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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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凄いねカイル、ドーマ

 そしてカイルの説明が終わった後、ギルド職員は難しそうな顔で唸り始めてしまった。


「うーん……密林の追跡者の件だけでも相当に大きい案件ですが……小屋の問題にファントムツリー……それも証拠つき、と……」


 机の上に置かれたのは、あのファントムツリーの枝だ。

 売り物になるかと持って帰ってきたものだが、今こうしてファントムツリーの実在の証拠として役に立っている。


「……小屋の件については、影響があまりにも大きい。こちらで依頼を出して追加調査することになると思います」

「だろうな」

「念のため伺いますが、依頼となった時に」

「いや、受けねえ。暇人ならたくさん居るだろ?」


 2階層で燻ってる奴がいるだろ、と言外に匂わせるカイルにギルド職員は「まあ、そうですね」と苦笑する。


「このファントムツリーの枝はどうしますか? 一応買取対象にはなっていますが……武具店や魔法屋でなら、より高い取引額も期待できますよ」

「どうする?」

「どうしよう?」

「え、私に聞くんですか?」


 カイルはイストファに、イストファはドーマに視線を向け、ドーマは少し悩むような様子を見せた後にイストファにニコリと笑う。


「イストファがリーダーなんですから、決めるといいと思いますよ」

「え、僕?」

「はい」

「俺もそれでいいぜ」

「ええ……?」


 委託されてしまったイストファは机の上の枝をじっと見て……フリートの顔を思い出し「あっ」と声をあげる。


「じゃあ、持って帰ります」

「はい。他に売る物はありますか?」

「えーっと……魔石が」

「待て、イストファ」


 魔石を取り出そうとしたイストファの手をカイルが押さえ、イストファの短剣を指さす。


「それの件があるだろが」

「うん。でも三人の稼ぎだし」

「うるせえ。とりあえず取っとけ。そんなわけで特にねえな」


 イストファとカイルの会話の意味が分からずとも仲の良さだけは分かるのか、ギルド職員はニコニコと微笑んでいたが、その言葉に「分かりました」と答えてくる。


「では、今回お売りいただいた情報と、密林のローブの報奨金を含めまして……40万イエンとなります。小屋の件に関しては情報が確定した際に改めて重要情報取り扱い規定に基づく報奨金が支払われる可能性がありますので、ご留意ください」

「はい、ありがとうございます」

「それでは、こちらをどうぞ」


 キラキラと光る1万イエン金貨40枚が積み重ねられ、イストファは「うわあ」と声をあげてしまう。


「凄いねカイル、ドーマ」

「はした金だ。こんな程度、冒険者やってりゃ一瞬で無くなっちまうぞ」

「まあ、それでも大きいお金なのは間違いないじゃないですか」


 目をキラキラとさせるイストファに眩しいものを見るかのような目を向けた後、ギルド職員は立ち上がる。


「それでは、しばらくはこの部屋はとってありますので。私はこれで失礼します」

「はい、ありがとうございました!」

「……頑張ってくださいね。個人的に、ではありますが応援しています」

 

 そう言い残してギルド職員が去って行った後、カイルは「イストファ、ドーマ」と声をあげる。


「今回の報酬、この40枚だがな。お前等で20枚ずつ分けろ」

「え? でもカイル」

「いけませんよカイル、そういうのは」


 イストファとドーマが同時に声をあげるが、カイルは渋い顔で「いいんだよ」と手をひらひらさせる。


「考えてもみろ、ドーマは盾の分の投資を取り戻す必要がある。鋼鉄の盾なんざ安い代物でもねえだろ」

「まあ……それは」

「次に、イストファ。お前、短剣は魔石でどうにかなっても、鎧はどうにもならねーだろ」

「うっ」


 確かにその通りではある。

 ドーマは武具の中では比較的値段のする鋼鉄の盾を買っているし、イストファは短剣を壊され革鎧もバッサリと斬られてしまっている。

 服と違って鎧は縫うわけにもいかない以上、フリートの店に行かないといけない。


「ま、そんなわけだ。俺は金には困ってねえ、次の報酬を三等分ってことにして今回は2人で分けちまえ」

「そういうことでしたら、有難く。イストファ、分けましょう」

「う、うん。ありがとうカイル」

「気にすんな。お前等の装備の充実は俺の安全にもつながる話なんだからな」


 偉そうにソファにふんぞり返るカイルだが、その言葉にはカイルなりの優しさが充分以上に染み出ていて、イストファとドーマは顔を見合わせて笑う。


「そうだ、イストファ。短剣と魔石を貸してください。今のうちに直してしまいましょう」

「あ、うん」


 イストファが切られた短剣と魔石を机に置くと、ドーマはふむふむ、と頷き始める。

 今回手に入れた魔石は数は少ないが、2階層のものだ。充分に直せるだろうと判断し、ドーマは短剣に「合成」を使い始める。


「……よし、直りましたよ。全部使ったせいか、ちょっと品質も上がった気がしますね」


 剣先を回収していたせいもあったのだろう。

 綺麗に直った短剣を受け取り、イストファは「ありがとう」と言って笑う。

 

「これ、僕が初めて買った武器だから……ちゃんと直ってよかった」

「私もお役に立てて嬉しいです。あとは……」

「うん、鎧……だね」


 この鎧は直るのだろうか。そんな一抹の不安を覚えながら、イストファ達はフリート武具店へと向かう。 

はたして鎧は直るのでしょうか……?

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