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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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その翼を、許さない

 4階層に戻ったイストファ達は、サクサクと雪を踏みながら進んでいく。

 カイルの出資で装備を整えたミド……もといミリィもカイルとドーマの間に居る形で進んでいるが、その表情は何とも微妙なものだ。


「あの……ずっと聞こうと思ってたんですけど」

「ん? どうしたの?」


 ミリィの言葉に立ち止まり振り返ったイストファに、ミリィは自分のマントを示してみせる。


「……どうしてボクのマントだけ、こんなフリルとかついてるんでしょう」

「えっと。カイルが指定したから、かな」

「バカかお前は。マント着たら折角の服が隠れるだろうが。その上で印象変えるにはマントも女っぽくするしかねえだろ」


 そう、シンプルなイストファ達のマントと比べ、ミリィのマントは服に合わせたフリルのたくさんついたゴシック仕様だ。

 どんな人間でも、こんなマントを着た可愛らしい子が男だとは思わないだろう。

 そういう意味ではカイルの狙いは正しいと言える。


「大丈夫ですよ、可愛いですから」

「うう……」


 ドーマのフォローにミリィは複雑そうな表情になるが、仕方のないことだとミリィ自身分かっている。

 今回の件をウルゾ子爵が完全に諦めるまでは、ミドはミリィで居続けるしかないのだ。


「それよりお前だよ。今のところ出番は無いが……期待してるからな」

「猛吹雪の中の敵でしたっけ。やってはみますけど……」


 言いながら、ミドは手の中の杖を握る。


「もうすぐだったよね……あ、見えてきた」


 イストファの言葉通り、進む先にはあの猛吹雪が見えている。

 ここから先の場所ではイストファの機動力を発揮できず、カイルの魔法もなかなか当たらない。

 それを突破する力を求められている事に、ミリィは唾をゴクリと飲む。

 もし役に立てなければまた見捨てられるのではないか。そんな事を考えてしまっているのだ。

 寒さではない震えを感じ始めたミリィは、背後からドーマに肩を叩かれてビクリとする。


「そんな緊張しないでください。ダメだったからって誰も何も言いませんから」

「うん。いざとなったら僕がなんとか突破すればいいんだし」

「またお前はそういう……だがまあ、いざとなればどうとでも方法はある。ダメ元の作戦だから、そんなに気にはするなよ? 俺が勝手に期待してるってだけの話だ」


 ドーマ達の言葉に、ミリィは「はい」と頷く。

 そう言ってくれるのは嬉しい。

 嬉しいが……どうせなら役に立ちたい、とも思ってしまう。


「やります……いきましょう!」

「うん。じゃあ僕から入っていくから」


 作戦は基本的には前回と同じだ。

 イストファが先頭を有り余る体力で突き進み、再び雪が積もる前に他の三人がその後ろを進んでいく。


「……それっ!」


 猛吹雪の中にイストファが飛び込み、カイル達が続く。

 視界すら怪しい吹雪の中を進み……そうして、再びウインドバードは現れた。


「来た!」


 イストファが叫ぶと同時、イストファの眼前の雪を風魔法が穿つ。

 

「くそっ、やっぱりよく見えねえ……! ミリィ、いけるか!?」

「待ってくださ……うっ、良く見えない……!?」


 猛吹雪の中、ウインドバードを視認するのは難しい。

 それはウインドバードも同じはずだが、上空から人影を視認するのと地上から猛吹雪の空を見上げるのとではわけが違う。


「くそっ、やっぱり見えなきゃ同じか! イストファ、なんとか場所をこっちに教えられねえか!?」

「えっと、でも速くて! 今カイルの、いやもうちょっと後ろの……」

「くっ!」

 

 ドーマの背中を風魔法が打ち据え、ミリィへと倒れこむ。


「わわっ」

「すみません……!」

「い、いえ。重い……」


 なんとか立ち上がったドーマとミリィだが、次の瞬間ミリィは「あっ」と声をあげる。


「い、イストファさん! 見えてるんですよね!?」

「え!? う、うんって、うわっ!」


 小盾で風魔法を防いだイストファが叫び声をあげ、ミリィは「すみません!」と言いながらカイルを押しのけてイストファの背中に寄り添うように身体を合わせる。


「え!? な、何!?」

「ちょっと目を借ります……! 視覚共有!」


 叫んだ瞬間、ミリィの目から光が消える。


「うわ、凄い……良く見えます! イストファさん、このまま敵を探してください!」

「う、うん……えっと……あ、居た!」

「見つけた!」


 イストファが見つけると同時に、ミリィも叫ぶ。

 そう、今……文字通りにミリィはイストファと視覚を共有している。

 イストファを自由に操れるわけではないが、イストファの見ているものを同じように見ることが出来るのだ。

 だからこそ、この吹雪の中でもウインドバードを見つけられるイストファの見たものを、ミリィも見ていた。

 杖持つ手をイストファから外し、しかし視覚共有が解けないように寄り添ったままでミリィは杖を空へと向ける。


「その翼を、許さない……麻痺の呪い!」


 紫色の輝きが上空のウインドバードを包むのを、イストファは見た。

 その瞬間、ウインドバードの身体が強張り、落下していくのも……だ。


「落ちてく……」


 何も出来ないままに落下するウインドバードが視界から消えるが、アレで生きているとは思えない。

 それをミリィも見たのだろう。イストファから離れようとして……そのまま、力を失うようにドサリとイストファの背中に倒れこんだ。

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