並び立つ為に必要なモノを
「で、ミリィ。お前は俺にちょっと付き合え」
「え?」
「お前の魔力の使い方については、前から気になってたんだ。今日一日は特訓するぞ」
「ええ!?」
ミリィをカイルが引きずっていくと、そこにはイストファとドーマが残され……イストファは「えっと、じゃあ僕も剣の練習を……」と言って立ち上がろうとして、ドーマに「待ってください」と声をかけられ引き留められる。
「イストファには、今日は私に付き合ってほしいんです」
「僕に?」
「はい。カイルの言った通り、私のパーティでの役割は変化を求められています」
カイルを守る為に神官から神官戦士になった。
ミリィが加入して、ドーマの役割はカイルとミリィを守ることになった。
しかし、それだけでは足りなくなりつつある。
「僕の代わりに先頭に立つ……って話だったよね」
「はい。そして確かに、それは必要な事です」
イストファが幾ら体力自慢だったとしても、どうやっても限界というものは訪れる。
そうした際にイストファを休ませるためにドーマがイストファのポジションに入れるようにしておくことは無駄ではないし、それにカイルとミリィを当てるのが愚策である事も分かっている。
「しかし、今のままで前衛として戦うのは無理です。それはミノタウロスの時にハッキリしています」
「そんなことは……」
「いいえ、私自身がよく分かっています」
あの時、ドーマは盾で攻撃を防ごうとして、腕の骨を砕かれた。
それはある意味でドーマの限界であり、正面からの真っ向防御というスタイルに対する警告でもあったと考えていた。
「今後、ダンジョンの奥深く潜っていくに従い、同じ事になる可能性は高くなっていくでしょう。私が重戦士紛いの事をするのは限界だということです」
「でも、それじゃあ……どうするの?」
「決まっています。私は……この鎧と盾を、捨てます」
「え!?」
そのままイストファがドーマに手を引かれ辿り着いたのは、すっかり馴染みとなったフリート武具店だった。
盾と鎧を下取りに出すドーマをオロオロとしながら見ていたイストファだったが、何事かを話していたフリートが持ってきた丸盾とチェインシャツを見て「あっ」と声をあげる。
「それって……」
「ミスリル製だな。しかし、いいのか? 軽いっちゃあ軽いが、間違いなく防御力は下がるぜ?」
「構いません。それで……手袋の方は?」
「ああ、これだ。しかし、趣味装備だぞ、こんなもん」
重たげな手袋を差し出すフリートから受け取り装着したドーマが次に履いたのは、明らかにミスリル製と分かる装甲で強化されたブーツ。
「注文通りです、ありがとうございます」
「まあ、金は貰ってるからいいけどよ……どう戦うつもりなんだ?」
「そうですね……裏をお借りしても?」
言いながら数枚の銅貨をカウンターに置くドーマにフリートは小さく溜息をつくと「いいぜ、入れ」と店の奥を指してみせる。
「え、裏って」
「ああ、お前は行ったことなかったか」
オロオロしたままのイストファにフリートは「そういやそうだったな」と頷く。
「お前も行っていいぜ。今2人分料金は貰ったしな……おい、ケイ!」
「はーい……って、イストファ君?」
「こいつらを裏に案内してやれ」
「う、うん。こっちだよ」
ケイに案内されて辿り着いたのは、店の奥……を抜けた先にある、壁に囲まれた庭のような場所だった。
まあ、庭とはいっても雑草が生えているだけの土地ではあるのだが……。
「ここって……?」
「武器の試し振りとかする為の場所だよ。別料金だけどね」
「へえ……」
まあ、確かに大型の武器などは店の中で振り回すわけにもいかないだろう。
なんとなく納得しながらキョロキョロするイストファの前で、ドーマは軽く柔軟をする。
「4階層を抜けた後ですかね……新しい魔法を授かったんです」
「えっ……新しい、魔法?」
「ええ。ですが、何故そんな魔法を授かったのか分からず言えずにいました……」
言いながらドーマは柔軟を終え、イストファに微笑んでみせる。
「ですが、なんとなく予感はありました。身体能力ではイストファに及ばず、魔力ではカイルに及ばない私が……それでもイストファに並び立つ為に必要なモノを、神は……ニールシャンテは見通していたのではないかと」
「どういう、こと?」
「こういうことです……ニールシャンテよ、私に力を」
今まで何度かドーマが唱えていた自身の身体強化の魔法バトルクレスト。だが、それだけでは終わらない。
「ファイターズクレスト」
そう唱えた瞬間、ドーマの持つ雰囲気が増大する。
それはイストファが思わずファルシオンに手をかける程で……一体何が起こったのか、理解できずにドーマを凝視する。
「模擬戦をしましょう、イストファ」
「模擬戦……僕と?」
「ええ。私は、貴方に最初に知ってほしいんです。貴方の為に変わる私を……その強さを誰よりも先に、貴方に信頼して貰うために」
イストファは、腰のファルシオンに視線を向ける。
ダメだ、これは使えない。しかし、これを使わずに今のドーマに勝てる自信が……何故か、ない。
迷うイストファに、裏庭に出てきたフリートが何かを投げる。
受け取ったそれは……イストファの持っているものとは違う、ファルシオン。
「刃を潰した訓練用のやつだ。使いな!」
「ありがとうございます!」
イストファは腰のファルシオンを外すと、離れた場所へ放り投げる。
そして訓練用ファルシオンを構え……ドーマへと、向き直る。
「準備はいいですか、イストファ?」
「……うん、やろうドーマ」
その言葉を合図に……イストファとドーマは、同時に地面を蹴った。





