でも、2人で出来る事って?
地上に戻ってきた時には、すっかり夜。再びカイルの部屋へと集まったイストファ達は、ドーマからの説明を受けていた。
「神官と神官戦士とは、似て非なるものなのです」
「そうかあ?」
「そうなの?」
「……そうなんです」
イストファはともかくカイルは何故分かってないんだと言いたげなドーマだったが、何も言わずに軽い咳払いをする。
「神官は祈り捧げる者、対する神官戦士は神の剣として扱われます。この差は主に武装に出ますが……授かる魔法にも現れると言われています」
たとえば神官は回復魔法や防御魔法などを授かりやすいが、神官戦士は戦闘面に偏った魔法を授かりやすいと言われている。
「なんだ、それならやっぱりお前神官戦士じゃないか」
「はあ!?」
「だってお前、ヒール以外に覚えてるのは武器の強化魔法だろが」
「うぐっ!」
言われてドーマは思わず胸を押さえる。確かにドーマが授かっている魔法はヒール、ヘビーウェポン、ライトウェポン、合成の4つ。今の説明で言えば神官戦士のラインナップだろう。
「そもそもお前の神って迷宮武具の神だろ……? 神官戦士=神官みたいなもんじゃないのか?」
「そ、それは……いえ、まあ、そこはいいでしょう。とにかく、神官から神官戦士、あるいは神官戦士から神官になるには神殿で祈りを捧げねばなりません。およそ2日程かかります」
「それは……別に問題じゃないよね」
「ああ」
イストファとカイルは互いに頷き、代表するようにイストファが口を開く。
「それより大事なのは、ドーマがどう思ってるかだと思うな。神官戦士になるのに抵抗があるなら、僕はならなくていいと思う」
「え? けれど、それでは」
「自分の大事な物を曲げるのは良くないと思う。今のままでダメなら、大丈夫になるまでやればいいんだから」
イストファは、心の底からそう思っていた。仲間の為に、という言葉は立派だが……それは自分のなりたいものを曲げてまでやることではない。ドーマが何かしらの目標を持っているのは何となく察していたし、それに向かって進むべきだと……そう考えていたのだ。
「ドーマは、なりたいものになるべきだ。僕はそう思う」
「イストファ……」
その言葉に、ドーマは自分の胸元でギュッと拳を握る。少しの無言の後……その顔に浮かんでいたのは、笑顔だ。
「……そうですね。では、私は神官戦士になろうと思います」
「え、でも」
「これもまた、神の導きであるかもしれません。それに……私自身、少し伸び悩みを感じてはいました」
自身の魔力よりは身体能力寄りの成長。激戦を乗り越えてきた割にはあまり授からない魔法。
何かが足りないのではないかと、そう悩んでもいた。
ならば、神官戦士という形を試してみるのもいいだろうと、ドーマはそう思うのだ。
「明日と明後日、お休みを頂くことになりますが……構いませんか?」
「うん、問題ないよ。ねえ、カイル」
「ああ、何も問題ねえ。俺とイストファは2人で出来る事をするさ」
「む、また私を仲間外れにする気ですか」
冗談めかして言うドーマにカイルは「違ぇよ」と笑う。
3人の笑い声が部屋に響き……イストファはそこでカイルへと視線を向ける。
「でも、2人で出来る事って?」
「決まってんだろ……金稼ぎだよ」
そう言うと、カイルは懐から金貨を取り出し指で軽く弾く。
キン、と甲高い音をたてて回転する金貨は再びカイルの手の中へと収まり……カイルはその輝きを部屋の明かりに反射させる。
「何をするにもコイツが必要だ。ドーマが居ねえからってサボっていいなんて理屈もねえし、金は稼がなきゃ減る一方だ」
「うん」
それはイストファにもよく理解できている。今はステラの好意で宿代はかからないが、それが全てではない。それを含めても、イストファは自分で何もかも賄えるくらいに稼がなければならないのだ。
「かといって、ダンジョンの外で金稼ぎをしてる程俺達は強いってわけでもねえ。何しろダンジョンの外のモンスターは俺達に分かりやすい成長をくれないんだからな」
カイルの言う通り、ダンジョンの中で得られる強さは外で得られる「技術面や心の成長」といった概念的な強さとは全く異なるものだ。強くなりたければダンジョンに潜るのが一番というのは、誰もが理解している真実だ。
「だから……」
「ドーマが居ない間、僕たちは僕たちで強くなってお金も稼ぐ……ってことだよね」
「そうだ。特に今回は金稼ぎを主目的にする」
金稼ぎを主目的。そう聞いてイストファは魔石を思い浮かべる。確かに魔石をたくさん売れば強くなるし相当のお金も稼げるだろう。そう考えたイストファは頷くが……カイルはそんなイストファの反応を見てニヤリと笑う。
「たぶんお前の想像してるのとは違うぞ」
「え? 魔石集めじゃないの?」
「魔石も集めるけどな。お前……第2階層で言われたこと、覚えてるか?」
イストファは第2階層の事を思い出す。あの階層で言われたこと、それは確か。
「……お金を稼げる?」
「そうだ。明日からの2日間、俺達は第2階層で果物を集めて冒険者ギルドに売るんだよ」
目指すは高額のやつだな、と。そんなカイルの呟きは自信に満ち溢れていた。
上手くいかないなら、一旦足踏み。
それもまたダンジョン探索の形です。





