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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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俺は信じてるぞ

お待たせいたしました! コミカライズ続報です!

公式アプリ様にて新連載攻勢第3弾として告知されておりますが、

「金貨1枚で変わる冒険者生活」、1月26日よりガンガンONLINE様にて連載開始です!


担当は月島さと先生です。

……実は私、こっそりファンだったんですよ。


書籍版をお持ちの方はすでにご存じの「あの子」のイラストも公開されていたり……。

というわけで、合わせてよろしくお願いいたします!

 このままでは勝てない。

 イストファが目の前の幻影人と……ダダンと打ち合って感じたのは、そんな確信めいた分析だった。

 いや、分析と呼ぶのは少しばかりおこがましいだろうか。

 何故ならイストファには、カイルが持つような冷静さと知識、思考に裏打ちされた分析能力は無い。

 あるのはただ、これまでの戦闘の経験と……持たざる者が持つ、脅えにも似た、多少の直感じみた何かだけ。

 しかしそれらは、イストファに「このままではダメだ」と明確に伝えてきていた。

 

 目の前にいるのは、恐らくはミノタウロスと同じ。

 たとえ此方が幾度となくダメージを積み重ねようと、一撃でひっくり返してくるような力を持っている。それが、今までの打ち合いで理解できてしまったのだ。

 だからこそ、イストファは打ち合いを繰り返しながら考える。

 必要なのは、この状況を自分の有利に傾ける為の一手。

 そしてそれは、自分の手札に既にある事も分かってはいた。


「やるしかない……必殺剣を……!」


 どうすればいいかは分かっている。

 どうやればいいかは分かっている。

 だが、これまで一度も成功していない。

 当然だ。そう簡単に出来るものであるなら、ノーツは必殺剣などと呼ばなかっただろう。

 伝えた程度で誰にでも出来るものであるのなら、ノーツだけではなく誰かが気付き、技として広く伝わっていた事だろう。

 そうではないからこそ、伝わっていない。頭で考えて出来る程、体系化されていないし体系化できない。

 そんなものを、ここでモノにするしか……勝つ方法は、ない。


「潰レロ! 砕ケ、消エヨ!」

「うっ……!」

「イストファ! くそっ、ファイアボール!」


 ダダンの振るう大剣にイストファが弾き飛ばされ、近くの家の壁に叩きつけられる。

 その2人が離れた隙に叩きこんだカイルの火球は、ダダンの突き立てた大剣に防がれ、その威力の大部分が減衰してしまう。


「くそっ、こいつ……!」

「やめとけよ。サラディアの傭兵にとって、魔法との戦いは嫌って程身に染み付いたもんだ。これ以上やると、反撃が飛んでくるようになるぞ」

「ああ!?」


 肩を叩かれたカイルの振り向いた先には、ノーツの姿。ノーツはそのままカイルの肩を引いて近寄ってきていたドーマへと突き飛ばし、その場に立つ。


「まあ、イストファに任せておけよ。どうしてもダメだって判断できるような……そんな時は、オレが助けに入るからよ」

「はあ!? なんだそりゃ、お前何考えて」

「黙れよ」


 抗議しようとしたカイルの声は、一瞬漏れ出た殺気に止まる。

 脅しではなく、まるで此方を本気で殺しに来るかのような殺気の放ち方に……黙らざるを、得なかったのだ。


「もうすぐ分かるんだ。余計な茶々入れるんじゃねえよ」

「分かる、だと……お前、何か企んで……!」

「黙れって言ったろ」


 振り返る事すらしないまま、ノーツは背後へと殺気を放つ。

 そのあまりの濃厚さにカイルだけではなく、ドーマも……そしてミリィも動けなくなる。

 ミリィの呪法にも似た……いや、確実に違うのに同じように感じる、濃厚な……あまりにも深い殺気。執念、妄執。そのようなものすら感じられたのだ。

 死の恐怖。黒い感覚。そう呼ばれるようなモノが、3人の肌に確かに触れていた。


