そうと決まれば
「どうすればいいのかな……」
イストファは眠っているミドを見ながら、そう呟く。
1度助けた以上、見捨てるなんてことはしたくない。
けれど、お貴族様に狙われているような相手をどうすれば助けられるのかが分からない。
戦う? 貴族と? 無茶だ。権力が怖い事くらい、イストファだって知っている。
問題を解決する? 差別問題なんていうものをどうすればいいかなんて、イストファには分からない。
ならば、ミドを匿う? 何処で? 此処はステラの借りている部屋だ。
イストファが好きにしていいわけがない。
「この街から逃がす……のは難しいよね」
「難しいだろうな。たぶん門付近で張ってるはずだ」
言いながら、カイルも方策を考える。
恐らくミドがダンジョンに入ったのは、追手を撒く意味もあったはずだ。
運悪く……かは分からないが、パーティメンバーに見捨てられた事で死にかけていたが、もしあの場でイストファ達が見つけなければ、文字通り追手を「永遠」に撒けていただろう。
そして、それはともかく……だ。
ミドが生存するための条件は然程多くは無いが、難しくはある。
まず大前提として、ウルゾ子爵を諦めさせなければいけない。
これは「とりあえず」ではなく「完全」にである。
例えばの話、カイルが自分に使える伝手を使えばウルゾ子爵に「とりあえず」諦めさせることは出来る。
これは確実だ。ウルゾ子爵に「分かりました」と言わせる事くらいは楽なものだろう。
だが、本当に諦めるかどうかは分からない。
可能性で言えば、かなり低いとカイルは考えている。
エルトリア迷宮伯ともめる危険性を理解したうえで……いや、本当に理解しているかは分からないが、ともかく迷宮都市に私兵を送り込んできたのだ。
表向きやめたからといって、何らかの形でバレないように手の者を送り込んでくる可能性は大きいだろう。
そうなれば、たとえばある日、殺されたミドが路地裏に転がっていた……ということだって有り得る。
「……うーむ……」
悩むイストファとカイルを見ながら、ドーマも考える。
ドーマに提案できそうな手段は、あまりない。
たとえば、神殿に匿う事だ。
色んな神に仕える神官の寄り合い所みたいな神殿ではあるが、独自の権力を保有する場所でもある。
神殿に殴り込みをかけるというのは全世界にいる神官に喧嘩を売る事であり、そうなれば間違いなくウルゾ子爵は突き上げをくらうだろう。
……だが、ウルゾ子爵は迷宮伯……上の身分の貴族に喧嘩を売るような真似をする貴族だ。
神殿相手に喧嘩を売ってもおかしくはない、とドーマは思う。
そうなれば神殿に匿ってもウルゾ子爵が何かをしてくる可能性は捨てきれない。
まあ、他の場所と比べればかなり安全ではあるだろうが……。
「うーん……中々良い方法がないですね。ですが、とりあえず神殿は安全かと思います」
「問題は、諦めさせる方法だな。完全に諦めさせるしか安全を確保する手がねえ」
「完全に……それって、きっと難しいよね」
カイルに、イストファはそう呟く。
完全に諦める。自分自身がやったことがないから、その難しさがイストファにはよく分かるのだ。
強く思っているなら、諦めるなんて出来ない。
たとえそれがミドを殺すといったような企みであろうと、ウルゾ子爵がそれに強い想いを抱いているのであれば、やはり難しいだろうと……イストファはそう思ったのだ。
「ま、そうだろうな」
「ですよね」
カイルとドーマもイストファに同意し、頷き……そして、唸り始める。
だが……そこで、イストファはハッとしたような顔になる。
「……ミドだって分からなければ、とりあえずは大丈夫なんじゃない?」
「ああ? とりあえずって……ああ」
「あ、なるほど」
カイルとドーマはイストファの言葉に納得したようにミドを見る。
すうすう、と寝息をたてるミドは正直女の子っぽく……そっちの方向で仕立ててしまえば、かなり誤魔化せるような気がしたのだ。
「となると、あとは『男のミド』に関してだな。これは今のイストファの発言で思いついたんだが、俺に手がある」
「手? どんな?」
「おう、それを話す前になんだが……おい、ステラ」
「何かしら?」
「ミドを連れ帰る時、誰かに見られたか?」
「大丈夫だと思うわよ。私の隠ぺい魔法を見破れる奴が居たら話は別だけど」
「なら大丈夫だな」
頷くカイルに、イストファとドーマは疑問符を浮かべる。
「えっと、どういうこと?」
「ミドを見られたらマズいということですか? いや、まさか……」
ドーマの呟きに、イストファも気づき「あっ」と声をあげる。
「ミドが帰ってきてないのが重要……ってこと?」
「そうだ」
カイルはニヤリと笑い、肯定の意を示す。
そう、男のミドには死んでもらえばいい。
ミドはすでに死んでいて、この世にはいない。
そう思わせる状況はすでに揃っているし、ミドとは違う呪法士がこの街に出てきたところで、ウルゾ子爵の関与できるところではない。
よその貴族の治める街にゼロから手を突っ込めば、それこそ爵位はく奪だってあり得る話だ。
「そうと決まれば、まずは服買わねえとな……おいイストファ、お前、あのおっさんの店行ってこい。丁度いい奴いるだろ」





