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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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ボクもそう思ってるんですけど

 迷宮都市の人の入れ替わりは激しい。

 まずフィラード王国ではエルトリアだけが迷宮都市ではないというのが理由の1つ。

 稼げない冒険者やエルトリアが肌に合わない冒険者は他の迷宮都市に移動することもあるし、逆に他の迷宮都市に不満を持った冒険者がエルトリアに移動してくる事もある。

 依頼を中心に受けている冒険者がフラリとエルトリアにやってくる事も、その逆も当然ある。

 

 ダンジョンだけが冒険者の全てではない。それが全ての答えであるわけだが……それはイストファの腕で輝く銅の腕輪を見ても良く分かる事だ。

 ダンジョン内部を対象とした依頼を受けていれば、あるいはその色が変わっていた可能性もあるだろうが……イストファの頭には、そんなものは今のところ浮かんではいない。

 ある意味で不器用、されど純粋。それが彼を知る人間からのイストファという人間の評価になる。

 当然今もイストファの頭には「知らない人がまた増えたなあ……」という程度しかない。

 通りを走っていくイストファの姿は「元気な冒険者の少年」そのもので、彼がちょっと前までは落ちぶれ者同然の生活をしていたなどと聞かされて信じる者は中々居ないだろう。

 イストファ自身、すでにその過去は乗り越えていて……路地裏に目を向ける事は、もうほとんどない。その薄暗い場所を恐れる時期は、通り過ぎたのだ。


「カイル達、もう待ってるかなあ……」


 フリート武具店に先に行ってくるとは伝えてはいるものの、カイルのことだ。

 寄り道などしないだろうし、すでに冒険者ギルドで「遅い!」と愚痴りながら不機嫌な顔をしていてもおかしくはない。

 当然イストファもそれは予想出来ていたから「一緒に来る?」と誘ってはみたのだが……6階層で手に入れた戦利品の事もあるし先に行ってやっておく、と断られてしまったのだ。

 ドーマも消耗品を幾つか見繕っておきたいと言っていたし、ミリィも店に寄ってくると言っていた。ついでに言うと、ステラは今朝から何処かに出かけてしまっている。

 結果としてイストファは1人で行動していたわけだが……そこに聞こえてきたのは、よく見知った声だった。


「だから困ります……!」

「いいじゃないか。君、魔法士だろ? 俺等、丁度魔法士が抜けててさ。色々合うと思うぜ」

「だからボク、もうパーティ組んでるんですってば」


 イストファ達より多少上の年齢であろうと思われる冒険者達に腕を掴まれていたのは……ミリィだった。聞こえてきた会話だけでも困っている現場なのだろう事が理解できたイストファは、慌ててミリィの元へと駆け寄っていく。


「ミリィ!」

「あ、イストファ!」


 必死な様子で腕をブンブン振って引き剥がしたミリィはサッとイストファの後ろに隠れ……イストファもミリィを庇うように冒険者と正面から向かい合う。


「おい、お前なんだよ」

「僕はパーティの仲間です。ミリィに何の用ですか?」


 言われて、冒険者のリーダーらしき剣士の男はイストファを値踏みするように見る。


「黒鉄装備か……お前、今何階層だよ」

「7階層ですけど、それがどうしたんですか?」


 アッサリと答えたイストファに、剣士の男の顔が分かりやすく歪む。


「7階層……お前がか?」

「おい、ちょっとマズいんじゃ……」

「もう行こうぜ、リーダー」


 背後の仲間達に言われた剣士の男は舌打ちすると「そうかい」と言い残し逃げるように去っていく。7階層の探索者。エルトリアでなくともダンジョンというものに挑んだ者であれば、その重みは嫌という程によく分かる。

 初心者などというものは通り抜けた、一定以上の実力者。そんなのと争うリスクは、マトモな思考を持つものであれば誰でも避けたいものだ。

 

「ふー……よく分かんないけど引いてくれたね」

「助かりました……あの人達、しつこくて……」

「うん、でも無事で良かった」

「魔法士がどうこうって言ってましたけど、あれどう見ても悪質なナンパでしたし……」


 はぁー、と大きめの溜息をつくミリィに、イストファは苦笑する。

 そう、ちょっと派手な感じの魔法士用のドレスを着ているミリィではあるが、実は呪法士であり……本人申告だと男だ。イストファも最近はちょっと自信がない。たぶん「実は女です」と言われても驚く事無く受け入れるだろう。

 そんな見た目美少女のミリィだからこそ、そういう事もあるのだろうとはイストファにも理解できる。


「もっと別の地味な格好にしてみるとか……がいいのかな?」

「ボクもそう思ってるんですけど……」

「何かあるの?」


 歩き出したイストファの隣に来たミリィが暗い顔になったのを見て、イストファは心配して声をかけるが……ミリィの顔に浮かんでいたのは、諦めにも似た何かである事に気付く。


「……この服、すっ……ごい性能良いんですよ。カイルの財布から予算度外視で選んだだけあって防刃性も耐衝撃も耐魔法も凄いし、軽さも耐久性も凄くて、おまけに汚れを洗浄する魔法までかかってて……」

「えっと……魔法のドレスってこと?」

「ええ、儀礼用って言ってましたけどコレ……全身マジックアイテムなんですよ……普通のローブとか服とは性能が比べ物にならなくて……最近はもう、着るのに違和感もなくて……」

「……カイル達待ってるし、早く行こっか」


 何も言えるはずがない。イストファに何か言えるとして「凄く良く似合ってるよ」くらいしかないのだが……今のミリィにそれを言える程、イストファも非情ではない。

 ちょっと目から光が消えたようにも見えるミリィのその表情が、更に服で引き立てられて美少女っぷりを発揮していたりもしたのだが……それはまた、別の話である。

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