いつか誰もが辿り着いて、通り過ぎる場所だ
「って言われてもな。お前、連携とれそうにねえし」
「そうか? オレは上手くやれると思うぜ? イストファとな」
がっしりとイストファと肩をくむノーツにカイルは不快そうな視線を向けて、フンと鼻を鳴らす。
「そういうとこが連携とれねえって言ってんだ。お前、俺達の事視界に入れてねえだろ」
「そんな事はねえよ。ちゃんとイストファの仲間として認識してる。個人に興味があるかどうかなんてのは、全体には影響はねえ。そういうもんだろう?」
「……」
カイルは、ノーツを見極めるようにじっと見る。
実際、ノーツは強いだろう。イストファという実例を見続けてきたカイルにも、そのくらいの判断はつく。自分では判断できないくらいには強いと……そう感じるのだ。
だが、狙いが分からない。それは……非常に怖い事だ。
「……俺達を……イストファを手伝って、お前に何の益があるってんだ」
「益なんかねえよ。気に入るか、気に入らねえか。手を貸すかどうかなんてのは、それだけで判断に足る」
言われて、カイルは頭を軽く掻く。
少なくとも、言葉からも表情からも悪意は見えない。
物言いは自由人そのものだが、言っている事は常に一貫し破綻してもいない。
……つまるところ、今のところ断る理由はカイルの個人的感情以外にはない。
「イストファ、お前はどう思う」
「え、僕? んー……」
肩を組まれたまま、イストファは困ったような表情になり……やがて「悪い人じゃないと思うけど」と答える。
「正直、なんで僕の事をそんなに気に入ってるのかとか、よく分からないし。カイルの事を悪く言われるのは、ちょっと……かなり、嫌なんだけど」
言われてカイルが自慢げな表情になり、ノーツが片眉をあげるが、イストファは気付かない。
「でも、強いのは本当だと思う。だから、手伝ってくれるっていうのは……悪い話じゃないと思う」
「そうか」
それまでとは違い満足そうな空気を纏ったカイルが、そうイストファに頷いてみせる。
「まあ、もうちょっと態度はどうにかしたほうがいいと思うんだけど」
困ったように頬を掻くイストファにノーツはちょっと離れると肩をすくめてみせ、カイルは「おう、その通りだな」と何度も頷く。
「ま、そんなわけだ。手伝ってくれるっていうなら、有難く受けるが……お前、1人なのか?」
「ん? おう。残念な事にな」
「そうか。これから夜だからあまり外には出たくねえんだが……お前、イストファとドーマの2人と組んで見張りって、出来るか?」
「ああ、交代要員か? オレがずっとやってもいいんだぜ?」
「お前を1人で見張りに立たせるほど信用は出来てねえよ」
「違いねえな」
楽しそうに笑うノーツからカイルは視線を外し、イストファとドーマに向き直る。
「そんなわけだ。基本はイストファと俺、ドーマとミリィの組み合わせだ。そこにアイツを加えるが……それでいいか?」
「うん」
「ええ」
「って……アイツ、何処行った?」
視線が外れた僅かな間に居なくなったノーツを探してカイルの視線が彷徨い……すぐに、何かに気付いたらしいイストファの視線を追う。
その先にあるのは、祭壇の前に「出現」した幻影司祭の横に立つ、ノーツの姿。
「アイツ、何やって……!?」
そんなカイルの言葉は、そこで途切れる。
言いかけたその瞬間、幻影司祭が真っ二つになり……ノイズと共に消失したからだ。
そうして残されたのは、振り抜いた剣を鞘へと納めるノーツの姿。
「今のは……一体、何が……いや、斬ったのか?」
「うん。凄い速かった。あと……よく、見えなかった」
「お前がか!?」
王国最強の剣士であるデュークの高速の剣ですら「見た」らしいイストファの言葉にカイルは戦慄するが、振り返ったノーツが「そりゃそうだろ」と笑う。
「そう簡単にオレの技が見えてたまるかよ。こいつは、オレの必殺技だからな」
「必殺技!?」
「おう、必殺剣って言い換えてもいい。オレの剣の全てはこの一撃にあり……ってな」
「なんか凄いね……!」
「お、興味あるか?」
目をキラキラさせるイストファにノーツがニヤリと笑って聞くと、イストファは何度も首を縦に振って頷く。
「難しい話じゃねえさ。いつか誰もが辿り着いて、通り過ぎる場所だ」
「……辿り着いたのに、通り過ぎるの?」
「おう。究極だと思ってた場所が、実はそうじゃないと気付く。それの繰り返しだ。きっと道の果てに辿り着くにゃ、人の寿命じゃ足りねえんだろうよ」
自嘲するように笑うノーツにイストファは首を傾げるが、ノーツはすぐに笑顔に戻る。
「ま、立ち止まってる暇はねえってことさ。後悔しない為にはな」
「……うん」
まだ分からない風ながらも頷くイストファにノーツはそれでも肩を軽く叩いて。
それを見ていたカイルの肩を、ドーマがポンと叩く。
「あっという間に仲良くなってますね?」
「……別にいいだろ」
「顔が不満そうですよ、カイル」
「うるせえなあ、どうせ剣の話は俺には分からねえよ」
ぷいと顔をそむけるカイルにドーマはクスクスと笑い、ミリィと顔を見合わせる。
「まあ、とにかく。あの調子だと最初の見張りはカイル達の番ですね?」





