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第六十四話 宣戦布告

 孔明を排除する。


 言ってて何だがそんな事可能なのだろうか?

 彼は三国志の中でもトップクラスの知恵者で、劉備とは切っても切れない信頼関係を築いている。

 それに文官として見れば彼は非の打ち所のない程優秀な人物で彼の代わりを探す事は難しい。

 軍を率いる将軍として見れば、基本無理をしない慎重な用兵で大敗などした事が無い。

 これまた優秀だ。


 無理じゃね?


 人から恨みを買うような事もしてないし、人を追い落とすような事も今のところしていない。

 俺以外はだけど。

 正直彼と正面から対決して勝てるとは思えない。


 でも、殺らなければ俺が殺られる。


 向こうは俺を殺す事すら平然とやる。

 それが自分の為ではなく、次代の劉禅の為と言う大義名分が向こうには有るからだ。

 彼は大きすぎる武勲を立てた俺が、劉禅に大人しく従う筈が無いと思っている。


 ぶっちゃけて言うと孔明の言う通りだ。


 俺も劉禅に仕えるのはどうかと思っている。


 史実を見れば、彼は彼なりに皇帝を演じている。

 孔明が居た頃の劉禅はほとんど何もさせて貰えなかった。

 軍権も政治も全ては孔明が握っていたのだ。

 北伐をする為に劉禅に許可を貰っているが、それだけだ。

 それ以外で彼が何かしたとは書かれていない。

 孔明が亡くなった後、蒋琬、費偉が後を継ぎ、彼らが亡くなった後に満を持して皇帝として政務を執り行った。

 しかし、そこから急速に国を傾けて蜀は亡びる事になった。


 う~ん。孔明達が過保護過ぎたのが悪かったのか?


 それとも劉禅が悪すぎたのだろうか?


 でも考えて見れば劉禅は最も意欲に満ちた時に孔明から有名な出師の表の中で『俺は劉備の恩が有るからお前に仕えてやってるんだよ。お前の為にやってる訳じゃないからな。そこのところを勘違いするなよな?』と言われている。

 これを聞かされた劉禅はショックを受けなかったのだろうか?

 俺なら劉備を引き合いに出されたら『そんな事分かってるよ!』と言ってやったかも知れない。


 そんな厳しい事を言っても孔明は劉禅に政務を行わせなかった。


 これでどうしてやる気を出せと言えるのだろうか?

 軍権を取り上げ、政務もやらせない。するのは国の祭事のみ。

 これでは自分が国のトップだと思えなかったではないだろうか?

 人に任せる事に慣れてしまえば、自分で何かをしようとは思わないだろう。


 俺は思う。これは孔明がわるい。


 劉禅は軍権も政務も取り上げられて、他の臣下に教育を丸投げされ『劉備みたいな立派な主君に成って下さいね』と言われて、それで皇帝をやれとはあまりに酷すぎないだろうか?


 この先孔明がトップを取れば同じ事を繰り返すような気がする。

 彼は今も仕事中毒な人間だ。

 誰かに任せると言う事をしない。誰かに頼ると言う事もしない。常に自分だけで解決してしまう。孤高の人物だ。


 もし、仮に、仮にだ。


 劉禅をトップに俺が軍権を孔明が政務を担当するのが理想だと思う。

 これは劉備も望んでいる事だろう。

 前世でもそれを期待されていたと思う。


 しかし、それはもう有り得ない。


 和解など出来ない。


 例えそれが俺が憧れ、好きだった人物でもだ。


 では今後どう動くか?


 今の俺は軍権もなく、政務に関わる事が出来ない。

 しかし、影響力は有る!

 俺が今まで積み上げてきた実績は伊達ではない!


 長坂から始まり、赤壁、荊州、広州、孫呉との繋がり、漢中平定に益州攻め。

 益州攻めは中途半端に終わったが、それを差し引いても俺の武勲は強大だ。


 軍のトップに君臨する連中と俺は懇意にしている。

 俺が声を掛ければ彼らは喜んで協力してくれるだろう。

 そして文官連中はどうか?

 これは劉巴が動いてくれている。

 それに潘濬、蒋琬は俺を支持してくれるそうだ。

 ただ徐庶は俺と孔明が争うのを見たくないそうだ。

 彼は俺に対する恩義と孔明に対する友情に揺れている。

 彼に期待するのは出来ないだろう。


 現在の俺と孔明の勢力はほぼ互角、いや俺が有利だろう。


 俺が軍の支持を得て、孔明が文官の支持を得ている。

 俺が軍の実権を握ったら、孔明を追い落とすのは簡単だ。

 しかし、軍権は劉備が握っている。

 そして孔明は劉備に進言して軍を動かす事が出来る。

 劉備が孔明の言に従えば、俺が危ない。


 しかし、孔明は俺と表だって争う事をしないだろう。


 それは俺が有名に成りすぎたからだ。


 俺の武勲の強大さと劉巴達が広げた噂のお蔭で俺が思っている以上に俺の影響力は大きいのだ。


 しかしそれも俺を守る事が出来ても孔明を攻撃する事には使えない。


 どちらかが失敗、失策を起こさない限りはおれも孔明も互いを排除出来ないのだ。


 今は劉備と言う緩衝材が有るから良いが、劉備が居なくなったら最悪内乱に突入する。

 それは俺も孔明も避けるだろう。

 内乱が起こったら曹操と孫権が得をするからだ。


 なら内乱を起こさずに俺が孔明に勝利する方法は何なのか?



