分かるんですか?
しかし結局のところ冒険者ギルドに4階層突破の報告をする必要もあり、イストファ達は「まだ寝てる」と布団に潜ってしまったカイルを置いて街中に出ていた。
もう夕方頃ではあるが……迷宮都市であるエルトリアでは、これからが本番だという者も多くいる。
だが、それだけではなく街中のあちこちには、のどかな雰囲気に不似合いな空気を放つ武装した男達……恐らくはウルゾ子爵の私兵と思わしき連中がウロウロとしていたが、ミリィの側を通ってもチラリと見る程度で「ミド」であるとは気付かないようだった。
「……なんか複雑です」
「いい事だと思いますけど」
「だよね」
ミリィの呟きにドーマとイストファはそう言いながら、ウルゾ子爵の私兵達に軽く視線を向ける。
ピリピリはしているが、前にイストファ達が絡まれた時のように押し入ってでも探してやろうというような雰囲気は見えない。
ひょっとしたらステラによる工作が上手くいっているのだろうか……などとイストファは考えるが、油断はいけないと気を引き締め直す。
いつまで彼等がエルトリアに居るのかは分からないが、遠からずエルトリア迷宮伯の命令で追い出される時が来る。
それまで、気を抜くわけにはいかないのだ。
そんな僅かに緊張を含んだ空気を保ちながらイストファ達が冒険者ギルドに到着すると、何人かの冒険者が振り向き手を振ってくる。
「よう、イストファ。今日も元気そうだな」
「はい、そちらもお元気そうで何よりです」
「まあな。それはそうと……ちょっと耳貸せ」
「はい?」
言われてイストファが近づいていくと、冒険者の男はイストファに小さな声で囁く。
「……一定の年頃のガキを狙った事件が起こってる。丁度お前等くらいの年だ。気をつけろ」
「それって……」
「確証はねえが、状況証拠はたっぷりだな。あとで壁に貼ってある依頼も見てみろ」
冒険者の男にイストファが頷くと、冒険者の男も頷き返し「じゃ、頑張れよ」と肩を叩く。
その視線が冒険者ギルドの隅の方に立っているウルゾ子爵の私兵らしき連中に向けられているように見えるのは、気のせいではないだろう。
「イストファ、今のって……」
「後で話すよ。それより、早く報告しちゃおう」
言いながらイストファは2人を連れてカウンターに行き「こんにちは」と声をかける。
「はい、こんにちは。本日は如何されましたか?」
「4階層を攻略したので、その証拠の提出に来ました」
イストファがカウンターにパラダイスバードの魔石を置くと、冒険者ギルドの職員はその表情に僅かな驚きの色を見せる。
「もう、ですか……速いですね」
「ミリィも加わりましたので」
イストファに言われたミリィがペコリと頭を下げると、職員は優しげに微笑む。
「なるほど。この魔石もパラダイスバードのものに間違いないようですし……おめでとうございます」
「分かるんですか?」
「ええ」
イストファにそう答えながら、職員はカウンターの上の魔石に軽く触れてみせる。
「4階層の守護者であるパラダイスバードは、何をやっても魔石しかドロップしないモンスターなんです。その代わり、特徴がありまして……」
職員の指先から僅かに魔力が流れたその瞬間、魔石が虹色に輝き始める。
天井をも僅かに染めたその輝きに、意味を理解している冒険者達が「おっ」と声をあげる。
「このように、魔力を感知して虹色に光るんです。通称、虹色魔石と呼ばれておりまして。初めて触れた方は皆驚かれるんですが……」
「あ、そっか。僕、魔力が無いから……」
呟くイストファに職員は微笑み「それで、こちらはお売りになられますか?」と聞いてくる。
「どうする?」
「売っていいと思いますよ」
「えっと、ボクもそう思います」
2人の同意を得てイストファが「よろしくお願いします」と答えると、職員は売却金額の入った小袋をカウンターに載せる。
「では、こちらの魔石は40万イエンでの引き取りとなります」
「えっ……なんだか、凄く高くないですか?」
「はい。虹色魔石は富裕層や王侯貴族の方々に大変人気のある品でして。ただ、発見数が少ないので品薄の状況が続いています。その結果ですね」
「え、でも。4階層で戦えば手に入りますよね……?」
なら4階層に入り浸る人が多いのではないかとイストファが考えて聞くと、職員は「確かに」と答える。
「ですが、パラダイスバードを簡単に倒せるような実力の方は登録の宝珠でもっと先の階層に行っていますしね。また4階層の難所を超えてパラダイスバードを倒しに行くくらいであれば、先で稼いだ方がいい……ということらしいです」
「あー……なるほど」
あの豪雪地帯は、単純に強いモンスターと戦うのとは違う難しさがあった。
もっと先の階層に進んで稼げるのであれば、わざわざ雪の中を特殊装備で進んで苦労する意味はない……ということなのだろう。
「ですので今後、新たな階層をクリアされた際には魔石ではなく、何か証拠の品を持ってきてくださると助かります」
「え、あ……ごめんなさい」
つい癖で魔石を取り出そうとしてしまうイストファは思わず謝ってしまい……職員はそれに楽しそうに笑ってみせた。





