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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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それもいいんだけど

 結局一晩を施療所で過ごす事になったイストファ達だったが、起きると早速冒険者ギルドに向かう事になった。

 まだ朝早い時間ながら混む前にと向かったものの……予想外に混んでいる事にイストファ達は驚いていた。


「なんだろう、混んでるね……」

「おう、何かあんのかもな」


 言いながら中に入っていくイストファ達だったが、その人混みが一方の壁に集まっている事に気付く。


「おや、あれは……」

「あー……」


 ドーマが真っ先に気付き、ミリィが全てを察し曖昧な笑みを浮かべる。

 その壁に飾ってあったのは……どう見ても、昨日イストファ達が戦い打倒したミノタウロスの斧であった。

 それに気付くなりカイルはイストファの腕を掴んでズンズンとカウンターへ近づき、ドンッと音をたてながらカウンターを叩く。


「どういうつもりだ、ありゃ」

「おや、お帰りなさい。それとおめでとうございます」

「訳わかんねえ事言うな。アレは……あれだろ。何勝手してやがんだ」


 ハッキリ言うと面倒な事になりそうだとボカすカイルだったが、ギルド職員はそんな空気は読まない。

 

「いやあ、驚きましたよミノタウロスを撃破するなんて。久々の偉業だって事で、ああして飾ろうということになりまして」

「あの階層の事は秘密じゃねえのかよ……!」

「別に秘密にはしてませんよ。ギルドで情報は売らないってだけで」

「モノは言いようだなテメエ……」


 青筋をたてそうなカイルをイストファが「まあまあ」と宥め、ギルド職員へと向き直る。


「えーっと……ああやって飾ってるって事は、買取ってことなんですか?」

「持って帰っていただいても構いませんけど、出来れば売ってほしいですね。人間が扱うにはちょっと重いですけど、見ての通り飾りとしてはかなりインパクトがありますので」


 20万イエンで買い取りますよ、と言う職員にイストファが仲間達へと振り返り……溜息をついたカイルを含め、全員が同意の意を示す。


「えっと……なら売りますけど。偉業っていうのは……」

「んー……」


 イストファの質問にギルド職員は少し考える様子を見せると、イストファの耳に口を寄せる。


「……あの階層はね、ミノタウロスから如何に逃げるかなんですよ。敵わぬ敵を前に知恵と勇気を振り絞り、恐怖と戦い冷静さを保ちながら抜ける……そういう意味を込めて『試練』なんですよ」

「えっ」

「これから幾らでもそういう状況が有り得るから、我々としてはあの階層を冒険者としての実力を見定める場所にしてるんですが……そういう意味では予想以上です」


 言いながらギルド職員は「えーと、それでは……ミリィさんだけ腕輪を出してください」とミリィに告げてくる。

 そうしてカウンターに置かれた腕輪を回収すると、そこに銅の腕輪を置く。


「今回の結果を鑑みまして、ミリィさんの銅級への昇格を当ギルドは決定いたしました。他の皆さんは今回は変動はありませんが……驚きました。おめでとうございます!」

「うおおおおおお!」

「やったなお前等!」

「マジで驚いたぜオイ!」


 集まっていた冒険者達からの歓声と拍手にドーマやミリィがビクッとするが、2度目のイストファとカイルはそれに応える余裕があった。


「俺等は一気に黒鉄級になるかと思ったがな」

「それはありませんよ。赤鉄級と鉄級、なんてものがないのには相応の理由がありまして。銅級で一人前と見做して、そこから先は栄誉みたいなものです。ギルドへの貢献度もこれまで以上に換算されるようになりますので、依頼なども受けてくれると助かります」

「なるほど……」


 頷くイストファとは逆に、カイルはつまらなそうに肩をすくめてしまう。

 カイルの主目的はダンジョンで魔力を上げる事であって、冒険者としての評判だのといったものを上げる事ではないからだ。

 無論、イストファがそれをしたいというのであれば「親友」として付き合うのはやぶさかではないのだが。


「ん? そういや……5階層をクリアする前に銅級だったらどうなるんだ?」

「銅級のままですね」

「なるほどな」


 名前を忘れた「なんか絡んできた同世代の冒険者連中」の事を思い出しながらカイルは頷く。

 そうなると、5階層の試練とやらは銅級に至る前の者向けということなのだろう。


「では、こちらは20万イエンです。お受け取りください」


 4人で分けても5万イエン。それなりの金額であるのは間違いない。

 早速分配して財布に入れ終わった頃を見計らって、カイルはイストファに「で、これから早速ダンジョン行くか?」と声をかける。


「うーん、それもいいんだけど……」

「ん?」

「武器を、どうにかしなきゃいけないかなって」

「……だな」


 イストファが自分と同じ事を考えていた事にカイルは謎の満足感を抱きながら頷くが、気配もなく……そう、この場の誰にも気づかれる事無くイストファの背後に回っていた「それ」を見てカイルは「あっ」と声をあげる。

「それ」はイストファを背後から抱き上げると「やったわね、イストファ!」と声をあげる。


「まさかミノタウロスを倒すなんて! 私も驚いたわよ、イストファ!」

「ス、ステラさん!?」

「さあさあ、行きましょ! こんな所でボーッとしてる場合じゃないわ!」

「あ、おい待てコラ!」


 イストファを抱えたまま何処かへ走っていくステラをカイルが追いかけ……その数秒後にドーマが、そして最後にミリィが慌てたように追いかけていく。

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