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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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やっぱり戻った方が

 山を1つ越え、2つ越えて。3つ目の山に来ても、吹雪が止む気配はない。

 たとえ山頂近くを移動しているとしても、寒さと雪が少しずつ体力を削っていく。

 特に体力があまり無いカイルにとっては辛く、すでに背負われて移動している始末だ。

 帰ろうというイストファの提案をカイルが拒否し、休める場所を探しているが……中々見つからない。


「やっぱり戻った方が……」


 言いながらイストファは周囲を見回し……「あっ」と声をあげる。


「ドーマ、あそこ!」

「え……? あれは、洞窟!?」


 そう、それは確かに洞窟。僅かに明かりらしきものが漏れるその場所に、イストファはドーマを手伝うように背負われたカイルの背を押しながら走っていく。

 その後を余裕の表情のステラもついていき……やがて、4人は洞窟の中に入り込む。

 丁度風が入り込まないような位置にある洞窟の中が何故明るいのかは、中に転がっている点滅する光源石が教えてくれた。

 そして……狭い洞窟の奥に横たわる光源石の持ち主らしき人物を見つけると、イストファはドーマへと振り返る。


「ドーマ、これ!」

「ええ、こっちは任せてください」


 イストファの投げたマントの上にドーマがカイルを寝かせているのを確認すると、イストファは洞窟の奥に横たわる人物へと駆け寄る。

 厚めのマントを布団のようにかけられたその人物は、焦点の合わない目でイストファを見ると「ああ……」と呟く。


「よか、った。戻ってきたん、ですね……」


 どうやら意識が朦朧としているようだが、顔が真っ青で明らかに弱っている。

 この寒さのせいかもしれないし、マントの下で怪我をしているのかもしれない。

 しかしマントを剥げば体温も下がってしまうだろうし、怪我の有無を確認したところでイストファには何もできない。

 ドーマを呼ぶべく振り返ろうとして……その頭を、ステラの手がポンと叩く。


「どいてなさい。私が診るから」

「あ、はい!」


 慌てて場所を譲ったイストファの代わりにステラはその場に膝をつき、かけられたマントを軽く剥ぐ。

 革の鎧には傷一つないが、足には大量の出血の跡があり……どうやらスノウウルフに噛み砕かれたのだろう事が分かる。


「……この階層に来るような装備じゃないわね」


 装備のグレードとしては、イストファが最初に着ていた堅革鎧に近い。

 これでは3階層どころか、2階層すら越えられるか怪しい。

 となると、4階層に転送機能を使って直接来たと考えられるが……そこでステラは素性についての思考を打ち切る。

 症状は怪我と、寒さによる体力の低下。簡単に言えば死にかけているが、まだ助けられる範囲だ。


「ヒール」


 ドーマと同じヒールではあるが、比べ物にならない魔力を注ぎ込んだヒールは一瞬で足の傷を治していく。


「ホットフィールド」


 続けて唱えたのは、火の初級魔法。カイルも使ったヒート系の更に下位に位置する系統だが、寒い洞窟の中の温度を「ほんのり暖かい程度」に上げていく。これで、これ以上の体力の低下は防げたが……すでに失われた分の体力が回復するわけではないし、それはヒールの範疇でもない……が、とりあえずはこれで充分だ。


「……どう、ですか?」


 ステラによる治療がひと段落ついた事を察したイストファに振り向くと、ステラは優しく笑う。


「まだ完全に回復したわけじゃないけど、とりあえずは大丈夫よ。あとは暖かいものでも食べて、しっかり休む事ね」


 言いながらステラは小さなカップを取り出すと「ウォーター」と「ホット」と連続で魔法を唱えカップの中にお湯を作り出す。


「ま、とりあえずはこんなところかしらね……さ、飲める?」

「うぅ……」


 多少顔色が良くなってきてはいるが、まだ本調子なはずもなく……横たわっていた冒険者はステラに起こされ、慌てて手伝ったイストファに支えられながらお湯を少しずつ口に含んでいく。

 ゆっくり、ゆっくりとお湯を飲み干し……ほう、と息を吐いた冒険者の目には確かな意思の光が戻り、カップを置くとステラに頭を下げる。


「何処の何方かは存じませんが、助かりました。たいした物も持っていませんが、ボクの持っている物で何かご入用の物があればお持ちください。それとも、現金の方が……?」

「別にそんなのはいいわ。ちょっとカッコいいとこ見せたかっただけだしね」

「それは……いえ、それでも助けられたのは事実です」

「お礼の言葉は受け取っておくわ。それで充分」


 肩を竦めるステラに冒険者は困ったような表情で……まだイストファに支えられたままである事に気付き「あ、すみません」と呟く。


「けれど、その。もう少しこのままでいてくれると助かります……情けない話、まだ自力では……」

「いえ、構わないです。僕に出来ることは、このくらいなので」


 言いながら、イストファは支えている冒険者を間近からじっと見る。

 触れている肩は細く、何処となく頼りなげ。肩くらいまでの青い髪は僅かにウェーブがかっていて、なんとなく年も同じ頃であるように思えた。

 全体的な印象でいうと、同年代の女の子なんじゃないかな……と、そう思えて。

 女の子には特に優しくするべきという、酒場か何処かで誰かが言っていた言葉を思い出しイストファは努めて笑顔を作る。


「えっと……僕はイストファ。君は?」

「ボクは……ミド。良く間違えられるので先に言うと、その……男、です」

「えっ」

「あら」

「え、男?」

「何!?」


 イストファとステラだけではなく、ドーマと……早くも完全復活したカイルまでもが驚きの声をあげて。ミドは色々と諦めたような複雑な笑みを浮かべた。

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