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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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2回も言わせんじゃねえ

 確実に倒した。

 そう断言できるミノタウロスの死骸を見下ろしたイストファの手から、斧が落ちる。

 ぜえぜえ、と荒く息を吐くイストファもすでに限界で、倒れていないのが不思議な程だ。


「イストファ……!」

「……カイル」


 駆け寄ったカイルに振り向くと、イストファは倒れこみ……カイルは「おっと」と声をあげイストファを抱き留める。

 その身体がボロボロであるのは見て分かる程で、けれど回復魔法を使うべきドーマも今は怪我人で……しかもイストファが勝ったのを確認すると同時に気絶してしまっている。

 そして少し離れた場所で気絶しているミリィも控えめに言って重傷だ。

 この場で意識を保てているのはカイル1人で、しかも魔力が半分以下だ。

 先程のファイアブレイドならギリギリ一発放てるかどうかだが、ミノタウロスがもう1匹出てきたりしたら……もうどうにもならない。今度こそ全員真っ二つだ。


「5階層に降りてきて、いきなりコレとか……有り得なくねえか……?」


 一体5階層はどれ程の魔境だというのか。

 ここまで会わなかった事を考えると数は少ないのかもしれないが、何の慰めにもなりはしない。


「とにかく、帰らねえと……このまま此処に居たら、死ぬ!」


 カイルはまずイストファを倒れたドーマの横に並べると、同じく気絶したミリィを引きずり横に並べる。


「えーと、あとはドーマの盾とメイス」


 運んできたメイスをドーマの手に添え、盾を身体の上に置く。


「ミリィの杖は……これだな」


 続いてミリィの杖をその手に握らせ、イストファの短剣を探し……ミノタウロスが倒れていた場所の近くに落ちているのを見つける。

 そして同時にミノタウロスの倒れていた……先程までその死骸のあった場所に、斧が落ちているのを見つけてしまう。

 カイルでは持つ事すら難しそうだが……それでも戦利品だ。

 ヒイヒイと声をあげながらカイルは斧を引きずり、ミリィの横に並べる。


「ぜえ、ぜえ……こ、これで全部か? 忘れてるもんはねえよな?」


 短剣良し、盾良し、とカイルは装備品を数え……やがて「よし」と頷く。


「オーケイ、これで大丈夫だ。あとは……と」


 ミリィの方を頭側に、ドーマの方を足側にしてカイルは3人の上に寝そべる。

 勿論、遊んでいるわけでも悪趣味な何かを発露させているわけでもない。

 3人とピッタリくっつき斧を掴んだカイルが取り出したのは、帰還の宝珠。

 複数人で帰還するには接触が必要であるが故に、こうせざるを得ないのだ。


「よし……帰還!」


 叫ぶと同時に4人の姿は地上へと転送され「うおっ」という衛兵の声があがる。


「な、なんだ……!? って、お前等は……」

「おう。すまねえが、施療院行きの担架を手配してくれるか?」


 起き上がったカイルと気絶した3人を見て衛兵は頷き、別の衛兵が担架を取りに行くべく走っていく。

 残された衛兵は気絶した3人と巨大な斧を見て、さぞや激戦だったのだろうと想像する。


「一体何と戦ったんだ? その斧……ゴブリンじゃなさそうだが」

「ミノタウロスだ。ゴブリン如きにこんなケガするかよ」

「ミノ……え、今なんて言った?」

「ミノタウロスだ。2回も言わせんじゃねえ」


 言われた衛兵は斧をもう1度見て、それから倒れたイストファ達を……そしてカイルを見る。


「……そうか。この斧だが、冒険者ギルドに運ぶ手配をしようか?」

「なんだよ、労ってくれるってのか?」

「ああ、まあ……そんな感じだな」


 曖昧な言い方をする衛兵にカイルが疑うような目を向けている間に、複数の衛兵が担架を持ってきて慣れた手際でイストファ達を載せて運んでいく。


「施療院の場所は分かるか?」

「知らん。教えてくれ」

「ああ。で、この斧だが……さっきも言ったが、冒険者ギルドに運ぶなら手配するぞ。どうする?」


 サラサラと手元の紙に地図を書き込む衛兵と斧を見比べ、カイルは考える。

 ミノタウロスの斧は、どう考えても自分では運べない。

 引きずる必要があるし、それでも運んでる途中で力尽きてカイル自身が施療院送りになりそうだ。

 だが、衛兵がそんなサービスをするなど聞いたこともないのがどうにも引っかかってしまう。


「いったい、なんだってそんなサービスをしてくれるってんだ。教えてくれねえと頼むに頼めねえ」

「深い理由は……まあ、あるっちゃあるんだが、ないな。俺等からの好意だと思ってくれればいい」

「……まあ、いいけどよ。じゃあ頼む」

「ああ……っと、イストファの名前は知ってるけど、他のメンバーの名前を知らないな。施療院に行く前に教えといてくれ」


 何故今そんな事を聞くのかとカイルは疑問符を浮かべるが、言って損をするものでもないと全員の名前を答えていく。


「カイルとドーマ、ミリィ……ね。分かった、冒険者ギルドの方には伝えておく」

「分かった。じゃあ、よろしくな」

「ああ。早く施療院に行ってやりな」


 走っていくカイルに手を振ると、衛兵はその場に残されたミノタウロスの斧に視線を向ける。


「……ミノタウロスっていったら、たぶん5階層のだよな。そうか……倒しちまったのか……」


 そう呟くと、衛兵は眩しいものを見るようにカイルの走り去った方へと視線を向けた。

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