「お前が玄徳の跡継ぎに成れば良い」


 それしかないよな。


 俺と劉巴は今後の事を話し合っていた。


「それが穏便な方法かな」


「玄徳を殺さずにお前が跡継ぎにふさわしいと内外に認めさせれば良い。それで解決だ」


「そうだな」


「ああ。しかし、本当なら益州攻めをお前が単独でやり遂げればそれも可能だったのだ。それを自ら捨てるとはな。お前はどうしようもなく、甘い!」


 それを言うなよ。俺もそれは気付いてなかったんだよ。


 そう、俺は劉備の跡継ぎに王手を掛けていたのだ。

 益州攻めと言う強大な武勲を立てた俺なら、誰も文句など付ける事が出来なかっただろう。

 そして劉華を嫁にすれば万事解決したのだ。


 それなのに、俺は、俺は……


「孔明が何か失策を犯すとは思えん。それに奴に従う連中も増えている。お前が早く復帰して皆にお前の健在振りを見せる必要が有るぞ」


「でもまたどっかの戦地に飛ばされないか?」


「今は内政に専念する時だ。それに負傷して復帰したばかりの人間に軍を任せたりするものか。良いからさっさと顔を出せ!」


「分かった」


「ふん。ところでお前が寝ている間に外で動きが有ったぞ」


 劉巴が語ってくれたのは、孫権が本拠地を柴桑から現在の南京(なんきん)建業(けんぎょう)に移した事だった。


 建業は以前は秣陵(ばつりょう)と言い、孫権が王の業を行う場所として建業と改名したのだ。

 そして孫権は長江を越えて石頭(せきとう)城を築いた。

 孫権がいよいよ本格的に動き出したのだ。


 そして曹操は馬超を潼関で敗走させて、長安を制圧。

 その後、曹操は馬超と涼州軍閥の残党を掃討しながら、涼州を制圧し関中以西をその支配下に治めた。


 これで中華は三国まで絞られた。


 中原を支配する曹操。


 荊州北部、揚州を支配する孫権。


 そして荊州南郡、広州、益州を支配する劉備。


 これからは互いの動きを伺いながら大陸の統一に動き出す。



 それと曹操に敗れた馬超が漢中にやって来て劉備の傘下に加わった。


 しかし、馬超が劉備の傘下に加わるのに一悶着が有った。

 当時、漢中の守備をしていたのは張飛だった。

 張飛は劉備から漢中太守を命じられて赴任。そしてちょうどその頃に馬超が漢中にやって来た。

 馬超は数千の兵を率いていたので、張飛は馬超が漢中を攻めてきたと勘違い。

 陽平関で待ち構えていた張飛は、馬超が話し合いをしようと一騎で出てきたのを見て、馬超が一騎討ちをしようと出てきたと勘違い。


 張魯と潘濬が止めるが張飛は聞き入れず、なんと、なんと、陽平関で馬超と張飛は一騎討ちを始めたのだ。


「ここを通りたかったら、俺を倒して行きやがれ!」


「私はそんなつもりはない。私は劉」


「だー!うるせー!さっさと殺ろうぜ。行くぞー!」


「な、それが劉備の答えか!」


 馬超の言葉を最後まで聞く事なく斬りかかる張飛。

 それを受けて馬超もヒートアップ!

 その一騎討ちは夜まで続いたが決着は付かず。


 その後、久々に手応えの有る相手と打ち合って満足した顔で帰って来た張飛を待っていたのは、馬超と話し合う為にやって来た怒り心頭の劉備であった。


 張飛は劉備の一喝を浴びて平謝り。


 その後、李恢の仲介を受けて馬超は劉備と面会。

 多少の誤解が有ったが、馬超は劉備の配下となったのだ。


 それを聞いた俺はゲラゲラと笑ってしまった。


「ぶははは。益徳殿らしい。ひー、可笑しい。は、腹が、腹が痛い。ぶははは」


「笑い事ではないぞ。危うく馬超と一戦するかもしれなかったのだぞ」


「そうだけど、でも見てみたかったな。その一騎討ち。ぷっ、ぶははは」


「そうだな。私も見て見たかった」


 この馬超と張飛の一騎討ちは講談者達が美談として巷に話を広げているそうだ。


 馬超は自分の命と引き換えに配下の者達を助けて欲しいと張飛に掛け合い。

 ならばと張飛は自分に勝てたらその願いを叶えようと一騎討ちを持ちかける。

 二人の豪傑が互いの意地をぶつけ合う。

 夜まで続いた名勝負に決着付かず。

 その二人の勝負に胸打たれた劉備は馬超を無条件で迎える。

 それに感謝した馬超は劉備を終生の主と思い仕える事を誓うのであった!


 と言う風に言われている。


 一部内容に違いが有るが概ね間違っていないので誰も注意などしない。


 良かったね張飛。また武勇伝が増えたよ。ぶははは。



 そして俺は、朝服を来て登殿した。


 中央に劉備が、左右にズラッと並ぶ臣下達。

 見たことの有る者とそうでない者達が居る中、真っ直ぐに劉備の下に向かう。


 久しぶりに姿を表した俺を皆が注目していた。


「臣孝徳。これより服務致します」


「うむ。体は大丈夫なのか?」


「ははは、この通り。元気ですよ」


 俺は両手を広げてアピールする。


「そうか。では頼むぞ」


「はは」


 そして俺は孔明の隣に並ぶ。

 今の俺の役職は光禄大夫。文官の一人だ。

 孔明の隣に並んでも誰も何も言わない。

 ちなみに俺が上座で孔明が下座だ。


「俺を潰せるものなら潰してみろ」


 俺はボソッと呟いた。

 俺の呟きを聞いた孔明は俺に顔を向ける。

 その眼が俺を見ている。

 俺も孔明を見ている。


 孔明はフッと笑うとこう言った。


「望み通りに」



 俺は孔明に宣戦布告したのだった。

これにて五章は終了です。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします


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