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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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盾はブーメランじゃねえんだぞ

「買います」


 対するイストファは、即答。一瞬も悩む様子を見せないその姿に、逆にフリートの方が引いた様子を見えてしまう。


「ぬっ……いや、いやいや。ちょっと待て。少しは考えろ」

「考えてます。それに、僕の事を考えてくれるフリートさんのお薦めなんです」

「だから待て! あー、もう! 危なっかしいなお前は!」


 頭をガリガリと掻くと、フリートはふうと息を吐く。

 それを見てイストファも思うところがあったのか「えーと」と言葉を探すように指を軽く動かす。


「……それに、その。昨日の戦いで盾も壊れましたし、成長する盾っていうのはいいと思うんです」

「普通は壊れる前に買い替えるんだよ」

「それに」

「それと、コレ買ったらまたお前儲けからは遠ざかるからな。魔石使うんだからよ」

「うっ、でも」

「そもそも盾壊れるような激戦ってことは……また怪我したな? 今度は何処だ」


 フリートに反論を封じられ睨まれて、イストファは視線を逸らしながら「えっと……お腹をちょっと……」と呟く。聞いた瞬間フリートはイストファのチェインシャツを捲り、傷一つないお腹を確かめる。


「フン、傷はヒールで治したみてえだな」

「は、はい。ドーマがやってくれて」

「ヒーラーをパーティに入れとくのは必須だ。まあ、その分傲慢になったヒーラーも多いんだがな」


 言いながらフリートはイストファから離れ、カウンターに戻っていく。


「その、詳しいんですか?」

「鍛冶の為に冒険者もどきをやってた事もあるからな。今でも自分ってもんを勘違いした馬鹿を叩き出すくらいの力はある」


 そういえばよく冒険者を叩き出してるよな……と思いイストファは苦笑する。

 いつだったか、あの銀級の剣士もフリートに叩き出されていた。

 そう考えるとフリートは銀級と張り合えるか、勝てるくらいの力がある事になるのだが……ちょっと怖くなってきたのでイストファは頭をブンブンと振ってその考えを追い出す。


「でも、それはそれとして。その盾が欲しいです」

「勧めた俺が言うのもなんだがよ、お前俺が言ったからって視野が狭まってるんじゃないだろうな」

「そんな事ないです。ちゃんと考えてます」

「ほう、言ってみろ」

「戦いで壊れても魔石で直せるから心配いらないなって……いたあ!?」


 鈍い音をたててイストファはフリートに頭を叩かれる。

 拳ではなく平手なのに、物凄く痛い。思わず涙目で頭を押さえるイストファに、フリートは今日何度目かの溜息をつく。


「壊す前提で話をするんじゃねえよ。どう無茶したか分かる分、普通の装備渡した方がマシな気がしてきたぞ」

「うう、でも戦いは命がけですし……」

「まあな。今どきの連中は安全マージンを確保することに夢中だが、昔はそうじゃなかった。命がけの中で自分を高めることに夢中な連中ばっかりだったもんだ」


 ダンジョンで戦ってモンスターを倒せば、確実に強くなれる。成果の約束されたダンジョンでの戦闘は、いつしか「確実に次の階層で安全に戦えるようになる」まで、その階層で戦い続けるといったような安全策を生み出した。

 それは冒険者ギルドも推奨する戦闘法であり、冒険者の死傷率を著しく下げる効果もあった。

 しかし同時に、力任せで戦う冒険者が増えたのも……また、事実であった。

 それ故に各種の道場や学校も栄えたが、フリートからすれば首を傾げる事も多い。


「命がけの中でこそ、見えるものもある。外側ばっかり取り繕ってる奴が、いざ命がけの戦いに出会ったときに……生き残れんのか、とは思うわな」


 イストファが思い出すのは、ゴブリンヒーローとの戦いだ。

 あの時重戦士のグラートは心を折られかけていた。それはフリートの言うような「安全マージン」や「命がけ」の問題なのだろう。そして……何となくだが、ステラが自分にあまり何かを教えない理由も、分かった気がした。


「そっか。だからステラさんは……」

「あのエルフか。どうだ、いい師匠やってんのかアレは」

「はい。たぶん、凄く」

「……ならいいんだがよ」


 言いながら、フリートはカウンターの上の迷宮黒鉄の小盾をコツンと叩く。


「ま、色々言ったが……こいつがお前に合ってると思って造ったのは事実だ」

「はい」

「もう知ってるとは思うが、小盾ってのは受け流すもんであって基本的に攻撃を受けるようには造られてねえ」

「はい。ちゃんと受け流してますし、殴ったり投げたりするのにも使えますよね」


 いい笑顔でそんな事を言うイストファにフリートはグッと拳を握り、イストファはサッと頭を手で防御する。


「妙な使い方してるのは一目見りゃ分かったがよ……盾はブーメランじゃねえんだぞ」

「ご、ごめんなさい。でもそうしないと間に合わない時もありますし」

「んな事分かってんだよ、ったく……4階層でそんな使い方してたら、二度と回収できなくなるからな」


 言いながらフリートはイストファから金貨1枚を受け取ると、思い出したように「む」と唸る。


「……そういやお前等、4階層対策はいいけどよ。どうやって戦うかは考えてんのか?」

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