ちょっとってレベルじゃねえだろ
「この店に子供が入ったと聞いた! 検めさせてもらおう!」
ガチャガチャと鎧の音を響かせながら入ってくるのは、騎士を思わせる統一された鎧を着た男達。
彼等が貴族の私兵とやらなのだろうが……その私兵達の放った先程の言葉に、イストファ達は思わず顔を見合わせる。
「……僕達のこと?」
「でしょうね」
一体何なのか。疑問符を浮かべるイストファ達を見つけた私兵達が、ズカズカと足音を立てながら近づいてくる。
「……髪色が違うが……」
手近なカイルの髪に触れようとした私兵だが、その手をアッサリと払われムッとした表情になる。
「おい、逆らうか」
「気安く触るんじゃねえ。衛兵に通報するぞ」
冷たい目で見るカイルの視線に耐えかねたか、私兵はグッと詰まったような声をあげる。
「わ、我等はウルゾ子爵様の命令を受けた部隊だ! 逆らうということはウルゾ子爵様への反逆となるぞ!」
「この街はエルトリア迷宮伯の庇護下なんでしょう? 貴方達、迷宮伯より偉いんですか?」
「子供が知った口を……!」
「というか、怪しいな。わざわざ逆らうとは……何か隠しているな? おい、全員連行するぞ」
ドーマの言葉に私兵達は言いながら手を伸ばしかけるが、その瞬間にカイルとイストファが立ち上がる。
「おい、それ以上はやめとけよ」
「そ、そうです! 僕達は何もしてないじゃないですか!」
そんな2人の言葉に私兵達は顔を見合わせ、頷き合う。
「どうやら、多少立場を分からせる必要がありそうだ」
言いながら私兵達は武器に手をかけ……しかしその瞬間、騎士達を追いかけて来たのか見慣れた格好の衛兵達が駆け込んでくる。
「そこまで! 勝手をされては困るとお伝えしたはずだ!」
「何故武器に手を……子供を斬ろうとしたのか!?」
大急ぎでイストファ達を庇うような位置に立つ衛兵達に私兵達は軽い舌打ちをすると、カイルを指し示す。
「そこの子供が我等に逆らった。ウルゾ子爵様の名前を出した上でだ。不敬だし、何か知っていると考えるのが自然だ。身柄を此方に渡してもらおう」
「そんな権利はないともお伝えしている。この街の治安維持に関する法的権利は我等衛兵隊に一任されている。勝手な真似はやめていただこう」
「これはウルゾ子爵様の命令だ。貴様等に子爵様に反抗する権利があるとでも?」
「それを言うのであれば、我等とてエルトリア迷宮伯の命令に従い行動している。ウルゾ子爵様の命令がそれに優先するとでも仰るのか?」
エルトリア迷宮伯……迷宮伯は、貴族の階位でいえば伯爵。当然だが子爵よりも上だ。
勿論力関係は単純に階位では決まらないが……衛兵の言葉に私兵達は「後悔するぞ」と言いながら身を翻し店から出ていく。その姿が完全に消えたのを確認した後、衛兵達は「ふう……」と息を吐きながらイストファ達へと振り返る。
「すまないな。ちょっと今街がゴタついているんだ」
「いえ、そんな……助かりました」
イストファはそう言って頭を下げるが、カイルの不満そうな顔はそのままだ。
「ちょっとってレベルじゃねえだろ。なんだアレ、迷宮都市で他の貴族の私兵が好き勝手してるとか、異常事態だぞ」
「……返す言葉もないな」
「一体何が起こっているんですか? 誰かを探しているようでしたが……」
ドーマの質問に衛兵はしばらく何か考えるようにした後、「……まあ、すでに巻き込まれてるしな」と呟く。
「彼等曰く、ウルゾ子爵領で指名手配された誰かを追っているらしい。此方に協力を要請……っていうか命令をしてきた時点で突っぱねたが、あの調子だ」
「つーか好き勝手やってる時点で犯罪だろ。捕まえねえのか?」
「……ウルゾ子爵様の命令書を持っていてな。一応使者という形になっている。勿論、ウルゾ子爵様がこの街で勝手な捜査活動をする事が出来ないのは当然なんだが」
どうやら扱いが難しいらしい。それを理解したイストファは、おずおずといった調子で手を上げる。
「あの……それなら、僕達は今度あの人達に会ったら、どうすればいいんでしょう?」
「そうだな……」
衛兵達は相談するように顔を見合わせるが、その中で一番偉いと思われる衛兵が軽い咳払いをする。
「とりあえず、絡まれたら近くの衛兵に助けを求める事。彼等の『命令』を聞く必要は無いから、逃げていい」
「逃げられない場合は? さっき連中、剣を抜きかけたぞ」
そんなカイルの言葉に衛兵は苦い顔をすると「抵抗して構わない」と答える。
「ただし、先に武器を抜いたりはしないように。自衛の範囲で戦うんだ」
「俺は魔法士だぞ?」
「殺さないように。行動不能にする魔法だってあるだろう」
「そうか。それならどうにかなるな」
ニッと笑うカイルに衛兵は溜息をつきながらイストファとドーマに視線を向ける。
「この子をちゃんと抑えてくれよ? 消し炭を渡されて『死んでない』とか言われても困るからな」
「は、はい。大丈夫だとは思いますけれども……」
「一応注意はしておきます」
イストファとドーマの返答に頷き、衛兵達は「それでは失礼する」と言って店から出ていき、カイルは「さてと」と言いながら椅子に座り直す。
「思ったより面倒そうだな。結構な数が居て、対象は子供……つまりまた絡まれる可能性は、極めて大だ」
「そうだね。どうしよう……またダンジョンに潜る?」
「それが無難そうですが、カイルの魔力の問題がありますよね」
そう、カイルの魔力が心許ない状態ではダンジョンに潜ってもまともな探索は……少なくとも4階層では望めない。
「……宿帰るか。で、明日の早朝にさっさとダンジョン潜るってのはどうだ?」
「僕はそれでいいと思う」
「なら、私もそれで」
カイルの提案にイストファとドーマも同意し、3人は少し冷めてしまった食事を再び食べ始めるのだった。





