最初に見た奴は皆そう言うな
「戦い方、ですか?」
「おう。まさかお前、空飛ぶ気じゃねえだろ?」
言われてイストファは「あっ」と声をあげる。
そう、4階層の敵が空を飛ぶ事はステラからも聞いていた。
しかし……そんな敵と「どう戦うか」をあまり考えていなかった事に気付いたのだ。
「えっと……向こうだってこっちを攻撃するときに降りてくるだろうなって思ってたんですけど」
「まあ、そういうモンスターもいるわな。そうじゃなかったらどうする」
考える。イストファの短剣が届かない相手なら、どうするか。
一番有効なのはカイルの魔法だろう。カイルの魔法の威力は少しずつではあるが上がっている。
4階層のモンスター相手には一番有効な手段と考えていいはずだ。
しかし逆に言えば、それ頼りになる事は避けられない。となると、イストファかドーマが遠距離攻撃手段を獲得する事が4階層攻略の鍵になるのは間違いない。
しかしドーマはともかくイストファには魔力が無いから魔法は使えない。
「……僕が弓を使う、とかでしょうか」
「ま、その辺りが妥当だな。あまり勧めはしねえが」
「え?」
フリートの言葉に、イストファは思わずそんな声をあげてしまう。
これしかないと思ったのだが、まさか「勧めない」という言葉が返ってくるとは思わなかったのだ。
「理由は簡単だ。荷物が増えればその分動きが制限される。武器が増えれば武器選択切り替えの隙が出来る。後衛ならともかく、前衛にとっては何一つとして良い事がねえ」
「う……でも、何も出来ない前衛っていうのは」
「前衛ってのは前を守るから前衛ってんだよ……ってもまあ、俺の聞き方が意地が悪かったってのは認めるがな」
言いながら、フリートはイストファの肩を叩く。
「仲間を頼れ。パーティってのはそういうもんだ」
「仲間……」
「勿論、自分がどうにかしなきゃって気概は必要だけどな。仲間が居なきゃどうしようもねえってのは一番危険だ」
「難しい、ですね」
「そんなもんだ」
ガハハと笑うフリートにイストファも小さく笑う。ひとしきり笑いが収まった後、フリートは「さて」と言いながら店の棚を探り始める。
「その頼るべきお前の仲間達は中々来ねえみてえだし、先にサイズ合わせしちまうか」
「サイズ、ですか? でもケイさんはまだ」
「ん? ああ……何してんだかな」
言いながらフリートが取り出したのは、棘のようなものがついた靴底……にも見えるものだ。
靴底というにはスカスカで、まるで金属の骨組みのようにも見える。
「こいつは後付けのスパイクだ。北国の冒険者が使ってるやつだな」
「へえ……なんだかカッコいいですね」
「最初に見た奴は皆そう言うな」
フリートは言いながら、スパイクをカウンターに置く。
「目測だが、大体合ってるはずだ。合わせてみろ」
フリートの持ち出してきた椅子に座り、イストファはスパイクを靴に取り付けていく。
金具で固定するタイプのものだが、ガッチリ嵌まったスパイクはちょっとやそっとでは外れそうにもない。
「えっと……これで大丈夫ですよね?」
「ああ、それにサイズも問題なさそうだな。さて……と」
「お父さん、マント持ってきたよー!」
「ん? おう、随分時間かかったじゃねえか」
戻ってきたケイの抱えたマントを見て、フリートは頷く。
「見た感じ、サイズも良さそうだな」
「子供用サイズなんて中々ないから苦労したよう……」
「なんかすみません」
「え! いいのいいの! これもお仕事だから!」
謝るイストファにケイがパタパタと手を振るのをそのままに、フリートはイストファの側にしゃがみこんで工具でスパイクをコツコツと叩く。
「うん、金具の方も問題ないな。キッチリ嵌まってる。あとは、お前の仲間2人だが……」
そう言った瞬間、店のドアが乱暴に開かれカイルが店に駆け込んでくる。
「喜べイストファ! 冒険者ギルドに帰還の宝珠が入荷してやがった!」
「ちょっとカイル、ドアはもう少し静かに……」
続けて入ってきたドーマが「すみません」とフリートを見つけて頭を下げるが、フリートは静かに……しかし深く溜息をつきながら立ち上がりスタスタとカイルに向けて歩き出す。
「お? どうしたオッサぐあ!」
強烈なデコピンを受けたカイルが痛みに額を押さえながら蹲り、ドーマが驚いたような……しかし仕方ないといったような表情になる。
「店のドアは静かに開けろ。酔っ払いやチンピラじゃねえんだ、マナーってのは大事だぞ」
「ぐおお……す、すまん。だが客に手を上げるのはいいのかよ」
「だから軽くすませただろが。ロクな客じゃねえと判断してたら、今頃通りの向こうまでブッ飛ばしてるぞ」
言いながらフリートはカイルとドーマの足元を素早く確認すると棚からスパイクを2セット取り出す。
「ほれ、お前等も合わせとけ。これで3人揃ったから値段の話をするけどな」
「あ、はい」
「4階層攻略までのレンタルで3人合わせて2万イエン、壊した時の為の補償金を1万イエン。合わせて3万イエンでどうだ?」
買うほど多用するもんでもねえからな、と言うフリートにイストファ達は顔を見合わせ……同時に頷き、それぞれの懐から1万イエン金貨を取り出す。
「それでお願いします、フリートさん」
意外と高かったマントを合わせて、1人3万イエンの出費。
カイルが「安物だな……」と呟いてフリートの額に青筋が浮かぶ場面はあったが、とにかくこれで出発の準備は整ったのだった。





