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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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俺も中々に友情に厚い男だよな

 イストファとケイのデート……いや、お出かけ騒動が終わって。

 結果から言うと、イストファ達のお休みは2日延びた。

 まず一連の話を聞いたフリートがイストファの短剣の修繕を請け負ったのが1つ。

 これでお休みが一日延びた。

 そして騒動を聞きつけたカイルが駆け込んできて怒ったり心配したりしたのが1つ。

 ドーマも慌てたようにやってきて、カイルを宥めつつも「ちゃんとしたお休みをとるべきだ」と提案した。

 これでお休みが合計2日延びる事になった。そのうち1日は宿でしっかり休めというカイルの強い意見により、イストファは宿に居たのだが……。


「うー……」

「ひっでえ顔だな」


 次の日の朝。様子を見に来たカイルの最初の一言はそれだった。

 事実なんだか疲れた風のイストファの顔は、しっかり休んでいた人間のものとは思えなかった。

 ベッドに座っている寝巻のイストファからは、ステラが出かけ際に苦笑しながら「もっと気を抜きなさい」と助言していく程度には暗いオーラが漂っている。


「確か昨日は休んでたはずだよな? まさか筋トレとかしてねえだろうな」

「してないけど。なんかサボってるような気がして落ち着かなくて」

「馬鹿だろお前」

「ちょっとカイル、それは正直すぎます」

「ひどいよ2人とも……」


 呆れたようなカイルと諫めているようで全く諫めていないドーマにイストファは少し不満そうな様子を見せるが、そんなイストファにカイルは指を突き付ける。


「ひどくねえ。ったく、万事には緩急ってもんが必要なんだぞ。お前は緩めるのがド下手だな」


 その辺をあのケイってのには期待してたんだが……とはカイルは言わない。事情は知っているし、それさえなければ上手くいっていたかもしれないのだ。むしろ衛兵があんな「銀級なだけ」の連中を野放しにしていたのが原因だとすらカイルは思う。


「そういうのって、あの自称師匠が教えるもんじゃねーのか。本来はよ」

「気の抜き方はたぶんカイルの方が上手いって言ってたよ」

「言ってくれるじゃねえかよ……」


 ちょっとムカッとしながらも、ステラの言いたいこともカイルは理解できてしまう。

 同年代、あるいは同性でしか分からない事も色々とあるものだ。

 無論イストファは足りないものが多すぎるし、カイルは足りているものが多すぎるので「気の抜き方」という一点においては上手く噛み合わないとは思っているのだが。


「ま、いいか。お前の場合じっとしてる方が疲れるってのは良く分かった。今日は外行こうぜ、外」

「外っていってもカイル。一体何をするつもりなんですか?」

「そうだなあ……」


 ドーマの問いに、カイルは腕を組み指でトントンと叩きながら考える。

 金を使う遊びはイストファが気疲れしそうなので却下だ。本当は慣れさせた方がいいのだが、鎧で大きく金を使ったばかりだから避けた方がいいだろう。

 かといって、体を動かせば本当に何の為に休んでいるのか分からない。

 だというのに体を動かさなければ、イストファが「こう」なる。


「……面倒だな、お前」

「え」

「すまん、思わず本音が出……いででっ」

「気にしなくていいですからね、イストファ。身体を動かさないと落ち着かないのは分かりますから」


 カイルを抓ったドーマが笑い、指を1本たててみせる。


「それでしたら、今日は冒険者ギルドに行くというのはどうですか?」

「いってえ……つーか、それ意味ねえだろ。どうせ訓練場行くつもりなんだろ?」

「違いますよ」


 カイルに呆れたような視線を向けると、ドーマはイストファへと向き直る。


「冒険者の仕事はダンジョンだけじゃありません。色んな依頼だってあります。それは依頼書という形で貼りだされてはいますが……読めなければ意味がありませんし、その後の契約で報酬を誤魔化されてしまうかもしれません。そうでしょう?」

「あー、そういうことか」


 カイルはイストファが文字についてそれ程扱えるわけではないような話をしていた事を思い出す。

 学のない冒険者というのは多く、依頼書を読めないし文字も自分の名前くらいしか書けないという冒険者も多い。

 そこにいくと多少であれ読めるイストファは勤勉な方なのだが……より習熟しておくに越したことはないし、常にカイルやドーマが側にいるわけにはいかない以上はイストファ自身がそういった事を覚えるのは良いことでもある。


「なので、今日は冒険者ギルドで文字の勉強をしましょう。どうですか、イストファ?」

「うん、うん。それは凄くいいと思う! ありがとうドーマ!」

「うひゃっ!?」


 ベッドから勢いよく立ち上がったイストファはその勢いのままにドーマの手を握り、上下にブンブンと振る。


「文字がもっと読めれば、もっと色んな事が出来るものね!」

「だな」


 カイルの目的からすれば明確に能力が向上することは無いダンジョン外での仕事など意味がないのだが、イストファの「一流の冒険者」という目的には合致しているし……正直、もう少しイストファの為に資金稼ぎをする手段が必要だとは感じていたのだ。

 だからこれもまた大事な事だろうと考えて……カイルは思わずフッと笑う。


「……俺も中々に友情に篤い男だよな」

「え、突然何言ってるんですか」

「どうしたの、カイル」


 気持ち悪そうな顔をするドーマと、キョトンとした顔をするイストファに……カイルはこのやろう、と思いながらも「なんでもねーよ」と嘯く。


「いいから行くぞオラ。時間ってのは有限なんだぞ」

「なんですか、もう……」

「あ、待ってよ。着替えなきゃ」


 そんな話をしながら3人は一緒に冒険者ギルドへと出かけていく。

 そこでまたひと騒動あったり、新しい鎧を壊さずに育てるために2日程苦労したりするのだが……結果として、万全の状態で二階層のクリアに挑む為の条件を整えていったのである。

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