「いいから見てろ。信じてやれよ。俺は信じてるぞ」


 信じる。綺麗だ。本当に綺麗な言葉だ。

 空虚ではない。本気で言っているとカイル達にも分かる。

 なのに、どうしてこんなに危ういのか。

 それが分からず、嫌な汗が滲んで。けれど、イストファはそれに気付かない。

 ガイン、と。重たげな音が響く。響く、響く。

 剣戟と、蓄積していく疲労。重量級の打撃が乱舞する戦いは、イストファに静かにダメージを蓄積させていた。


「フゥー……フッ、フゥ。ダメだ、こうじゃない……!」


 何度か見たノーツの必殺剣を再現しようとして放った斬撃は、どれも至らなかった。

 自分でもかなり良いと思った斬撃は出せた。だが、違うと分かる。

 そうではない。そうではないと分かるのだ。


「死ネ……!」

「嫌だ!」


 ガイン、と。2つの剣がぶつかり合う。ビリビリと響く衝撃が腕から肩へ、そして全身へと通っていく。

 腕が重い、肩に何かがズシリと載ったような感覚がある。

 息は自然と荒くなり、思考が鈍っていく。

 あと何度、剣をマトモに振るえるかも分からない。

 それでも、やるしかない。


「うああああああああ!」


 走り、剣を振るう。再び、重たい剣戟音が響いて。


「……ダメ、か。そうか、違ったのか」


 ノーツの瞳から、期待の色が薄れ消えていく。

 剣を握る手が一瞬緩み、その口からは小さな溜息が漏れる。

 きっともうダメだろう。この戦いには勝つかもしれないし負けるかもしれないが、もう興味はない。

 せめて、此処まで一緒に戦った情けで助けて……それでこの関係も終わりにしよう。

 そんな事を考えて、ノーツは剣を握る。そして、一歩踏み出そうとした、その瞬間。

 ザワリと直感めいたものを感じ、その瞳は驚愕に見開かれた。

 

 イストファの姿が、一瞬……ほんの一瞬だが、確かにノーツの視界から消えた。

 それは地を蹴り急加速したが故の、そしてノーツが注視することをやめていた事による油断故の視界からの消失。しかし、そうであっても確かにイストファはノーツの視界から一瞬消えた。


 その一瞬の後に響いたのは、キイン……という軽やかな音。

 まるで鈴の音のような、そんな鮮やかで美しい響き。


「……!」


 視線を向けた先には、深々と斬られノイズとなり消えていくダダンの姿。

 そして……振り抜いた剣を構え立つ、イストファ。


「ははっ、マジかよ。この土壇場で、そんな……ははっ、はははっ!」


 地面に落ちる兜が転がる音と共に、イストファは糸が切れたように座り込んで。

 そんなイストファに、ノーツはカイル達が駆け寄ろうとするのを置き去りに走り寄り体当たりして押し倒す。


「う、うわっ?」

「はははははは! お前、お前! なあ、おい!」

「え、ええ? どうしたの!?」


 困惑するイストファの頬をペシペシと叩きながら、ノーツは笑う。


「どうしたの、じゃねえよ! ははは! 分かってねえのか!? なら教えてやるよ!」


 イストファに跨ったまま、ノーツは嬉しそうに笑う。


「俺の剣は……必殺剣の継承は、此処に成った。おめでとう、イストファ。俺が教える事なんて、もう何もねえよ」


 そう言うと、ノーツはイストファに伸し掛かるように倒れこむ。


「ああもう、愛してるぜイストファ! キスしてやりてえくらいだ!」

「おい何してんだテメエ!」

「そうですよ、ちょっとやり過ぎです!」

「え、どうすれば!? これどうすればいいんですか!?」


 カイルとドーマがノーツを引っ張り、ミリィがオロオロする。

 戦利品だけで言えば手に入れたのは暗殺用ナイフが1本、兜が1つ、そしてペンダントが1つ。

 しかし、それ以上のものを手に入れたと……そう言い切れる戦果だった。

・ノーツの必殺剣

その時点の自分に可能な「最高の一撃」を意図的に繰り出す技。

ゲーム風に言えばクリティカル率100%固定みたいな感じ。

最強には程遠いですが、イストファが強くなればなる程に真価を発揮していく「成長する必殺技」でもあります。

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