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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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俺が説明する

 無事にダンジョンを脱出したイストファ達は、カイルの提案により冒険者ギルドへ向かう事になった。

 死体の消失の可能性と密林の追跡者の登場、そして小屋の安全性への疑問。そうした3つの情報を売る為だ。

 そんなわけでイストファ達は冒険者ギルドに来ていたが……まず初手でカイルが密林の追跡者からドロップしたローブをカウンターに置くと、ギルド職員の男は困惑の表情を浮かべる。


「このローブは……? それに、随分とボロボロみたいですが」


 言いながらギルド職員の視線はイストファに向く。

 それなりに良い物に見えるイストファの革鎧は大きく切り裂かれていて、激戦の跡が伺える。

 生きているのが神官のドーマのヒールによるものであるのは明らかだが、そんな「切り裂く」ようなモンスターは2階層には居なかったはずだと思い返す。

 今カウンターに置かれたローブは魔力を感じるが、まさか人狩りの類がまた出て、それを撃退したのかと考える。


「……密林の追跡者だ」

「えっ!?」


 カイルの言葉に、ギルド職員は驚きと共にカウンターの上のローブを見る。

 濃緑色の、魔力を感じるローブ。

 慌てたように分厚い書類の束を取り出し、ペラペラと捲り始め……その中の1ページと、ローブを見比べる。


「密林のローブ……本物……?」


 同時にギルドの職員達が騒めき、手の空いた職員達が集まり始める。


「嘘だろ!?」

「前に出たのって確か……あ、やっぱり10年前! まさか本物がまた出て来るなんて」

「てことは今度こそ『確定』か!?」

「おい、誰か輸送隊を確保してこい! 王都行きだ!」


 一気にザワつくギルド内にまばらに居た冒険者達も興味を持ったのか集まってきて、なんとなくイストファは居心地の悪い気持ちになってしまう。


「伺いたいのですが……これは、何処で?」

「2階層だ」

「そう、ですか」


 カイルの答えにギルド職員は小さく息を吐くと、椅子から立ち上がる。


「……別室で伺います。3人ともいらっしゃってください」

「はい、どいてください!」


 野次馬をしていた冒険者達を散らしながら、別のギルド職員がイストファ達の近くにやってくる。


「それでは、こちらへどうぞ。詳しいお話を伺わせてください」

「あ、はい。いいよね、2人とも」

「ああ」

「ええ」


 一応この場ではリーダーであるイストファが答え、カイルとドーマも頷き3人はギルド職員の案内でギルドの奥にある応接室へと通される。

 立派な本棚に高そうな本が並んだ応接室のソファは柔らかく、机の上に置かれたお茶も高いのではないかとイストファは気後れしてしまうが……カイルは気にした風もなくお茶を一口飲んで「安物だな」と呟く。


「あんまり気にすんな、イストファ。その本棚に並んでる本だって単なる飾りだ。王国服飾史に世界美食図鑑、陶芸名品選……冒険者ギルドに全く関係ねえ本ばっかりだ」

「まあ、こんな所に本置いても読みませんしね」

「昼休憩に読むにゃ重たいしな、精々鈍器にしかならねえだろ」

「2人とも、やっぱり読めるんだ」

「ん? あー……」

「今度暇な時に教えてあげますよ」


 イストファが「読めない」事を悟って微妙に視線を逸らすカイルと、微笑むドーマ。

 実際にイストファは元々そういう勉強を出来る環境には居なかった為、読み書きはほとんど出来ない。

 ほとんど、というのは依頼書を読む為に少しでも勉強しようとしていたからだが、それはさておき。


「お待たせしました」


 先程イストファ達と話していたギルド職員の男が、書類やら袋やらを抱えた別の職員と共にやってくる。

 机の近くにドサドサ、ジャラリと置かれた荷物。どうやら袋の中身はお金らしい、とイストファは察する。


「さて、と」


 イストファ達の向かいに座った職員は真面目な表情を形作り、書類の1つを取り出し1ページを抜き出す。


「貴方達の遭遇した『密林の追跡者』ですが……このような姿でしたか?」

 

 言いながら職員が取り出した似顔絵らしきものには、髪を逆立てた凶悪そうな男の姿が描かれている。

 その絵を見てイストファはカイル、そしてドーマと顔を見合わせた後に「違います」と答える。

 あの怪しげな風貌と目の前の絵の如何にも凶悪な顔とは、似ても似つかない。


「でしょうね。ちなみにコレは『出来るだけ凶悪な顔』というお題で描いてもらったダミーの絵です」


 言いながら職員は似顔絵を書類に戻して、カイルがチッと舌打ちする。


「余計なフェイク入れて引っかけようとすんなよ。面倒だろ」

「ええ、申し訳ありません。しかし偽情報を弾く為には大事な事ですので」


 そう言うと、ギルド職員はイストファ達の持ち込んだローブを机に置く。


「これですが……全く同じものが10年前、当ギルドに持ち込まれています。それ以降全く情報が無かった為、未確定情報に分類されていたのですが……」

「僕達が出会ったってことですよね」

「ええ。ですので詳しい話も伺いたいのですが、まずはこのローブの扱いについてです」


 そう言うと、ギルド職員は金袋を机の上に置く。


「20万イエン。この『密林のローブ』はその金額で強制買取となっております。これは国からの直接の命令であるとお考え下さい」

「命令って……このローブに、何かあるんですか?」

「はい。この密林のローブには魔力を流す事で着用者の気配を薄くする効果があります」

「……暗殺に使えちまうってことだな」


 カイルの呟きにギルド職員は「お察しの通りです」と答える。


「ダンジョン産のマジックアイテムは基本的に発見者に権利がありますが、これは国指定の個人所有禁止品となっています。ですので、国が指定する補償金額での買取となっているわけです」

「……どおりで安いわけだ」

「え、高いよね?」

「安いですよ」


 戸惑うイストファとは違い、カイルとドーマは渋い顔だ。


「暗殺にも使える程の高性能のマジックアイテムに支払う金額としては安すぎる。国の為に貢献できることを感謝しろ……って感じだな」

「お気持ちはお察しします。ですが、断るのは……」

「分かってる。持って行けよ」

「ありがとうございます」


 言いながらギルド職員は近くに立っていた別の職員にローブを渡す。


「ですが、今回の貢献に関しては国にきちんと報告されます。冒険者としての将来をも明るくする素晴らしい事です」

「そ、そうですよね!」


 一気に顔を明るくするイストファだが、カイルの顔は渋いままだ。

 どうだかな、と言わないのはカイルにしては我慢した方だろうか?


「では、今回の密林の追跡者との遭遇の件について詳しく伺いたいのですが……勿論、この情報にも規定に応じた情報料が支払われます」

「はい、では……えーっと」

「俺が説明する」


 イストファを軽く制すると、カイルは今回の出来事を順に話していった。



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