流石にどうかと思います
そうして戻ろうとした、矢先。イストファ達の前に誰かが転移してくるのが見えた。
「んっ」
「あっ」
互いにちょっと間の抜けた声をあげて、見つめ合う。
イストファの視線の先にいたのは、およそ同年代と思われる冒険者の4人組だった。
剣士の少年コード、魔法士の少年ブリガッド、神官のモリスン。そして……見知らぬ少女。
その少女の頭部についた猫の耳にイストファが思わず目を向けると、ピクリと反応したように動く。
「何? 猫人が珍しい?」
「あ、いえ。すみません……こんな近くで見るのは初めてだったもので」
猫人、いわゆる獣人族はその頭部についた動物のものと酷似した耳が特徴だが、エルフのように珍しいわけでもドワーフのように見た目で判別が難しいわけでもない。
ただ、イストファの村には居なかったし……ちょっと汚かった頃は嗅覚の鋭い彼等の不快を誘うのであまり近づかなかっただけなのだ。
「そう? あ、アタシはナタリア。あーた等の話は聞いてるよ」
「どんな話だ」
カイルがちょっと不機嫌な様子で聞けば、ナタリアは軽く肩を竦める。
「どんなって」
「もういい、よく分かった」
チラリとコードに視線を向けるナタリアの様子に、カイルは更に不機嫌そうに応じる。
「一応言い訳しとくとアタシは話半分だし、モリスンは結構怒ってたからね」
「あ、いえ。気にしてませんから」
「気にしろ馬鹿」
場を収めようとしたイストファはカイルに怒られるが、視線の先ではコードがブリガットとモリスンにドツかれている。恐らくはコードの口が極めて悪いんだろうな……などとイストファは思っていた。
「で、えーと。あーたがイストファで、そこの態度デカそうなのがカイル。後ろのダークエルフが新しい仲間?」
「ドーマです。どうぞよろしく」
「よろしくー」
ヒラヒラと手を振るナタリアだが、その視線は素早くイストファ達の装備に向けられている。
「装備はそれなり……いや、カイルの装備はなんか妙に良いけど……ふぅん」
「えっと、何か」
「や、や。ごめん。コードが金級冒険者がどうのって言ってたから。やっぱ話半分で聞いといてよかったなー、と」
ステラに装備を買い揃えて貰ったとか言ったのだろうか、と流石のイストファも少しムッとする。
馬鹿にされるくらいはなんでもないが、カイルやドーマ、ステラまで馬鹿にされたようで不快を隠し切れなかったのだ。
「流石にどうかと思います」
「だからごめんて。全部コードの馬鹿が悪い」
「ナタリア、君もだ。コードの馬鹿な話を相手に話せば気分が悪いに決まってるだろう」
どけ、とナタリアを押しのけるとブリガッドが前に出てきて小さく溜息をつく。
「……重ね重ねすまないな。コードはあの通り馬鹿だし、ナタリアは考える前に口から言葉が漏れるんだ」
「いえ、そんな」
「悪いと思ってんならちったあ制御しろよ。初見の時から何も変わってねえだろうが」
「ああ、分かっている」
答えるブリガッドに、カイルは「こいつも相当だな……」と心の中だけで呟く。
こうやって謝ってはいるが、実のところ頭の中ではあまり悪くないと思っているのがカイルには透けて見える。
人間関係を円滑にする為だけの計算と上辺だけの取り繕い。そんな雰囲気をカイルは感じ取っていた。
「それより、君達が此処にいるという事は……これから3階層の攻略を?」
「いえ、一度戻ろうと思ってました」
「そうか……」
イストファの返事にブリガッドは頷き、イストファに視線を向ける。
「……あの2人の態度のお詫びというわけではないんだが、1つ情報を伝えよう」
「え、はい」
「この階層からは、色々な仕掛けがある。気を付けることだ」
「ありがとうございます」
「いや」
ブリガッドがコードに「行くぞ」と促すと、コードは不満そうな表情を見せながらも頷き船に乗り込んでいく。
その後を謝るように頭を下げながらモリスンが、そしてナタリアが進んでいき……4人が消えた後、カイルが深々と息を吐く。
「あーっ、気分悪かった。何が情報を伝えようだ。知ってんだよボケが」
「あ、そうなのカイル?」
「あったりまえだろ。俺がそんな情報を買い忘れるわけがねえ」
後で説明しようと思ってたんだよ、と言いながらカイルは地面を軽く蹴る。
「あのパーティではモリスンも苦労するでしょうが……ま、性格の一致が必ずしもパーティの条件というわけではありませんしね」
「能力が一致してればってか? ハッ、俺はごめんだね」
ドーマに言うと、カイルはイストファの肩に手をのせ笑う。
「見ろ、俺とイストファのベストなコンビをよ。こういうのがパーティってもんだろ」
「私が入ってないんですが」
「まあ、お前もだな。あんまり神官らしくねーけど」
「怒りますよ?」
「あ、あはは……」
カイルに盾にされながらイストファは苦笑する。
確かに性格の一致……「気が合う」という点は非常に重要だとイストファは思う。
カイルもドーマも一緒に居て楽しいし、一緒に戦いたいという気持ちになれる。
そしてそれは、何より大切だと思うのだ。
「ねえカイル、ドーマ」
だからイストファは、自分を壁にして睨み合う2人に笑いかける。
「僕たちは、出会えて良かったよね」
あまりにも屈託のないその笑顔にカイルとドーマは一瞬で毒気を抜かれたような顔になって。
やがて、照れたように頬を掻く。
「……あー、まあ、な?」
「私も出会いはちょっとアレでしたが、幸運だったと思います」
「だよね。僕もカイルとの出会いはちょっと『アレ』だったし」
「そういえばその話はまだ聞いてませんね」
「言うんじゃねーぞイストファ!」
ちょっとアレどころじゃない出会い方をしたカイルは慌てたようにイストファを引っ張って……後で絶対聞き出そうと心に決めたドーマがその後を追う。
そうして絆を確認しながらも、3人はダンジョンを脱出するのだった。





