カイル達を僕は信頼してる
そんなドーマの不安を笑い飛ばすかのように、6階層の攻略は順調になった。
イストファとノーツの剣士2人の超攻撃的な壁は予想以上に厚く、近寄る幻影人をあっという間に斬り裂いていく。
「よーし、酒場に到着だな」
「うん。ノーツ、どうする?」
「決まってる。俺達がとにかく突っ込んで場を荒らす。仲間が信頼できるなら、後はそれでどうにかなるが……どうだ?」
酒場の前。リベンジにやってきたその場所で、イストファはカイル達を振り返り頷く。
「大丈夫。カイル達を僕は信頼してる」
「そうか。なら、問題ねえな……行くぞ!」
「うん!」
観音扉を蹴破るようにして突っ込んだイストファとノーツに、酒場にいた幻影傭兵達が一気に立ち上がる。
「盗賊カ!」
「ヤッチマエ!」
「生キテハ帰サネエゾ!」
「はっ、やってみろってんだ!」
獰猛な笑顔を浮かべて突っ込むノーツに並び、イストファもファルシオンを構え幻影傭兵の群れに突っ込んでいく。
そうして暴れ始めたイストファ達に遅れてドーマが酒場に突入し、更に遅れてカイルとミリィが酒場に入る。
「ドーマはこっちを狙う奴の相手! ミリィはイストファと戦ってる奴を呪え!」
「はい!」
「分かりました! その自由を許さない……麻痺の呪い!」
固まったように動きを止めた幻影傭兵をイストファのファルシオンが斬り裂き、横から襲ってきた別の幻影傭兵をイストファは小盾のシールドバッシュで殴り飛ばす。そうしてよろけた幻影傭兵をついでとばかりにノーツが斬り裂いて。
その戦況を見ながら、カイルは自分が使うべき魔法を見定めていく。
とはいえ、この状況を考えれば……あまり打てる手は多くない。魔力を集中し、カイルはその魔法を解き放つ。
「メガン・ボルテクス!」
それは、イストファと初めて会った頃にはほとんど意味をなさなかった電撃魔法。
だが、今は違う。充分な魔力を込めて放たれた電撃は枝分かれし、幻影傭兵達を打ち砕きノイズへと変えていく。
それを合図とするかのようにカイルの方へ向いた幻影傭兵達も、イストファとノーツのコンビの前では中々突破する事は出来ず……僅かに抜けた幻影傭兵の前にも、ドーマが立ち塞がる。
「ファイターズクレスト!」
そして、ドーマの身体を魔力が覆い強化していく。一気に引き上げられた身体能力に振り回される事無く、ドーマは幻影傭兵の剣を丸盾で弾く。
「ヘビーウェポン!」
そして、一気に重さを増したメイスが幻影傭兵を吹き飛ばす。如何に幻影傭兵といえど、僅か1人で今のドーマを抜くのは難しい。
そうしている間にカイルのメガン・ボルテクスの第2射が放たれ幻影傭兵は更に数を減らしていく。
それから僅かな時間もたたない間に酒場の幻影傭兵達は壊滅し、酒場から幻影人の姿は全て消滅する。
「ふう……やったね皆!」
「ああ、おつかれ」
「おつかれさまです、皆さん」
「凄いです、倒せちゃいましたよ!」
喜ぶイストファ達を見ていたノーツも視線を向けられ「ああ、おつかれ」と返し、ガランとした酒場を見回す。その様子を見て、イストファも「あ、そうか」と声をあげる。
「また幻影傭兵が出る前に鍵を探さないと」
「ん、そうだな。つーか、これでハズレとかキツいぞ」
「私はもう鍵を持ってるから、手伝う事がないんですよね……」
「ていうか酒場って、探す場所多すぎませんか!?」
慌てたようにバタバタと酒場の中を探し始めるイストファ達を見て小さく笑っているノーツに、ドーマは近づいていく。
出来るだけ音を立てないようにしたその動きにもノーツは当然のように気付き「どうした?」と声をかけてくる。
「貴方はいいんですか? 鍵、探さなくて」
「オレか? オレは大丈夫だ」
「そうですか」
ということは、鍵をもう持ってるのだろう。
そう判断し、ドーマはノーツの近くに立って……ノーツは、そんなドーマに視線を向けてくる。
「ファイターズクレスト、だったか?」
「え? ええ」
「面白い魔法だな、疑似的にオレみたいな状態になる……まあ、細かく言えば違うが、そういうことだろ?」
「そうですね。私の場合は魔法を使えるので、確かにそういう点では違います」
「そうだな」
そう返すと、ノーツはそのまま黙り込んでしまう。その視線はやはりイストファを追っており……やがてノーツはドーマの視線を煩そうに手で断ち切る動作を見せながら「今度は何だ?」と面倒くさそうに聞いてくる。
「それ程の実力があって、鍵を探す必要もない。そんな状況でこの階層に貴方が留まっているのが疑問でして」
「オレが何処に居ようが自由だろが」
「……まあ、そうですね。ところでご存じですか? 彼、師匠がいるんですよ」
そうドーマが言うと、ノーツの瞳は初めて興味を持ったような色を帯びる。
「へえ、どんな奴なんだ?」
「底知れない人です。ライトエルフなんですけどね」
「武器は?」
「短剣。まあ、魔法も使うみたいですけどね」
「……なるほどな」
ノーツの視線がイストファの短剣に向けられ、納得したように頷く。
「まだあの剣に慣れてない風だと思ったら、そういうことか」
「そこまで分かるんですか」
「まあな」
言いながら再度頷いているノーツに、ドーマは「ああ、でも」と付け加える。
「あの短剣は師匠から貰ったとかそういうのじゃなくて、予算内で買ったらアレになった……らしいですよ?」
「ふーん?」
ノーツの視線はイストファの短剣に固定されたままで。それ以降、ミリィの「ありましたー!」という声が聞こえてくるまで、一言もドーマに反応を返してくる事はなかった。





