で、気付いてるよな?
イストファとドーマは比較的あっさりと、そしてカイルは苦労しながら船を渡る。
渡った先の大型船は今までいた船と作りは似ているが、どことなく古びていて壊れている個所も目立つ。
「なんとか渡れたね」
「ええ、しかし……」
ドーマは言葉を濁しながら、今まで居た大型船を見る。怪しげなものを見るその目付きに気付いたのか、座り込んでいたカイルもフンと鼻を鳴らす。
「気にしてもたぶん仕方ねえぞ。時間がありゃ調べることも出来るかもしれねえが、余計なもんを呼び起こす気もするしな」
「それって……何か危ないモノの仕業ってこと?」
キングスクイードの話を思い出しながらイストファが問えば、カイルは「ああ」と頷く。
「風で動いたわけじゃない。でけえ波があったわけでもない。なのに船が動く理由なんざ限られてるだろ」
「……そっか。下が地面ってわけじゃないものね」
「そういうこった。こうなると、さっき無理矢理小舟で降りなかったのは正解だったな……ゾッとするぜ」
そう、風が吹いたわけでもないのに船が動くということは……そういうダンジョンの仕組みというわけでないのなら、船が動くような何かが海の中に居たということになる。
大型船を動かすようなものともなれば当然その何かも大型……キングスクイードである可能性が非常に高い。
「襲ってこない、よね?」
「分からねえ。だが、さっさと移動してえな」
船を壊すようなバケモノが足元にいる状況程不安なものはない。その気持ちはイストファもカイルも一緒であり……ドーマも2人に頷く。
「けれど、実際どうします? 地図が役に立たない状況ですし」
「んー、そうだな……」
地図に記されたルートは役に立たない。それは実証された。探りながら行くしかないわけだが……。
「あのさ、出口の場所は変わらないんだよね?」
「まあな。流石にそれが変わることはねえ」
カイルの返答にイストファは頷き、先程見た地図の内容を思い出す。
ルートこそ不明だが、出口は分かっている。ならば一階層の時と似たようなものだと……そう考えてイストファは「その方向」を見据える。
「……なら、出来るだけその方向に向かうように進めばいいだけ、なんじゃないかな」
「簡単に言いやがる」
「けれど、それしかなさそうではありますね」
一階層の時のように出口に向けて歩いて行けばいいというものではない。
様々な大きさの船のひしめくこの場所を渡っていかなければならないのだ。
だが……まあ、結局のところ、そんなシンプルな策しか残ってはいない。
「……だな。ったく……もっと知的に攻略したいんだがな」
言いながら、カイルは手の中の杖を軽く握り直す。
「……で、気付いてるよな?」
「うん」
「ええ」
誰に言われるまでもなく、イストファ達は互いを庇い合うように円陣を組む。
ピリピリと肌を刺すような感覚。何処となく下がったように感じる気温。
何かがこちらを見ている。それを悟り警戒する3人を囲むように、甲板に空いた穴からゴースト達がユラリと湧いて出る。
「ドーマ、お願い!」
「ええ、ヘビーウェポン!」
イストファの要請に応えドーマはイストファの短剣に素早くヘビーウェポンをかけ直す。
瞬間、イストファは飛び出してゴーストへと斬りかかる。
「ヒヒヒッ!」
そんな嘲るような声をあげてイストファの短剣をゴーストは回避しようとして……しかし、回避しきれずに切り裂かれ霧散する。
「オオオオオオッ!?」
霧散した仲間を見て他のゴースト達は驚愕の声をあげるが、イストファはその時にはもう其処には居ない。足に力を籠め甲板を蹴ると、短剣の届かぬ範囲へ逃れようと少し高い場所へ浮かんだゴースト達のその真下へと辿り着いている。
「でやあああああ!」
素早くしゃがみ、瞬間的にバネのように勢いよく跳ぶ。
バシュンッと。イストファの短剣に籠められたヘビーウェポンの魔力がゴーストの魔力で構成された身体を切り裂く音が響く。一気に二体のゴーストを切り裂いたイストファが着地しようとする瞬間を狙って他のゴースト達が、不可視の衝撃波を放つ。
巨大なハンマーで殴り付けられたかのような衝撃にイストファは受け身を取る事すら出来ず、そのまま落ちてしまう。
「ぐっ……!」
甲板に叩きつけられたイストファは転がりながら追い打ちの攻撃を回避し立ち上がる。
背後では、カイルとドーマが他のゴースト達と戦っている。
ならば、この残り2体のゴースト達はイストファが倒さねばならない。
小盾を構え、イストファは距離を測りながらゴーストへと走る。
当然ゴースト達もイストファを近づけたいわけがない。不可視の衝撃を放ち、しかしイストファは小盾を構えてそれを防ぐ。
ズドン、と小盾を通して響く衝撃はイストファの小盾を持つ腕を痺れさせるが……構わずにイストファは走る。
そもそも防ぎきれているわけでもない。範囲の広い衝撃波はイストファの腕にも叩きつけられ、アームガードの上からでも骨が軋むのを感じていた。だがそれでも、折れてはいない。
ならば戦えると。イストファは本能に任せるままにゴーストへと突っ込んでいく。





