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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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貴方の隣に立とうと願うのは

 互いの接近までは、ほぼ一瞬。

 だがイストファがファルシオンを振ろうとしたその矢先……イストファは一瞬ドーマを見失う。


「えっ……うわあっ!?」


 気配に気づき振り向いた背後には、完全に体勢を整えたドーマの姿。

 慌てて距離を取ろうとした時には、天地が逆転していた。

 無防備な体制のまま蹴りを受け、イストファはファルシオンを取り落としながら吹き飛び壁にぶつかる。


「い、イストファ君!?」

「大丈夫です!」


 ケイの悲鳴じみた声に起き上がりながらも、イストファはドーマから視線を外さない。


「今のって……投げ、られた?」


 理屈は全く分からないが、いつの間にか投げられひっくり返されていた。

 そうとしかイストファには今の現象を説明できない。

 そして何より、その前の動きは。


「視界と意識から消える、とデュークさんは言っていましたね」

「……やっぱり、さっきのは」

「別に、武術では珍しい技ではないんです。どの流派にもそういうものはありますし、私も当然出来ます。それでもやらなかったのは……」


 ドーマに浮かんだのは、自嘲するような笑み。


「その先に繋がらないからです。私には絶望的に筋力がなかった。メイスでウルフ一匹を殴るだけで腕が痺れる程にね」


 それは、イストファも覚えている。

 初めて会った頃、ドーマはイストファよりもずっと上手く戦えていたが、打撃の衝撃で腕が痺れてメイスを継続して振るえる程ではなかった。

 ダンジョンでの成長を経て、その弱点はすぐに消えていったので最近は思い出す事もなかったのだが……。


「私には決定力がない。イストファ、私ではどうやっても貴方にはなり得ない」

「それは、でも」

「ですが、私は貴方にはなれない私になれる。いきますよ! ヘビーウェポン!」


 速度を落とさないままに走り来るドーマを迎え撃つべく、イストファは拳を握り……しかし、ぶつけた拳は痛みと共に弾かれる。


「うっ……!?」

「忘れましたか!? 今の私が何を手に着けているのかを!」


 ドーマが着けているのは、先程フリートから受け取っていた重たげな手袋。

 ということは、あれは。

 

「そうです、これは武器です。内部にミスリルの細かい鎖を編み込み魔法の伝導率を高めています」


 ミスリルは軽い。しかし、武器を重くするドーマのヘビーウェポンを使えば……そこには確かな重みと、それによる打撃力が加わるのだ。


「先程のファイターズクレストは、魔力を身体能力の強化に回す魔法です。単純に力で及ばない私でも……これだけの魔法を使えば、こうなれるんです」

「うん……凄い。凄いよ、ドーマ」


 自分には出来ない事をやってのけているドーマに、イストファはただひたすらに純粋な目を向ける。

 そこには驚きと称賛以外の何も存在せず……それ故に、ドーマは苦笑する。

 自分を本当に仲間だと思ってくれている。魔力のない事実を事実として受け入れた、劣等感のようなものを感じさせない目。

 そして……それに、応えたいとも思うのだ。


「……ファルシオンを拾ってください、イストファ。今の私であれば貴方とも打ち合えますよ」

「うん!」


 メイスを握るドーマにイストファは落ちていた訓練用ファルシオンを握り、構える。


「いくよ、ドーマ!」

「ええ、イストファ! ヘビーウェポン!」


 そして、ファルシオンとメイスがぶつかり合う。

 時折小盾と丸盾もぶつかり合い、互いに逸らしだけではなくシールドバッシュも仕掛けているのが見物のフリート達にもよく理解できた。


「す、凄い……」

「あのガキがなあ……よく此処まで成長したもんだ」


 ミノタウロスを倒したと聞いたから、相当のものであろうとは思っていた。

 そして……目の前で繰り広げられている戦闘は、一人前などというものはとっくに通り越したものだった。

 剣とメイスがぶつかり合い、盾と盾が、剣と盾が、盾とメイスがぶつかり合う。

 まさに激戦というべき戦いにケイは胸の前でギュッと手を握りながらハラハラした様子を見せているが、フリートは感心しきりで……しかし、ふと違和感を覚える。

 その違和感の理由は……ドーマの仕掛けた足払いで、即座に解消した。


「あっ……!」

「引っかかりましたね! せいやあああ!」


 腕を掴んで放ったドーマの「投げ」がイストファを地面に叩きつけ、肺の中の空気がヒュッと音をたてて出ていく。


「か、はっ……!」


 そのイストファをドーマは見下ろすと……「ヒールショット」と唱える。

 それと同時にイストファの細かい傷は消え、ドーマもメイスを放り投げて、倒れたイストファの近くに座り込む。


「はー……私も慣れない技を使って疲れました。もっと訓練が必要ですね」

「あはは……でも凄いよ、ドーマ。いつから足払いを狙ってたの?」

「結構最初からです。意識しないと蹴り技が出そうでしたし、そうしたら気付かれてたでしょうね」

「かもね……いや、うーん。どうかな……?」


 悩み始めるイストファの顔を見ていたドーマは、ハンカチを取り出しイストファの額を拭う。


「どうですか? 新しい私は……強いでしょう?」


 問われたイストファは、勿論と笑う。


「僕は、ドーマはずっと強いし凄いと思ってるよ。でも……今日のドーマは、もっと強かった」

「そうですか。なら……良かった」


 そう言うと、ドーマはイストファの上に乗っかるように地面に倒れこむ。


「はあー……疲れた。貴方の隣に立とうと願うのは、大変ですね」

「そうかなあ……」

「ええ、ちょっとは自覚すべきですよ?」


 笑い合う2人を見ていたのは太陽と……微笑ましいものを見守るような目のフリートと。

 なんだか微妙な……それでも安心したような表情の、ケイだけだった。

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