うん、ドーマなら大丈夫だよね
「でやあああああ!!」
イストファの声が3階層に響く。神官戦士となったドーマの能力上昇は凄まじく、イストファを先頭に三階層をこれ以上ないくらいに順調に進んでいた。
勿論ゴーストやスケルトンの数も多いのだが……倒し方が分かっている以上、あとは慣れの問題でしかない。
ヘビーウェポンのかかった短剣で斬り裂き、叩き……そして後衛のカイルを守るドーマも、全く隙がない。背後に出現したゴーストを一瞬で霧散させたドーマは、荷箱の中から現れたスケルトンの頭蓋にメイスを振り下ろし破砕する。
「ふー……」
「これで終わりみたいだな」
「うん、カイルもドーマもおつかれさま」
魔石を集めて戻ってきたイストファにドーマも頷くと、回収した魔石をその手に乗せる。
「いい調子で進めていますね」
「うん。やっぱりドーマのおかげかな?」
「だろうな」
イストファにカイルも同意し、ドーマの姿を再度見回す。
元々動きは良かったドーマだが、鎧による重量が増えているというのに更に動きが良くなったようにカイルには見えた。
「そういやお前、ダンジョン入るときに何か祈り捧げてたよな。アレ、何かの魔法だったんじゃねえか?」
「正解です。実は神官戦士になった事で新しい魔法を幾つか授かりまして……」
言いながらドーマは軽く視線を逸らす。
「なんでしょうね。神殿の人達もこんな事態は初めてとのことでして……恐らく私の神は神官より神官戦士を望んでいたのではないかと……」
「はあ? お前の神って確か迷宮武具の神だろ?」
「ええ。迷宮武具の神ニールシャンテです」
「……普通武具系の神はそういうのじゃねえんだが……まあ、いいか。どんなの授かったんだ?」
そしてドーマが説明したのは、3つの魔法。
1つ目はバトルクレスト。神に祈りを捧げる事で自分の身体能力を僅かに上昇させる魔法。
2つ目はヒールショット。中距離程の距離に放つ事の出来るヒール。
3つ目はヘビーシールド。盾を重くする魔法。
「……お前の神はなんなんだ。武具を重くしたり軽くしたりするのが好きなのか?」
「私に言われても困りますよ」
「でも、ヒールショットっていうのは凄いよね? バトルクレストっていうのもドーマが強くなるんだし」
カイルと比べてイストファは感心したような声をあげるが、カイルは微妙に渋い顔だ。
「……まあ、そうなんだけど……な」
「けどって。何か問題あるの?」
「あるっちゃあ、ある」
まずバトルクレスト。これは当然ながら効果が永続的ではない。どの程度で切れるのか自身で把握していないと、大事な場面……たとえば鍔迫り合いの最中に効果が切れて倒されてしまうことだってあるだろう。集団戦の時にかけ直す暇がない事だってあるし、バトルクレストがかかっている時の感覚と平常時の感覚に差異も出るだろう。熟練が必要な魔法だ。
そしてヒールショット。これは普通に便利な魔法だが……他の射程距離を持つ魔法同様に……誤爆、するのだ。
「たとえばだぞ。あと少しって時にヒールショットで敵を回復させちまう可能性だって、当然ある。ヒールショットは神官が後衛としてやっていくのに必須の魔法だが、常に動き回ってるお前とは相性が悪いぞ」
「う、うーん……つまり重戦士向けの魔法って事?」
「平たく言えばな。だがまあ、ドーマ次第ではある」
「そこは勿論、頑張らせていただきますよ?」
「うん、ドーマなら大丈夫だよね」
イストファが笑い、ドーマも頷く。カイルとしても、それに異存はない。
ないが……どうせ授けるなら範囲回復のヒールウェーブの方が良かったな……とか、やっぱりヘビーシールドはねえだろ、とか思ってしまうのだ。しかし、それはカイルの高望みであるという事も自分自身で分かってもいた。
「ま、使える手が増えたのはいい事だしな」
「そうそう。それに実際ドーマも強くなってるしね」
言いながらイストファは、視線を先へと向ける。
此処に来るまでの間、1階層や2階層で出会ったようなレアモンスターにも出会わず、実に順調だったせいか……イストファ達の視線の先には、砦らしき建物が見えている。
揺れる船の先に見えるその場所はどうやら島であるらしく、この船から乗り移る事が出来るようだった。
その砦の閉じられた扉の前にいるのは、船長帽と呼ばれる類の特徴的な帽子とコートを着た一体のスケルトン。その周囲には普通のスケルトンが数体いるのも見えている。
「……だから、僕達ならアレも倒せるよ」
「ああ、当たり前だろ」
「ですね。作戦はいつも通りでいいですよね」
手の中の短剣を握り直すイストファに、カイルとドーマも頷く。
「よし、行こう!」
「ええ、念のためにかけ直しておきますよ。ヘビーウェポン!」
短剣を構えたイストファが走り出し、続いてドーマが、少し遅れてカイルが走りだす。
当然3階層の守護者であるキャプテンスケルトンも気づいていたのだろう、カトラスをイストファ達へと向け号令らしき「ガア!」という叫び声をあげる。
同時にスケルトン達が走り出し……3階層突破の為の戦いが始まった。





