5.5話 ネットの海は広いのです
ル「それでは! 前回の宿題の答え合わせからです!」
桜「どうかしましたか、今日はやけにご機嫌ですね」
ル「ふふふー、この授業って姫ちゃんがインターネットに掲載してるじゃないですか。だから見たんですよ、反応を。そうしたら面白いのなんのって言われてて、ルリも鼻が高いというものです」
姫「私の書き方が上手いからでは?」
ル「…………」
ル「ま、まあそんなことはどうでも良いんです! それより、そこで見た声について、いくつか補足しようと思うのです。お便りのコーナーなのです」
姫「は、はあ……」
ル「ではまず、この人から」
A『授業は面白いけど、実際何に使えるのか分からない』
ル「…………実用例の紹介が欲しいということですね、分かりました。他の声への回答で示しましょう」
B『草取りって何? 草刈りとは違うの?』
宗「草取り知らない人がいるんですか……?」
ル「インターネットは広いですからね。特に都会なんかは緑もないでしょうし、除草剤も普及していることでしょうから、この学校みたいに行事として草取りなんかしないのかもですね」
ル「そうですね、でしたらAさんへの回答を兼ねて、こう答えましょう」
問。「草取り」と「草刈り」の意味の違いを示せ
a、学校行事として{草取り / 草刈り}をした。
b、芝生の{*草取り / 草刈り}をする。
c、根っこから{草取り / *草刈り}をする。
ル「はい。このように意味の違いを示すことができます。同じ意味の単語はたくさんありますし、似た意味の単語ならもっとあります。そこで、こうして意味や振る舞いの違いを観察することで、語の深層を探るのがこの形態論という分野です」
宗「なるほど、最初に言っていた曖昧を許さない学問って、そういうことですか」
ル「そうですね。大体同じ意味だとか言われても、その大体が問題なのに、適当に片づけるなんて論外です」
宗「それは思いますね。姫なんて『言葉は感覚なの! 分かるでしょ!』みたいに言うんですけど、分かんないんですよね」
姫「宗くんが厳しすぎるの!! 普通分かるもん!!」
ル「はいはい。夫婦漫才はそのくらいで、次の質問にいきます」
C『まりちゃんいないんですか』
姫「わあ、『てふてふや』読んでくれたんですね! 小原先輩なら今は受験期で、あまりこちらには来られないんです」
ル「露骨なステマでは?」
桜「ステマとは何でしょうか……」
ル「何でもないです、次」
D『今回の課題が難しいです』
ル「あー、まあ、そうですね。だと思います。もう返答することもなさそうなので、宿題の解答に移りましょう」
宿題
以下の語について、本文中に示した手順に従って意味の違いを示せ。
「植木」と「植えてある木」、「草を取る」と「草取りをする」
ル「どうも植木が何か分からないという意見もあったのですが、植木は植木です。鉢植えの木ですよ」
1、道路脇の{植えてある木 / 植木}に雨が降る。
海岸の{植えてある木 / *植木}は防砂林の役割を果たしている。
丘の{植えてある木 / *植木}は5メートルを超える。
2、庭で{草を取る / 草取りをする}。
七草粥を作ろうと、裏庭の{草を取る / *草取りをする}。
ル「これが宿題の解答例です。大切なのは両者が成り立つ場合と片方が成り立たない場合を示して、必要であれば、その成り立たない方の例をたくさん用意しましょう」
姫「なんでですか?」
ル「んー……例えば日本語学習中の外国人に、どういう意味の違いがあるのかって聞かれたとするじゃないですか。そのときに、一目で意味の違いが分かる方が良いんですよ。そして、できるだけ詳細にするのも大切です」
桜「植木の例が三つあるのは、その詳細さのためですか」
ル「ですです。今回の例ではあんまり意味はないですが」
ル「それでは、今回はここまでです。実は次回すごく長くなりそうなので、2回に分けることにしました。開始早々から大変なので、頑張ってください」
一同「はーい」
宿題なんかありません。頭の容量空けてきてください。