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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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ちょっと、嬉しいです

今日はガンガンONLINE様にてコミカライズの公開日です!

どうぞよろしくお願いいたします!

「……心当たりがあるみてえな顔だな?」

「えっ、あっ、いえ! もう大丈夫……だと思います!」

「もう絡まれた後かよ」

「は、はは……」


 そっと目を逸らすイストファに溜息をつくと、フリートはカウンターに置かれたもう1つの武器……短剣に目を向ける。


「まあ、いい。それより、この短剣だ」

「あ、はい。ドーマは飾りがついただけだろうって」

「フン。ま、あのガキは専門家じゃねえからな。そう判断しても仕方ねえ」

「え。てことは……違うんですか?」

「私には綺麗な剣に見えるけど……」


 横から覗き込んでくるケイからフリートは短剣をヒョイと遠ざける。


「ちょっと、別に触らないわよ」

「そういう問題じゃねえんだ。俺の判断する限りじゃ、コイツはちょっとした難物だ」


 だから離れてろ、と言うフリートからケイは仕方なさそうに離れて……それを確認して、フリートは短剣をカウンターに置く。


「いいか、イストファ。あとケイもだ。今から俺が言う事は、あんまり吹聴する事じゃねえ。それを念頭に置いて聞けよ」

「は、はい」

「うん……でもどうしたのお父さん。それ、お父さんが打ったやつじゃないの?」

「元はな。だが、もう違ぇ」


 そう言うと、フリートは短剣の手前をコツンと叩く。


「……この短剣はな、マジックイーターに進化してやがる」

「マジック、イーター?」

「簡単に言えば、こいつは魔力を吸い取り魔法を斬り裂く剣だ」

「え!」

「んー?」


 驚くイストファと違い、ケイは疑問符を浮かべている。


「それって……ある程度以上の魔法剣だったら普通じゃない? 魔法剣も魔力を使って刀身に魔法的効果を纏わせるのよね?」

「まあな。だがコレがマジックイーター……キラーじゃなくてイーターなんぞと呼ばれてるのはな、全部食うからだ」


 そう、マジックイーターは魔力を見境なしに食う。自分に向けて放たれた魔法も……そして、使用者自身の魔力もだ。


「でも、魔剣は一定量しか魔力を溜め込めないでしょ? いくら見境なしっていったところで、魔剣の許容量以上は出来ないって話じゃなかった?」

「……まあな。だがこれ以上に扱いにくい剣はねえ。嫌だといっても吸いに来るんだからな。下手すりゃ剣のせいで死にかねない。そういう類の剣だ」


 なるほど、それは本当に恐ろしい話だとイストファは思う。

 だが、そこでイストファは「あれ?」と声をあげる。


「……でもカイルもドーマも触ってたけど、どうして気付かなかったんでしょう」

「ん? そうなのか?」

「はい」


 そんなわけがない、と今度はフリートが疑問符を浮かべてしまう。

 マジックイーターは見境なしだ。

 いくら武器に関してカイルやドーマが素人だといえ、魔力を吸われれば普通ではないと気付くはず。

 事実、フリートは短剣に魔力を吸われて「そう」だと気付いたのだ。


「……」


 フリートは短剣に触れ、そして軽く持ち上げてみる。


「ん……? 今度は吸われねえな……?」

「ほらー、お父さんの間違いだったんじゃないの?」

「そんなはずはねえと思うんだが……」


 首を傾げながらフリートは短剣をカウンターに置き軽く息を吐く。


「えーっと……それで、僕がこの剣を使うのは問題なんでしょうか?」

「いや、特にねえな」

「え?」

「え? じゃねえよ。こんなもんぶら下げて歩いてきたくせに何言ってやがんだ」

「あー……」


 言われてみれば、イストファは宿からこの店まで、短剣を提げて歩いてきているのだ。

 問題があれば、その間に何か起こっているはずだった。


「これは俺の想像だがな、元から魔力のない奴にはマジックイーターは無力なのかもしれねえ」

「そうなんですか?」

「俺の想像だよ。ま、もしそうだとすると……この短剣は、お前にピッタリに進化したとは言えるな」

「僕に、ピッタリに……」


 それは、とても嬉しい言葉だった。

 この短剣は、イストファが最初に手に入れた一振りだ。当然愛着もあり……それがまるで自分専用のような武器になったと聞けば、喜んで当たり前だ。


「えへへ……ちょっと、嬉しいです」


 同時に、言葉には出さないものの……なんとなく、ノーツをこの短剣に感じていた。

 勿論、それは単なる感傷に過ぎないのかもしれないが……自分に力を与えてくれるような気すらしたのだ。


「それとな。その短剣も魔力を吸う以上は当然『放出方法』があるはずだ」

「放出方法……ですか」

「そうだ。たとえば普通の魔剣は古代文字なんかで刻んだりして用途を指定するわけだが……」

「……ないですね」

「ああ。ねえな」


 そう、刀身は綺麗な物で……何処にも古代文字のようなものは刻まれていない。


「……それ使えないと、何か問題とかってありますか?」

「んー……ねえ、とは思うが。まあ、気に留めてはおけよ」

「はい」

「よし」


 頷くイストファもフリートも頷きで返すと、壊れたファルシオンを持ち上げる。


「で、コイツはどうする。直すってのは無理だぞ。刀身は打ち直しだし、柄もあっちこっちガタガタだ。たぶん作り直しになる」

「う、うう……」


 どうしよう、という顔のイストファに、フリートは苦笑する。


「……預かっておいてやるよ。師匠から貰った記念の品だもんな、納得いく答えが出たら言いに来い」

「はい……えっと、ありがとうございます」

「気にすんな。それより7階層、気をつけな」

「分かりました! 行ってきます!」


 走り出ていくイストファを手をひらひらと振って見送りながら、フリートはククッと笑う。


「行ってきます、だってよ。此処はお前の家かってんだ」

「それだけイストファ君が心を許してくれてるってことだよ」

「そこから先に進む気配は微塵もねえがな」

「もうっ、お父さん!」


 そんな会話をしているとは想像すらしないままに、イストファは集合場所の冒険者ギルドに向かって走っていく。

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