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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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今までほとんど目に入らなかったですけど

「あ、商店通りなら行った事あります。買い物もしましたよ」

「へえ、何買ったの?」

「カイルとドーマのお薦めの保存食を」

「そ、そっかあ……」


 それも冒険者関連だね、とは言わない。イストファの感覚を普通寄りに持っていくにはその側から攻めるしかない事をケイも理解できている。

 だからケイは頷くと、思い切ってイストファの手を握る。


「じゃあイストファ君、商店通り行こう!」

「はい。あ、でも手……」

「混んでると迷っちゃうから! ね?」

「は、はい」


 そんなことは無い。今の時間は冒険者が多少居るかもしれないが、そんなに混んでるというほどではない。

 だからこれはケイの言い訳で、しかしそれを悟られないようにケイはギュッと強く手を握り勢いで誤魔化す。

 イストファも繋がれた手の柔らかさと暖かさに思うところはあるものの、勢いで誤魔化されてしまう。

 自然と少し顔の赤くなった2人を職人通りの人達が見てはいたが……あえて何かを言う程野暮ではない。

 一部からかおうとした弟子を師匠がぶん殴って黙らせ、師匠は後でフリートをからかってやろうと算段をつけながらニヤつく姿が幾つかの鍛冶場で見受けられるが……幸いにも、イストファ達には見えていない。

 そうして辿り着いた商店通りでは、これからダンジョンや外に向かおうという冒険者達が足りないものを買い求める姿がちらほらと見受けられた。

 当然店もそういう類のものが多く、イストファがカイル達と来た食品を扱う一角もこの通りに存在している。


「此処は……カイル達とも来ましたけど、改めて見ると凄いですね」

「迷宮都市の物流を扱ってるから、一番活気があるかもね」

「へえ……」

「普通の冒険者の人達は、この辺りで武具を揃えるんだって」


 ケイの言う通り、この商店通りには武具店が多数存在している。

 新品を扱う店、中古を扱う店、両方を扱う店、あるいは剣専門なんて店もある。

 どの店も質実剛健なデザインから煌びやかなデザインのものまで扱っており、イストファの目から見ても「やる気のある」店ばかりだった。


「ね、凄いでしょ?」

「はい。今までほとんど目に入らなかったですけど……」


 武具店といえばフリートの店。そんな方程式が自然と出来ていたイストファからしてみれば、驚きだ。

 どの店も立派で、カイルが着ているような高そうなローブを店先に並べている店すらある。


「試しに覗いてみよっか」

「はい!」


 一体どんなものがあるのだろう。そんな期待をこめながら武具店の1つ……アラン武具店にイストファ達は入っていく。

 広々とした店内に整然と並べられた武具は埃1つ被っておらず、入ると同時に店員の元気な声が迎えてくる。


「いらっしゃいませ、アラン武具店へようこそ!」


 イストファよりも2、3歳は上だろうかと思われる店員は笑顔のままイストファを上から下まで見回し、あからさまな営業スマイルを浮かべながら近づいてくる。


「お探しのものは何でしょうか? 種類と予算をお伝え頂ければ、すぐに候補を持ってまいりますが」

「あ、とりあえず見学なので」

「……かしこまりました」


 ケイの言葉に店員は下がっていき、そのままケイは飾られた鉄の鎧を示してみせる。


「ほら、ブレストプレート。これは鉄製みたい」

「綺麗ですね。なんか色々と飾りみたいな模様がついてます」

「うん、私も詳しいわけじゃないけど魔法的な意味を含めた紋様を刻んでる事もあるらしいよ」

「へえー、じゃあコレって凄いんですね」

「うーん……コレは……ただの模様かな。でも綺麗だね」

「はい、綺麗です」

「でも何かあったら直すの大変そう……」

「あー……」


 この模様が壊れた時の事を考えながら、イストファはケイの言葉に頷く。

 たとえばこの模様のある辺りを壊されたとして、また細かい模様を刻んでもらうのだろうか?

 それにどれだけの時間とお金がかかるのかを考えると気が遠くなりそうだし、かといって半端に直すとバランスが悪そうでもあった。


「綺麗な鎧も大変なんですね」

「うん。お父さんとか、そういうの大嫌いみたい」

「そんな感じがします」

「あははっ」


 言いながらイストファとケイは隣のハーフアーマーに視線を移す。

 金色のキラキラとした鎧にイストファは「うわあ」と声をあげるが、ケイは渋い顔だ。


「これって……」

「そちら、お薦めですよ。デザイン性もよく、内部に鋼鉄を使っておりますので防御力も抜群です」


 つまり表面に鋼鉄を使っているイストファの小盾のようなものだろうか。

 そんな風に考えてイストファは頷くが、ケイは鎧をじろじろと眺め回す。


「……でもコレ、表面に使ってるのは……」

「勿論、金です」

「そうですか」


 ケイは頷くと、イストファに「行こうか」と声をかける。


「え? はい」


 店から出ようとしたその時……店員が殴られる音が響き2人は驚き振り返る。

 そこにはアラン武具店の店主らしき男が立っており、大きく溜息をついていた。


「ケイちゃん、すまないな。こいつ雇ったばかりでよ」

「いえ、いいんです」

「まさかメッキが分からんとは……坊主もすまんな。こいつはフェイクゴールドって呼ばれてる鉱石を使ったメッキでな。派手好きの為に用意してるんだ」

「そうなんですか……」

「ああ、フェイクゴールド単体としては鉄と同程度だが、内側に鋼鉄を使ってるからそれなりに良い防具だ」


 そんな防具もあるんだな、と思いながらイストファは店の中に飾られた防具へと視線を向ける。

 そういう視点で考えるとなるほど、確かに派手な防具が多い。


「ケイちゃんが目をつけてるんだったら、あんまりウチとは縁がないかもしれないが……儀典用であればウチが一番だぜ。覚えといてくれよな」

「はい」


 儀典用。そんなものを使う機会があるかどうかは分からないものの、イストファは自分の中に新たな「基準」を作りながら頷いた。

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