりも二回りほど大きめといった程度。
「青と茶に気をつけろ!」
「うん!」
答えながらもイストファは走り、跳んできた白スライムを真っ二つに斬り裂く。
ボスン、と音を立てて転がる白スライムを気にする様子もなくもう1体の白スライムはその隙にイストファの横を通り抜け、青スライムと茶スライムが薄く輝くと同時に青スライムが氷塊を、茶スライムが岩の槍を放つ。
「くっ……!」
避ければカイル達に向かう。それが分かっているからこそ、イストファは瞬時に迎撃を選択する。
まずは一番危険そうな氷塊に小盾を投げる。
氷の魔法はカイルもよく使うが、単純な氷系統の「アイス」だけではなく氷結効果のある「フリーズ」がある事を知っているが故だ。
だが幸いにもアイス系統の魔法であったらしく、イストファの小盾とぶつかりあった氷塊は打撃音をたてながら別方向へと弾かれていく。
そして岩槍は小盾の投てき動作で僅かに対応が間に合わず、それでも真正面から短剣で迎撃する。
ガヅンッと響く衝撃に腕に痺れが伝わり、しかし一瞬遅れて岩槍が崩れるように霧散する。
「これは……」
魔法が壊れたのだと気付いたのは、その瞬間。第2弾の魔法が飛んできたのも、その瞬間。
しかしほぼ本能的に理解したイストファは、小盾を拾わないままに走る。
向かい来る氷塊は僅かな抵抗の後に真っ二つになり、岩槍もまた同じ。そうして霧散していく魔法を振り返る事もなく、イストファは青スライムを斬り裂く。そして一瞬遅れて残る茶スライムをカイルの放った炎の矢が燃やし蒸発させる。
白スライムはドーマが叩き潰し、もうその姿はない。
「……ふう」
転がったスライムの残骸を見下し、イストファは軽く息を吐く。
魔法を斬れた……というよりも、魔法に触れた瞬間に短剣が魔力を吸い取った。
その結果「斬れたように見える」のだろうと、イストファはそう感じていた。
詳しい理屈はカイルに聞かないと分かるはずもないと知りつつも、恐らく正しいだろうと……そう直感していたのだ。
「ねえカイル。スライムの心臓って何処だろ」
「魔石か? いや、俺も知らねえけどよ……」
そんな事を言っている間にも「時間切れ」になり、イストファの近くには魔石が1つと四角い白と青のキューブのようなものが1つずつ。ドーマの近くにも白のキューブが1個転がる。
拾い上げてみると、キューブのようなものはフニフニと柔らかくも反発する不思議な感触だ。
「……何だろ、コレ」
「何でしょうね」
「スライムの欠片とかでしょうか?」
戻ってきたイストファから受け取ったミリィと3人合わせてイストファ達はフニフニモチモチとキューブに触れるが、カイルは「あー」と分かったような声をあげる。
「スライムキューブか。そうか、こうやって調達してたんだな」
「スライムキューブ……見たまんまだね」
「おう。まあ……それなりに高級品だな」
スライムキューブを大量に使用したベッドの類などが存在する事を思い出したカイルが「考えてみると微妙だよなアレも……」などと呟くが、イストファ達に分かるはずもない。
「ま、モノ好きな貴族用の商品にな、使われるんだ。売れると思うぜ」
「そっか」
なら魔石を探す必要もないかと納得したイストファだったが、ふと思い出したように短剣に視線を向ける。
短剣の柄の魔石は先程よりも少し……ほんの少しだが、輝きを強めている。
「……マジックイーター、か」
これがあれば、イストファの魔法に弱いという弱点は僅かだが改善される。
それを強く自覚して、イストファは再び7階層の先へと向き直る。
広い7階層。此処は、イストファが新しくなった短剣に……マジックイーターを使いこなす為の場所にもなるだろう。
「あ、そういえばカイル」
「ん?」
「どっちに向かって歩けばいいのかな」
「知らん」
「え」
「地図が売ってない。この階層の何処かにある『家』がそうらしいがな」
「ええー……」
つまり家とやらを探して歩かなければならない。それを理解したイストファが微妙な表情になるが、カイルは「1階層ほど大変じゃねえよ」と肩をすくめる。
「少なくとも、目隠しされてるわけじゃねえからな。何とかなるだろ」
「それはそうかもしれないけど……」
でも1階層に剣の効かないモンスターは居なかったよ……とは言わない。
少なくとも1階層のような「目隠し」がないのであれば、元来た場所を見失わないだろうことだけは確かだったからだ。
「じゃあ、行こうか」
イストファは言いながら仲間達を振り返り……ハッとしたようにドーマへとタックルを仕掛ける。
「は!?」
突然の事に驚いたドーマがイストファと共に転がっていったその直後、ドーマの居た場所で何かがゴポリと音を立てて盛り上がっていた事に全員が気付く。
「え……!」
「アメイヴァ……! どけミリィ!」
「は、はい!」
パタパタと慌てたように走るミリィをアメイヴァがぬるりと追いかけようとして……しかしカイルの放ったフレイムの魔法で蒸発した。





