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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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ひょっとしてカイルって

「え? ステラさんが……ですか?」

「そうよ。嫌かしら」

「そ、そんなことないです!」

「ん、よかったわ」

「いやいやいや、待て!」


 アッサリと説得されたイストファとは違い、カイルは慌てたように声を張り上げる。


「なんで突然そんな気になった!? つーかお前仕事中なんじゃ」

「そうね。でも気にする必要は無いわよ」


 言いながら、ステラは思い出したように「ああ」と頷く。


「心配はいらないわよ? 基本的に手出しはしないわ。成長の邪魔するのは問題だものね」

「そんな事は心配しちゃいねえが……」

「というかカイル。何がそんなに問題なんです?」

「何がじゃねえだろドーマ。お前だって驚いたくせに」


 そんなカイルの不満そうな声に、ドーマは軽く肩を竦める。


「そりゃまあ、驚きましたよ? でも、彼女は一応イストファのお師匠様なのでしょう? 別におかしい事でもないかと」

「おかしいんだよ。今までの事から判断する限り、そいつはラーゼイルと同じタイプだぞ」

「ラーゼイルって、この国の騎士団長の1人ですか? そんな噂しか知らない人の事を言われても……」


 ラーゼイル紅槍騎士団長。この国でも5本の指に入る剣士とも噂される人物の名前を出されて、ドーマは困ったような顔をする。

 噂だけは知っていても、会ったこともないような人物に例えられてドーマに分かるはずもない。

 そしてそれはイストファも同じであったが、まるで知り合いであるかのようにラーゼイルという人物を語るカイルに首を傾げてしまう。


「……ひょっとしてカイルって、そのラーゼイルって人と知り合いなの?」

「ん? んん! いや、俺の事はどうでもいいんだ。とにかくこいつはな、基本人に教えないタイプなんだ。教えなきゃどうしようもない事は教えるけど、それ以外は個々の成長に任せるとか言って放置するような奴だ。間違いない」

「間違ってはいないわね」

「ほらな!」


 やっぱりだ、と叫ぶカイルだが、イストファとドーマはカイルをチラチラと見ながら囁き合っている最中だった。


「……どう思います、イストファ」

「僕、カイルはお貴族様だとずーっと思ってたんだけど」

「騎士団長を呼び捨てとか、相当高位の貴族ですよ。下手すると公爵の息子ってのも有り得ますね」

「それって、どのくらい凄いの?」

「王族を除けば最高位ですね……イストファは貴族については?」

「偉い人っていうのは知ってる」

「……今度教えてあげますね」

「聞けよ!」


 イストファとドーマの間に突進するようにして割り込むカイルに、イストファが「大丈夫だよ、聞いてるよ」と返す。


「でも結局、何が問題なのか分からなかったんだけど」

「目的が見えねえだろうが」


 カイルに言われて、イストファは口元に手をあてながら考える。

 確かにステラは今までイストファ達についてきたことはない。

 それはイストファとステラの実力に開きがありすぎるからであり……イストファの成長を促す為であることは分かっている。

 そのステラがイストファ達とダンジョン内で一緒に行動するというのは、確かに今までなかった事ではある。


「あの、ステラさん」

「うん、なにかしら?」

「ひょっとして……僕に何か教えてくれるんですか?」


 ステラから教わった事は、あまり多くはない。しかしどれも有用な事ばかりだ。

 今回も何かあるのでは……と考え投げかけたイストファの問いに、ステラは「んー……」と少し考えるような素振りを見せる。


「そういう事もあるかもしれないわね。でもね、イストファ。これは覚えておいてほしいんだけど……私は君を私のコピーにするつもりはないの」

「コピー……ですか?」

「そうよ。私のやり方を叩きこんでも、私の劣化品にしかなれないわ。あるいはそこから羽ばたく者もいるかもしれないし、イストファはそうであると信じてるけど……それは結局、伸び方を整えられたものでしかないわ」

「え……っと」


 意味が理解できずに疑問符を浮かべてしまうイストファに、ステラは微笑みを浮かべながらその頭を撫でる。


「私の想像できない、いずれ私を超える男の子であってほしい……ってことよ。それには『先人のやり方』を教えてしまうのは悪影響だわ。勿論最低限の事は教えるけど、私はイストファに無限の可能性を持ってほしいの」


 たとえば同門の剣士が争えば互いの手の内を把握できるというのはよくある話だが、それは師匠と弟子でも同じことが言える。

 剣の振り方ひとつとってもクセがあり、それを事細かに教えれば弟子は自然と師匠の動きをトレースするようになっていく。ステラが嫌なのは、イストファが「そう」なることなのだ。


「……師匠ってのは弟子に自分のやり方を伝えるもんだろうに」

「伝えるわよ? 必要だと思えばね」


 言いながら、ステラはカウンターテーブルに置きっぱなしだったスープを再度飲む。


「ほら、そんな事より早く飲まないと……冷めちゃうわよ?」

「……最初の質問に答えてねえぞ」


 食い下がるカイルにステラは肩を竦め、「そうねえ……」と呟く。


「色々な事情で、かしらね。勿論イストファの成長を実際に目で見たくなったっていうのもその1つよ?」


 そう言って笑うステラにイストファは「頑張ります!」と素直に答えるが……カイルは胡散臭いものを見るような目で見ていた。

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