第八十話 陸遜の南蛮統治方法
越巂郡での高定との戦いに勝利を治めた俺達は、高定の部族を攻め立てて族滅とした。
そして周辺の南蛮部族に対して出頭するように要請と言う脅迫を行った。
越巂郡の不穏分子は高定と共にどこかに行ってしまって、反抗的ではない彼らは直ぐにやって来た。
そんな彼らに陸遜は告げた。
「分かっていると思うがこの地の統治は漢の益州牧劉玄徳様が行っている。諸君らはその統治下に置かれている。我らの統治に対して協力すれば相応の見返りを用意する。刃向かうので有れば、先の高定の部族がどうなったかで予想出来よう!賢明な諸君らならどうするか分かるであろう?」
ねえ、知ってる。この遠征の大将は俺なんだよ?
「税を払えと言われれば払う。だがあんた達は俺達に何をくれると言うのだ?」
通訳を介しての交渉だ。
南蛮部族の言葉を俺は理解出来ない。
言葉のチート能力が欲しいぜ。
南蛮部族の言葉が分かるのは呂乂、張任ら旧劉璋配下の者達だ。
俺に彼らの言葉を通訳しているのは呂乂だ。
そしていつの間にか南蛮の言葉を覚えた陸遜が交渉している。
「諸君らに我らが使う道具を与えよう。それに文字と数字を教えよう。覚えの良い者達は取り立てて官吏とするのを約束する」
「それは前の奴らと同じだ。他には何もないのか?」
今までも同じような事をやっていたが、それだけでは足りないと言っている。
まあ、そうだろうな。
道具や文字に数字、それらは漢の統治時代から何も変わらない。
官吏に取り立てるのも一緒だ。
それでは足りないから暴動が起きているのだ。
にしても態度デカイなこいつら。
自分達の立場が分かっているのかね?
族滅しても良いんだよ?
さて、交渉の全権は陸遜に預けている。
陸遜は彼らにこれ以上の何を与えるのか?
「諸君ら力ある部族に越巂郡の統治を任せたい。また諸君らの子弟を中央に召し出し位階を与えよう。中央で学びそしてその後は故郷の統治を行うのだ。我らが行う統治よりもそれが良いと思われるがどうだろうか?」
ざわざわと周囲がざわつく。
陸遜のやつ、半独立を認めると言ってやがる。
「お、俺達にここの統治させてくれるのか?」
「もちろんだ。諸君ら独自の風習も認めよう。ただし無理強いはしないで欲しい。どうかな?」
陸遜のまぶしい笑顔を見て南蛮部族の長達は頭を垂れた。
「漢と共に生きる事を誓う。この通りに」
「それは良かった。では、誓いの宴と参りましょうか」
「はは」
ねえ、知ってる。俺が大将なんだよ?
俺が何も言ってないのに会談が終わってしまった。
ねえ、泣いていい?
陸遜の交渉で郡都以外の場所の統治を全て彼らに任せる事にした。
その土地の統治はその土地の者に任せると言う事だ。
また、その統治者の息子達は成都で中央官吏に任命して漢の統治方法を学ばせる。
漢の統治を学んだ彼らは故郷に帰ってそれを実践するわけだ。
それを代々続けていくうちに南蛮部族はいつの間にか漢族に変わっていく事だろう。
速効性はないが長い目で見ればこの統治方法は理に適っている。
それに南蛮の有力者達の子供を中央に入れると言う事は人質に取っているのも同然だ。
これで彼らが俺達に反乱を起こす可能性は低くなるだろう。
ただ、彼らを受け入れる中央の官吏がどう思うかだ。
「それは大丈夫だろう。彼らを蔑ろにすれば、また反乱が起きるだけだ。そしてその度に兵を出すと成れば国の出費は如何程か。それを分からぬ者達ではないと思うがね?」
「でもバカな奴は居る。皆が皆。伯言みたいに賢くて優しい者達ではないだろう?」
「それこそさ。バカな連中が冷たくしたのを私達が優しく労れば、それはとても効果的だとは思わないかい」
く、黒い。陸遜がいつの間にか黒くなっている。
劉巴や徐庶も黒かったが、陸遜も黒くなってやがる!
俺は黒くならないように気を付けよう。
え、もう遅い。そんな事はない!
俺は黒くなんてなってない筈だ!
とりあえずこの遠征が終わる頃には差し出す人間、いや違うな。
中央で官吏になる者達を選ばせる事にした。
そしてその者達が部族のどのような地位の人間なのかによって、彼らの本気が分かるだろう。
地位の低い者を送る奴らは反乱予備軍と言う訳だ。
そんな奴らは族滅でも良いよな?
「君も悪い人になったもんだね。出会った頃の君はそんな事考えなかっただろうに?」
な、何を言っているんだ!
俺は黒くなってない。黒くなんてないぞ!
越巂での戦後処理を行いながら治安維持は張任と厳顔に、高定の残党の行方は馬忠に追わせていた。
馬忠は地元の南蛮部族の道案内を受けて慣れない土地での追跡に苦労していたが、なんとかそれをやり遂げた。
「雲南を通った事は間違い有りません。ですがその先の高定の行方は分かりません」
「ありがとう徳信。ご苦労だった。しばらく休むと良い」
「は、有り難く」
馬忠は真面目だね。
それに呂乂が推薦しただけの事は有る。有能だ。さすが歴史に名前が残る蜀の名将だよ。
さてと、越巂郡の治安もある程度戻ったし、そろそろ次に行きますか?
高定との戦いから既に一月が過ぎていた。
その間に負傷兵以外の兵の半数を交代させながら、雲南郡までの道の整備をさせていた。
この道の整備なのだが、地元の南蛮部族の者達も手伝ってくれた。
これは陸遜の話を聞いて部族の長が協力を申し出てくれたからだ。
それに彼らは食料や兵を出す等、物凄く協力的になっていた。
ちなみに強要なんてしてないよ。
ただ、食料の輸送が大変なんだよなぁ~とか。
兵が足りてないんだよなぁ~とか。
宴でポロッと溢しただけなんだよ。
催促とかお願いとかした覚えはこれっぽっちも御座いません。
ただ、手伝ってくれたら嬉しいかなぁ~とか言ったような気はするけどね。
「本当に悪い人になったね。君は」
な、何を言っているんだ陸遜君!
俺はただ、ポロッと言ってみただけなんだよ!
他意があった訳じゃないんだよ!
準備を整えた俺達は高定を追って次の遠征先、雲南郡に向けて出発した。
その時に越巂の南蛮部族の大勢が見送りに来ていた。
「来る前はこんな風に見送ってもらえるとは思ってなかったな」
「これも君の人徳だよ。孝徳」
「いやいや君には負けるよ。伯言」
俺達二人は笑って越巂郡を後にした。
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