甘ぇんだよ、バーカ
本日8/10はツギクルブックス様より書籍発売の日です。
どうぞよろしくお願いいたします!
「さて、こんなところにいつまでも居ても仕方ないし、行きましょっか!」
そんなステラの言葉に従うように、イストファ達は4階層の探索へと進みだす。
先頭はイストファ、その後ろにカイル、そして最後尾にドーマ……なのだが、今は最後尾はステラ。
今イストファ達が居る場所から何処へ向かって進めばいいかという疑問は沸かない。
明らかに整えられた……例によってどこの誰が整えたのかも分からない道ではあるが、山頂へと続く道がある。
イストファがその道の一歩目を進みだしたその瞬間、ゴンッという鈍い音をたてて何かが上方に現れる。
それは一言で表すならば巨大な球。しかしそれは当然、球ではない。
「ボールバグ! まともに受けんな、吹っ飛ばされるぞ!」
そう、それは一言で言うのであればダンゴムシだ。丁度イストファの身長と同じくらいの大きさの巨大ダンゴムシ、ボールバグは坂道を転がりながら突撃してくる。
普通に考えれば避けるのが正解。だがこの坂道に並んでいる今、イストファが避ければカイルにぶつかる。小盾で受け流すなど出来ない。短剣で斬るには、あの外殻は堅そうだ。
ダメだ。迎撃は不可能。ほぼ一瞬でそう判断すると、イストファは振り返りカイルを掴む。
「右! 跳んで!」
「うおっ」
「はい!」
イストファはカイルを掴んで跳び、ドーマも飛び込むようにして跳ぶ。そしてステラは……すでに移動済。
そうして避けたイストファ達をボールバグは追い越し……その直後、ピタリと停止する。
当然だ。勢いあまって落ちるなどということを高山に住む者がするはずもない。
ぐるりと回転したボールバグは球状の形態を解き、そのダンゴムシそのものの姿を見せる。
「任せろ! ファイアボール!」
カイルの放った火球がボールバグの正面で炸裂し、ギイイという悲鳴が轟く。
だが焦げ跡こそついているものの、ボールバグを倒すほどではない。
「チッ……! もっと上の魔法でないとダメか!?」
「いえ、充分です」
言いながらドーマは飛び出し、ヘビーウェポンをメイスにかける。
一気に重量の増したメイスで狙うは、カイルのファイアボールの作った焦げ跡。
「ギイイイイイ!」
無数の足を動かしながら登ってくるボールバグを見据え、ドーマは走る。
見るからに硬そうな……全身鎧で武装したようなモンスター。
だが、鎧ではない。カイルのファイアボールで焦げるような「皮」だ。
ならば、充分に砕ける。
「てやあああああああ!」
ボールバグの突撃を迎え撃つように、ドーマのメイスがぶち当たる。
鋼鉄製のメイスはファイアボールで弱った外殻を打ち砕き、体液を噴出させる。
だが、あまりにも重い衝撃はドーマの腕に少なくない反動をもたらし、一瞬の痺れを与えてしまう。
「ギアアアアアア!?」
「くっ……!」
暴れるボールバグの再度の突撃をドーマは盾を構え、なんとか防ぎきる。
勢いがのっていない突撃だというのに、重い。骨にミシミシと響く重さを感じるドーマだが……その横に、ぜえぜえと息をきらせたカイルが現れる。
「なっ!? ちょ、カイル! 貴方何を……」
「何をじゃねえよ。こうだ!」
カイルはドーマの砕いた外殻から杖を差し込み……使い慣れた「その魔法」を唱える。
「フレイムッ!」
ゴウ、と杖から炎が噴き出す。砕かれた外殻の中から炎を流し込まれたボールバグは悲鳴をあげ、ジュウという音が響き始める。
「よし、離れるぞ! 頼む!」
「はあ!?」
そんな声をあげながらもドーマはカイルを抱えて上へと走り……その背後で、ボールバグの外殻の中から盛大に炎が吹き出し始める。しばらくその場で暴れていた燃えるボールバグはしかし、何も出来ないままに焦げた外殻を残し崩れ落ちる。
焦げ臭い匂いを漂わせるボールバグは到底生きているとは思えず、ドーマはホッと息を吐きながらカイルを地面に落とす。
「いてっ!」
「あ、すみません」
「いや、別にいい。それより上手くいったな」
「ええ」
「どうだ、見てたかイストファ!」
カイルは起き上がりながらイストファへと振り返り……そこで、イストファが上空を見上げながら短剣を構えている事に気付く。
「おい、何して……」
言いかけて、カイルもドーマも気付く。
イストファの見つめる先、上空に旋回するように1羽の黄色い鳥が飛んでいる。
その鳥の……鳥型モンスターの、名前は。
「サンダーバードだ! 雷の魔法を使うぞ!」
その声が届くか否かというタイミングで、上空のサンダーバードから小さな稲妻が降る。
文字通り光の速さで放たれたそれは避けることを許さずイストファを撃ち抜き、僅かな苦痛の声をあげさせる。
「くっ……!」
「イストファ! このやろう、ウインドカッター!」
カイルの放った風の刃はアッサリとサンダーバードに回避され……しかし続けて放たれた2発目のウインドカッターがサンダーバードの翼を断ち切る。
そして空舞う力を失い落下するサンダーバードは、それでもただでは死なぬと言わんばかりにその身体に電撃を纏わせ……迫ってきた火球に焼かれ絶命する。
「甘ぇんだよ、バーカ」
当然、その火球を……ファイアボールを放ったのはカイル。
手の中でクルリと杖を回転させると、不敵な笑みを浮かべる。
「流石俺。魔力さえありゃ、このくらいはお手の物……ってな」
需要があるか分からない設定コーナー
カイルの魔法「フレイム」はカイル曰く初級魔法ですが、火の魔法は細かいランク分けがあります。
ホット、ヒート、ファイア、フレイム……といった感じのランクで、まだ更に上のランクがあります。
この内、ヒートまでは攻撃力が皆無に近いので実際はファイアが初級ランクです。
……つまりカイルは「フレイム」を初級の範疇と言っていますが、天才の言うことなのでマトモに受け止めてはいけない感じになっています。
たぶん普通の魔法士に同じ事を言うと助走をつけたドロップキックが炸裂します。





