あくまで僕のイメージなんだけど
そうして地上へと帰還を果たしたイストファ達であったが……久々にカイルが転送酔いでダメになっていた為、イストファが背負って街中を歩くという、少々しまらない形ではあった。
何はともあれカイルを宿屋の部屋のベッドに寝かせると、そのままカイルは唸り始めるが……とりあえず放置するしかない。
転送酔いを治す魔法など、ドーマは使えないし……時間がたてば治るからだ。
だからカイルをそのままに、イストファ達は床で円陣を組んで話し始める。
「あの5階層……どう思います?」
まず、そう切り出したのはドーマだ。
どう思う、というのはかなりボンヤリとした問いかけではあるが、イストファ達も「凄いね」という感想を言うほど寝ぼけてはいない。
イストファとミリィは5階層の光景を思い出し……やがて、イストファが口を開く。
「あくまで僕のイメージなんだけど……すごく迷いやすそうだよね」
「あ、それはボクも思いました。英雄譚で聞くダンジョンみたいだなって」
「私も同じ意見です。たぶんですけど、あの奥は迷路になってると思います」
イストファとミリィにドーマも同意し、そんな事を言う。
迷路。文字通り、迷いやすいように作られた道で構成された空間の事だが……第3階層「末路の海域」と似ている、とも言えるだろうか。
アレも種別としては迷路であったに違いない。
「松明が壁にあったから、明るそうではあるよね」
「そうですね……でも、それを前提に動くのも危険そうな気がします。イストファ、光源石は?」
「持ってるよ、ほら」
イストファの取り出した……今は魔力を使い切り光を失っている光源石を見て、ドーマは頷く。
確かに、あの5階層の入り口には松明があった。
だが、それで5階層は明るいのだと判断した結果、松明のない暗い場所で対応できなくなっては問題だ。
何があっても大丈夫なようにしておく必要は、当然ある。
「でも、それって何個もあるんですか?」
「1個だよ」
「だとすると、人数分持ってた方がいいかもですよ。ボクが昔読んだ本では、いきなり仲間が分断される話とかありましたし」
「ないとは言い切れませんけど……売ってますかね?」
流石にフリートの店にはないだろうから、何処か露店を探してみるか……などと話しながら、イストファ達は5階層で起こりそうな事について意見を交わしていく。
そして……それが盛り上がって来た頃、突然ミリィの声が途切れる。
「……ミリィ?」
「どうしました?」
イストファとドーマが心配そうにその顔を覗き込むと、ミリィの目からポロリと涙が零れ落ちた。
「え! ど、どうしたの!? 何処か痛いとか……ドーマ!」
「え、は、はい!」
「あ、その! 違うんです!」
ヒールをかけようとするドーマを押し留めて、ミリィはポロポロと零れ落ちる涙を止めようとするかのように目元を慌てたように拭く。
「そ、その! なんか……楽しくて。皆呪法士って分かると、嫌そうな顔を……ですから、その!」
「……」
「……」
イストファとドーマは顔を見合わせると、ミリィの両側から2人で優しく抱きしめる。
「大丈夫ですよ、ミリィ。私達は、そんな事はしませんから」
「そうだよ。僕達、もう仲間だし……友達だよ」
だから大丈夫と。イストファがそう言った瞬間、ミリィは耐え切れなくなったように「うーっ」と声をあげて泣き始める。
「……いいん、ですか? ボクは……」
「ええ、私達はパーティです。あの子爵とやらがおかしいんですよ」
「そうだよ。呪法士だっけ? 僕は凄いと思う。頼りになる仲間だよ、ミリィは」
泣きじゃくるミリィを抱きしめながら、イストファとドーマはこれまでのミリィの人生を思う。
きっと、辛いことが色々とあったのだろう。
それはイストファ達には想像するしかない。
想像するしかないが……此処には、ミリィに酷い事をする人間などいない。
それだけは言い切れるけど、それを言うのは野暮であるような気もして。
ただ2人は、ミリィを抱きしめる。
そうしている内に、ミリィの嗚咽も収まり……その顔は、少し恥ずかしそうに赤くなっていく。
「あ、あの……もう大丈夫です。その、ごめんなさい」
「そう?」
「遠慮しなくていいんですよ」
「大丈夫ですから。その、恥ずかしいです……」
そう呟くミリィから、イストファはハッとしたように離れる。
「あ、そうか。ミリィはおん……とこだものね」
「おんとこ?」
「……今、女、とか女の子、とか言おうとしましたよね……」
ジト目で見てくるミリィから視線を逸らし、イストファは「そんなことないよ」と誤魔化す。
一瞬本当にミリィが男であることを忘れていたのは秘密だ。
「まあ、いいですけど」
「つーか、あれだぜ」
「え?」
転送酔いが収まったのか、ベッドから身体を起こしたカイルがミリィに視線を向けてくる。
「イストファが買ってきた中には入ってなかったけどよ。お前寝巻も女物にしろよ」
「えっ?」
「えっ、じゃねえんだよ。夜中に突然やってくるかもしれねえだろが。イストファ、お前まだ余裕あんだろ? 行って来いよ」
「いいけど……」
カイルの放り投げてきた財布をキャッチすると、イストファ達は「どうしようか」と顔を見合わせた。





