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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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でも高いんじゃ

 コツン、コツン、と。

 第5階層へと続く階段をイストファ達は降りていく。

 すでに靴のスパイクは外しているが、マントはそのままだ。

 外したところで大きな荷物になるだけというのも大きな理由だが……それはさておき。


「第5階層、か。思ったより早く辿り着けたな」

「どんな階層なんだろう?」

「見りゃ分かると思うぜ」


 もう情報を買っているのだろう。カイルはイストファにそう言って笑う。

 そうしてイストファ達が階段から外に出ると……そこは、壁にかけられた松明の明かりに照らされる何処かの室内のような光景だった。


「これって……」

「部屋、いえ……通路……」

「え、まさか迷路ですか!?」


 ドーマの言葉に、ミリィが驚きの声をあげる。

 迷路。恐らくダンジョンと聞いて、実態を知らない多くの人間が想像するものだ。

 事実、吟遊詩人の歌う英雄譚では地下に広がる迷路のような大迷宮などが語られる。

 一度ダンジョンに入れば「そういうものではない」と理解できるのだが……。


「そう、此処が第5階層『試練の迷宮』……らしいぜ?」

「試練?」

「おう……おっ、登録の宝珠があるな」


 イストファは聞き返すが、とりあえずカイルの見つけた登録の宝珠に触れ……ドーマもミリィも順番に触れていく。


「で、試練って事は何かがあるんだよね? また罠とか?」


 3階層での出来事を思い返すイストファに、カイルは首を横に振って「分からねえ」と返す。


「分からないって……情報を買ってないってこと?」

「この階層については、名前しか情報が売ってねえんだ。当然地図もない」

「え、何故ですか? 私達の先達はもっと先まで進んでいるのでは?」

「おう、ドーマの言う通りだ。だがこの階層の情報は売ってない。何故かは知らねえが……まあ、想像はつくな」


 言いながら、カイルは順番に指をたてていく。


「1つ目、この階層が何か特殊な構造で、地図作成に意味がない可能性」


 たとえば定期的に道が変わるとか……そういう仕掛けがこの階層にあった場合、地図など作成しても余計に迷うだけで意味がない。そんな情報はギルドも売らないだろう。


「2つ目、この階層の自力突破をギルドが何らかの『試練』と捉えてる可能性」


 試練の地下迷宮。何故そんな名前がついているのかは分からないが、この階層の自力突破を「試練」とギルドが位置付けて名前をつけた可能性もある。

 となると……その試練を突破した暁には何かがあるとも予想できる。


「それって……ランクアップとか?」

「あるいは、だけどな」

「それってボクもいいんでしょうか。仮登録ですけど」

「いいんじゃないですか? パーティなんですし」


 ワイワイと騒ぎだしてしまうが、イストファの「……ってことは」という言葉に全員が黙り込む。


「ランクアップできるほど、この階層が難しいかもしれない……ってことだよね」

「いや。単純に実力だけで言えば黒鉄級だとは思うぜ?」


 イストファ達は銅級冒険者だが、その一つ上は黒鉄級と呼ばれる階級だ。

 ここまでくれば一人前といってもいいが……勿論、簡単になれるわけではない。


「どうでもいいギルドの依頼を受ければもう少しランクアップが早まるかもしれねえが……時間の無駄だしな」


 実力だけではなく、冒険者ギルドへの貢献度もランク査定の重要な基準だ。

 しかしながらイストファもカイルも、ドーマでさえダンジョンでの実力アップを優先したがっているからこそ、そんなものは受けてこなかった。

 イストファの知る先輩冒険者たちも、ダンジョンに潜ってばかりいるからランクが中々上がらないという者も実は多いのだ。

 この辺りは冒険者ギルドが何でも屋的な側面を持っているから仕方のない点でもある。

 

「だがまあ、イストファの言う通りではあるな。何が出るか分かったもんじゃねえ」

「うん。それに……カイル。魔力は?」

「聞きてえか? スッカラカンだ」

「よし、帰ろう」


 イストファは即座にそう提案する。

 何が出るか分からない状況で、カイルという貴重な戦力が戦えない。

 それはあまりにも危うい。


「まあ、私も賛成ですね。ミリィも辛そうですし……イストファと私だけでは、不覚を取る可能性もあります」

「す、すみません……」


 続けてドーマも賛成し、ミリィも頷く。

 ドーマは魔力も体力もあるが、ミリィは魔力はともかく体力がほとんど残っていない。

 5階層になって強力になったであろうモンスターと戦える状況ではなかった。


「……よし。じゃあ、早速コイツの出番だな」


 言いながらカイルが取り出したのは、帰還の宝珠だ。


「あ、それ使っちゃうんだ? でも高いんじゃ」

「歩いて帰ってもいいけどよ。お前……あの4階層を逆走すんのか?」

「……だよね」


 歩いて帰るとなると、またあの猛吹雪の中を進むことになる。

 それはイストファとしても少しばかり遠慮したかった。


「ここから先は帰還の宝珠が重要になってくるな……売り切れるわけだぜ」


 舌打ちしながら、カイルは「全員掴まってろよ!」と声をかける。

 そうして帰還の宝珠が光を放ち……イストファ達は、地上へと帰還していく。

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