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第七十七話 益州南部平定案

 益州南部の事情を知らされた俺は、その地方の統治がどうなっているのか調べてみた。


 そして愕然とした。


 呂乂の報告に有った暴動の類いが後を絶たないのである。


 益州南部はそのほとんどが漢の統治を受け付けていない。

 都市部をかろうじて統治しているのが現状で、郊外の民はその周辺の豪族が統治している。

 つまり、独立状態になっているのだ。


 この事は前もって知っていたが、暴動が毎年のように起きているのは知らなかった。


 しかもそれは俺達の前の劉焉、劉璋親子の頃よりも前から起こっていた。

 劉焉、劉璋親子も益州南部の統治はほぼ諦めていた。

 暴動の規模の大小は有るが反乱と呼べる規模になって初めて兵を出している。

 しかしそれではもう手遅れだ。

 双方に多大な犠牲を出してしまい働き手を失って国力の衰退を招いている。


 益州は決して平和な土地ではなかったのだ。


 俺は南蛮は劉備が生きていた時は反乱等起きていなかったから、統治は大丈夫だと思っていたがそれは間違いだと気付かされた。


 そして今の益州南部、南蛮族が危険な状態である事を理解した。


 劉璋から劉備に統治者が代わった事で、支配体制に揺らぎが生じている。


 そして史実では劉備が亡くなった時に健寧の豪族雍闓が反乱を起こしている。

 これは劉備が夷陵の戦いで蜀の主力を失い、統治能力が大幅に減ってしまったからだと思われる。

 そして前々から漢の統治に不満を持っていた益州南部豪族達は完全な独立を目指して反乱を起こしたのだろう。


 実はこの独立を後押しした存在が居る。


 それは孫呉の孫権と交州の士燮だ。


 孫権は劉備の後方を撹乱させる為に、当時支配下に治めていた士燮を雍闓に接触させ、反乱の後押しと呉が後ろ楯になる事を確約した。

 そして雍闓は孫呉の後ろ楯を得た事で周囲の豪族にも反乱を煽り、その規模は益州南部のほとんどを占めた。

 しかし、一部の都市では反乱に加わる事なく、蜀の援軍を待って激しく抵抗した者も居る。


 その後この反乱は内部でいさかいが起こり、反乱の首謀者雍闓は内部の者に殺され、反乱は孔明自ら兵を率いて鎮圧された。



 この事を知っている俺は現在交州を支配しているのは俺達なので、南蛮族が反乱を起こす事はないと思っていた。

 孫権が雍闓と接触する方法はないと思ったからだ。


 しかし南蛮族の暴動が後を絶たない事を知った今は、彼らがいつ反乱を起こしてもおかしくないと確信した。


 だから俺は益州南部の平定を決意した。


 それに益州南部を完全に平定して交州との交易路を確保出来れば、それは国庫を満たす事に繋がる。

 そして南蛮で取れる作物『粟』は益州で取れる米よりも収穫が見込める。

 南蛮産の粟は北方産の粟よりも収穫が多いのだ。

 これは益州南部の粟の収穫高を見ればよく分かる。

 更に南蛮の元気の有り余っている奴らを兵に出来るのだ。


 南蛮制圧を行わない手はない!




「と言うわけで、南部平定の為に兵を出したいと思います」


 俺は参謀達を集めて南蛮制圧の為の軍議を開いた。


「待て待て。順を追って説明しろ。なぜ今になって南部平定を行うのだ。今は下弁制圧の為に無駄な兵を出す余裕はないのだぞ?」


「うん。分かった」


 俺は劉巴を筆頭に集まった参謀達に南蛮制圧の利を説いた。


「なるほど。確かにそれは行わないと行けないね。孫呉の山越討伐と同じで、南部平定は利が多い」


 そうでしょう。さすが陸遜は分かってるね!


「確かに利は多いですが、今の我らにはそれを行う余力はないと思われますが?」


 おいおい法正よ。いつも強きな発言をしているのにここで弱気になってどうするよ?


「劉封様。私も反対です。徒に南蛮に兵を向けるのは愚策ですぞ」


 ちょ、張松まで?


