こいつが有名税とかってやつかもな
それからは、特に絡まれる事もなくイストファとミリィは冒険者ギルドへと辿り着く。
まだ昼には遠いものの、朝日の昇りきった時刻の冒険者ギルドはごった返していて、色んな冒険者達がそれぞれの目的の為に動いていた。
「護衛依頼、あと前衛が2人足りない! 期間は1か月、報酬は交渉アリだ!」
「回復と解毒の出来る神官居ないか! 装備は資金補助できる!」
仲間を探す声も響いていて、ソロの冒険者に声をかけている者もいる。以前イストファ達が倒したミノタウロスの斧も相変わらず飾られていて、見上げながら何かを話している者達もいる。
「えーと、カイル達は……」
「あ、いましたよ」
ギルドのカウンターの所にいる2人を見てミリィがあげた声に、ドーマが振り向く。
どことなく困ったようなその笑みを見て、何かあったのかと怪訝な顔になった2人だったが……カウンターに載せられている品々を見てミリィが「あー……」と分かったような声をあげる。
「そっか……そうなりますよね」
「え? どういうこと?」
「いいですから。行きましょ」
ミリィに背中を押されるようにしてイストファがカウンターに行くと、カイルが「おう、来たか」と声をあげる。
「あ、うん。おはよう2人とも……どうしたの?」
カウンターの上に載せられているのは兜とナイフ、ペンダント。
魔石もゴロゴロと混ざってはいるが、どうしてもその3つが目立つ。
「どうしたっつーかよ。確認をとりてえんだってさ」
「確認?」
イストファが疑問符を浮かべると、職員が「あのですね」と声をあげる。
「これ……サラディア八剣の装備品とされるものと酷似しているのですが……」
「えっと、だとしたら何か問題だったんでしょうか?」
「問題というわけではないのですが……まさか同時に3つも提出されるとは思っていなかったもので、その……」
「ま、気持ちは分かるぜ。ただでさえ出現率の低いレアモンスターが3体だ。俺だってマジかって思う」
実際会ったのは3体どころじゃねえがな、とカイルは心の中だけで愚痴る。
会うだけなら8人全員に会ったし、ノーツと初めて会った時にノーツが倒してもいる。
実際の遭遇率で言うのであれば、信じられない程の高さではある。
「サラディア八剣の装備は……まあ、これは本物ではなくレプリカみたいなものですが、人気があるんです。お売り頂けるのであれば、高値で購入させて頂きます」
「別に構わねえよな?」
「うん」
「はい」
「ええ」
3人の返事にカイルも頷き、職員は計算の後にお金の入った袋を4つカウンターに並べる。
4人パーティだと分かっているからこその手慣れた動きだが、それを各自が取ったのを確認してから「そういえば」とイストファに視線を向ける。
「6階層を攻略されたというお話も伺いました。おめでとうございます」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ダンジョン対象の依頼も多数ありますので、受けてくださるとランクアップの査定にもプラスになります。気が向いたらお願いしますね」
「気が向いたらな」
イストファが何かを言う前にカイルが割り込んで答えると、職員は「ええ、是非に」と返す。
「さ、用は済んだ。行こうぜ」
「え、あ、うん」
カイルに背を押されて歩き出すイストファだったが……周囲から聞こえてくる声に気付く。
「アイツが例の……」
「そうは見えねえが……」
いつも落ちぶれ者達に向けられていたような視線ではない。
どことなく、くすぐったいような……興味の視線。
それはイストファの顔見知りではない冒険者達から向けられているようにも感じた。
一体なんだろうと思う間にもカイルに冒険者ギルドの外まで押し出され、そこでカイルが「ふう」と息を吐く。
「ったく、こいつが有名税とかってやつかもな」
「有名税?」
「おう。要はアレだよ。他から来た連中がミノタウロスの斧見てお前の話聞いて、どんな奴かって値踏みしてんだ。気にすることじゃねえ」
「別に僕がってわけじゃなくて皆の戦果だと思うんだけど……」
「実際どうかなんてのは、どうでもいいんだよ」
カイルは言いながらハッと笑う。
「それにミノタウロスを耐えられる前衛ってのはデカいからな。普通は真正面からぶつかりゃ真っ二つだ」
「耐えたかどうかってのも……」
「だから言ってんだろ。周りにとっちゃ、どうでもいいんだよ」
カイルにグリグリと拳を突き付けられ、イストファは「うーん」と声をあげる。
「なんか良くないと思うなあ、そういうの……」
「まあ、お前はそうだろうな」
「でしょうね」
「です」
苦笑しながら頷き合う3人にイストファは思わず「え?」と3人を見回すが、何やら分かり合った風の3人はそれ以上は答えてくれない。
「ま、それはいいだろ。お前等、準備は出来たのか?」
「各自の保存食の類を除けば大丈夫だと思いますが」
「それは途中で買う感じですよね?」
「あ、そっか。それも必要だよね」
持っている保存食は6階層の探索で食べきっている。7階層の探索がどれほど続くかは分からないが、必須であった。
「そんじゃあ、そこで買い忘れがないかも確認して行くとすっか!」
カイルの号令に全員が応え、ダンジョンに向けて歩き出す。
「どっちかっていうと、僕達の中心はカイルだよね」
「何言ってんだお前……イストファに決まってんだろ」
「えー? カイルだと思うけど」
「イストファだろ」
そんな事を言いながら歩いていく2人を後ろから見ていたミリィが、ポツリとこぼす。
「……ほんと仲良いですよね、あの2人」
「ちょっと羨ましいくらいですね」
そんな話を背後でされているとは……2人が気付くはずもない。
ともかく、第7階層の探索はこうして和やかに始まっていくのだ。





