いや、それは正直無駄だと思う
切り裂く、霧散する。ドーマが短剣に籠めた魔力が消えていくのを感じながら、イストファは周囲にモンスターが残っていない事を確かめる。
先程のスケルトンのように甲板から出てくるモンスターは、もう居ないように見える。
見えるが、油断せずに周囲をしっかりと見回し……ドーマへと手を差し伸べる。
「大丈夫? ドーマ」
「え、ええ。それよりカイルは……」
「うん、念の為ヒールかけてあげてほしいんだ」
ドーマがイストファに手を貸され立ち上がると、2人で倒れたままのカイルへと近づいていく。
まずはイストファが近づき、軽く揺すると「うっ……」という呻き声と共にカイルが目を開ける。
「カイル、大丈夫?」
「うぐ……お、おう。畜生、情けねえ……」
「まだ動かないでください……ヒール」
ドーマのヒールの魔法がカイルを癒していき……やがてカイルは少しふらつきながらも立ち上がる。
「予想より多かったのは確かだが、これじゃ先が思いやられるな」
「そうかな。あの数じゃ仕方ないと思うよ」
「そういうわけにもいきませんよ。囲まれたら生き残れないというのでは、先の階層に進めても生存が難しいということですし」
「そういうこった」
ドーマに頷いてみせると、カイルはいら立ちを隠すように軽く髪をかき上げる。
「イストファ、お前は戦えてた。問題があるのは、俺等2人だな」
「まあ……そうですね」
カイルは基本的に後衛だし、ドーマも純粋な前衛ではなく、むしろ支援役だ。
しかしイストファが手が回らないときには当然どうにかなるまで自衛する手段は求められる。
今回に関してはイストファが間に合ったとも間に合わなかったともいえるが……どちらにせよカイルとドーマが死んでいてもおかしくない事態ではあった。
「でも、それは仕方ないんじゃないかな。僕は前衛だけど、2人は違うんだし」
「そういうわけにはいかねえだろ。これはパーティの死活問題だ」
「なら、今回みたいな場合に僕が2人から離れなければ……」
「アホゥ」
イストファの額を指で突くと、カイルは大きな溜息をつく。
「お前に負担をかけない話をしてんだよ。お前1人で全周守れるわけじゃねえだろ」
「え、でも……」
「私達はパーティなんです、イストファ。貴方1人で苦労すれば大丈夫だなんて、そんな情けない真似私達にさせないでください」
ドーマにそう言われて、イストファは初めて自分の間違いに気付く。
そう、イストファ達はパーティだ。支え合い助け合うからパーティなのであって、イストファ1人で全部やればいいというのは間違っている。
たとえばそれは、このパーティにステラが一緒に居て戦うような……そんな他のメンバーが必要ないというかのような、そんな風になりたいという宣言と変わりない。
「そ、うだよね……ごめん。僕が間違ってた」
「いや、いい。別にお前は責めてねえ」
「ええ、私達の問題ですから」
今のところ、イストファが離れている間にはドーマが盾を構えてカイルを守るようなスタイルだ。
だが、それに限界があることは今日知れている。
ドーマの仕事は重騎士もどきではなくヒーラーだし、カイルも真正面からモンスターとやりあうようなものではない。
言ってみれば、それをやらざるを得なくなっているのが問題なのだ。
「……やっぱり、もう1人仲間が必要……か?」
「それはイストファ以外の前衛ということですか?」
「いや、それは正直無駄だと思う」
言いながら、カイルは今のパーティ構成を振り返る。
まず、前衛のイストファは軽戦士。先程の立ち回りで見せたように縦横無尽に走り回るのが仕事だ。
そして、後衛からの打撃力……というにはまだ弱いが、魔法士のカイル。
そしてヒーラーであり支援役でもあるドーマ。今はカイルの護衛も担当している。
ここに足りない役割……というものは、実はあまりない。
強いていうのであれば罠などへの対応力だが……トラップスミスは大抵攻撃力に欠けているため、そうなるとドーマの負担がまた増える。
「……うーむ。重戦士並の防御力を素で持ってて、尚且つ罠関連に長けた奴が居ればいいんだが」
「居るわけないでしょう、そんなの」
「まあな」
ドーマの冷静なツッコミにカイルが頷き、イストファも苦笑する。
なんとなくステラなら1人で全部出来そうだな……という気はしたのだが、まさかステラに一緒に戦ってもらうわけにもいかない。
「ま、居ねえ以上は俺とドーマで今以上にやるしかねえ」
「それは……そうですが。具体的には?」
「お前が本格的に神官戦士になるか、俺が魔法戦士になるかだな」
「カイルは無理でしょう……鎧着て歩けるんですか?」
黙って目を逸らすカイルを軽く睨むと、ドーマは深々と溜息をつく。
「神官戦士って……軽く言いますけど、そう簡単に出来るものじゃないんですよ」
「今でも大して変わらないじゃねえか」
「そういう問題じゃないんです……はあ、でもそれしかなさそうではありますね……」
「え、何か違うの?」
今でもメイスと盾を持つドーマは充分神官かつ戦士であるようにイストファには思えるのだが……どうにもドーマを見る限りそうではないようであった。
「ええ、色々違います。ただまあ……此処で話す事でもないでしょう」
そう言うと、ドーマは先程渡ってきた大型船の方へ視線を向ける。
「そういうことでしたら……今日のところは戻りますか?」
「俺はその方がいいと思う。イストファはどうだ?」
「あ、うん。僕もそれでいいと思う」
今のままではダメであって、それをどうにかする手段があるのであればそうした方がいい。
そう考えてイストファは頷き……3人は、此処に来るまでの道程を戻っていく。