「私は賛成です。蜀の国庫を満たし、更に食料の備蓄が増やせるので有れば、それを行わない手はないと思います」


「同感、同感」


 蒋琬の発言に潘濬が同意した。


 彼らは蜀に来てから蜀の食料事情を知っている。

 当初予想していたよりも蜀の食料事情が悪いのを知って落胆していたのだ。

 それを解決する方法が有ると分かれば彼らに反対する理由はなかった。


「よろしいか?」


 今回、いつものメンバーだけではなく新しく参謀に加わっている者達が居る。

 李恢と王累、閻圃だ。

 主簿の鄧芝と張翼は記録を付けているので発言しない。


 そして王累が発言を求めた。


「益州南部に住む部族は我らの統治を受け入れておらず。また我らを侮っている。今までこれらを放置してもそれほど問題は無かった。しかし今は違う。今の我らは漢王朝復興の為に大規模な戦を行う必要が有る! 今はまだ兵糧に余裕が有るがこれから戦が続けば、いずれそれは底を突く。それに兵の増強を思えばこれを行うは必定。下弁制圧よりも優先すべき事情である」


 お、おう。ありがとう。王累。


「先の劉璋ではこれは出来ませんからな」


「我らに対して兵を上げる事も出来ませんでしたしね」


 李恢も賛同し、閻圃はボソッと呟いた。


「ふぅ、分かった。次の朝議で議題に上げるとしよう。それで、名分はどうする?」


「名分? 暴動を毎回起こしている連中に必要か?」


「ふふ、確かにそうだな。だが中央の兵は使えぬぞ。下弁出兵が迫っているし、後詰めの兵も必要だ。余分な兵は無い。せいぜい数千を用意するので精一杯だ。それでも行くのか?」


 ふふふ、そう言うと思ったぜ!


 カモーン。呂乂!


 俺はドヤ顔でパンパンと手を打つ。


「それに対しては私にお任せを」


 隣の部屋で待機していた呂乂が南部平定の具体的な案を説明する。


「ふむ。なるほど。巴西、巴東、巴郡、江陽の予備兵を使うのか。それでも足りぬぞ」


 巴郡は成都から東の領土で先の益州攻めの時には兵を出していないので、兵力の損失がない。

 だからこれらの予備兵力を使うのを呂乂が進言したのだ。

 これは地方を回っていた呂乂しか知らない事だ。

 中央の成都に居る俺達では気づかない。


「心配ない。援軍も用意させる」


 俺は益州南部の地図を出して指差す。


「ああ、なるほど。確かにこれなら行けるね」


「ほほう」「これはこれは」


 どうやら皆納得してくれたようだ。


「どうだ。子初」


「分かった。これなら孔明も反対はすまいよ。で、お前が行くのか?」


「当たり前だ。俺が行かなくてどうする?」


 劉巴は少し考え込む。


「ふむ。まあ考えすぎか」


 うん?


「では次は軍の編成ですね。どのようにしますか?」


 劉巴の言葉に少し引っ掛かったが、陸遜が議題を先に進めた。


 その後は南部平定軍の編成と兵糧の手配に関して話を詰めた。



 次の日の朝議で劉巴の献策として益州南部平定案が出された。


 朝議は紛糾して、なんだかんだで数日後には平定案は通った。


 既に下弁制圧の為に兵が用意されていて出兵間近で有ったので反対の意見も多かったが、俺が兵を率いると言う事で皆が納得したようだ。


 孔明派閥の考えは下弁制圧が成功すれば、自分達の勢力を増せるし、南部平定が失敗すれば俺を失脚させられると一挙両得と思っているだろう。


 それに予備兵力を使うが数は一万しか用意出来ないと知ったので、更に失敗する可能性が高いと踏んだのか。

 彼らはしぶしぶ賛成に回った風を装った。


 考えが透けて見えて嫌らしい。


 そんな孔明派閥の連中とは違って孔明自身は南部平定に向かう俺を気遣った。


「南部の風土はきついと聞いています。お気をつけを」


「あ、ああ。分かった」


 ちょっと不気味だった。



 こうして俺の復帰戦は益州南部平定戦となった。


 それは下弁制圧と時を同じくする事になる。


 蜀の二方面作戦が行われようとしていた。

お読み頂きありがとうございます


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