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人生を変える、金貨1枚(後編)

「え、えっと……エファ草は、葉の形が特徴的だから」


 後ろで括ってポニーテールにした、美しい金の髪。

 宝石を思わせる青い瞳は、その勝気な表情を魅力的なものにする。

 均整のとれた身体を包むのは布の服と……先程の男達より余程高そうな、白い鎧。

 腰につけているのは短剣だろうか。かなり立派なものであるようにイストファには思えた。

 しかし、一番特徴的なのは……その尖った耳だろう。白い肌と尖った耳。この2つが揃う種族は、ライトエルフと呼ばれる者達しか居ない。


 そのライトエルフの女は「ふーむ」と頷くと、イストファの手元のエファ草を覗き込む。


「確かにそうだけど、似た形の葉なら毒草のディグ草もあるわよね?」

「……そうだけど、ディグ草は葉の裏に紫の線が走ってる、から」


 イストファがそう答えると、ライトエルフの女は再度頷いてみせる。


「なるほど、ちゃんと知識はあるみたいね。ひょっとして、ギルドから情報買ってる?」

「あ、うん……いえ、はい」

「良い事よ。あの金の亡者共、銭ゲバではあるけど売り物に関してはしっかりしてるから」


 そう、イストファは薬草に関する情報をギルドから買っている。

 各種の薬草の簡単な特徴、50イエン。

 間違えやすい毒草について、100イエン。

 それぞれの薬草の生えやすい場所について、180イエン。

 薬草の正しい採り方、200イエン。


 毎回の報酬から分割で支払い、目標金額に達した時点で教えて貰うという方式で購入した……イストファの大切な知識でもある。

 どうせナイフ1本買うのにも5000イエンはかかるのだから、この辺りは必要経費だと割り切ったのだが……どうやら正解だったらしいとイストファは思う。


「ひょっとしたら、そうじゃないのかと思ったのよね。単純に生活に困って薬草採りやってるにしては、動きに迷いがなかったし」

「え、と。その……」

「でも少年。それだけ準備出来る子なのに、どう見てもお金なさそうだけど。どうして?」


 グイグイ来るライトエルフの女に、イストファは思わずたじろぐ。

 一体何が言いたいのか、何がしたいのか。

 分からないままに、イストファは「盗られ、ちゃうから」と呟く。


「は?」

「宿にも泊まれないから、外にいるしかないですし。そうするとちょっと寝てる間にお金盗られるし、隠しても何故か毎回見つけられちゃうし」

「うーん……」

「なんとか気を張って起きてても、殴られて気絶して……」

 そこまで言うと、ライトエルフの女は「あー……」と天を仰ぎ唸る。


「どうしようもないわねー、ヒューマンは。こっちの方は王都並みに荒んでるって聞いたけど、情報通り過ぎて笑えてきそうだわ」

「あ、あの。お話がそれだけでしたら僕はこれで……」

「え? あ、うん。ごめんね。えーと……君のお名前は?」

「あ、はい。イストファ、です」

「そっか。じゃあイストファ、これ」


 そう言ってライトエルフの女が指で弾いてきたものを受け取って、イストファはギョッとした顔になる。


「こ、これって……1万イエン金貨!?」


 思わず叫んで、イストファは慌てたように金貨を握りしめ周囲を見回す。

 大丈夫、誰も見ていないし聞いていない。


「情報料みたいなものよ。貴方のお仕事邪魔したお詫びでもあるわね」

「え、でも。そんな……僕、こんなもの貰えるような事なんて」

「あのね」


 言いかけたイストファの肩を、ライトエルフの女が叩く。


「貰えるものは貰っておきなさい。それだけの目にあってもまだ目が死んでないなら、抜け出すチャンス狙ってるんでしょ? ソレがそうよ」


 言われて、イストファはハッとする。

 そうだ、これだけあればナイフどころか短剣くらいなら買える。

 品質に目を瞑れば、長剣だって買えるかもしれない。

 イストファだって、戦えるようになるのだ。


「私、頑張る子は好きよ? だから、しっかりね」

「は、はい! 分かりましたお姉さん!」


 お姉さん、と言われたライトエルフの女は……言われて、ちょっと照れくさそうな顔になる。

「や、そういえば名乗ってなかったけど。お姉さんて呼ばれるのはこそばゆいわね」


 そう言って笑うと「ステラよ」と。そうライトエルフの女は名乗る。


「ま、縁があればまた会いましょ?」

「分かりました! 今度はちゃんとした冒険者として、きっと!」

「期待してるわ?」


 そう言って町の門を潜っていくステラを見送って……その直後、ステラの腕に嵌っていた腕輪を思い出しイストファは「あっ」と声をあげる。

 彼女の腕に嵌っていたのは、イストファが袋に仕舞った1万イエン金貨と同じ……金色の腕輪だったからだ。


「金級冒険者……」


 そう呟き、イストファは憧れのものを見るような目でステラの消えた門を見つめる。

 いつかは、きっと。

 門を出る時よりもずっと前向きな気持ちでそう思えたイストファは、決意を秘め門へと走る。

 彼女の期待に応えられる自分にならなければいけない。


 この1万イエン金貨があれば、全てが変わる。変えられる。

 まずは武器を買って、ダンジョンに潜る。

 もっと稼げる自分に……一流の冒険者になって、もう1度彼女の前に立つのだと。

 そう、強く思ったのだ。

これにてプロローグが終了です。


なおブックマーク・評価などは作者の力となっております。

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