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第六十三話 本当の敵

 建安十七年 春


 劉備が成都を囲むと劉璋は降伏した。

 ここに俺と劉備の益州攻めは終了したのだ。


 と言うのを俺は綿竹関で寝ているところ知らされた。


 雒城攻めの最中、狩りの最中に雒城の守備をしていた張任率いる偵察隊と遭遇し襲撃された。

 俺は背中や右足に矢を受けて重症。

 護衛をしていた傅彤も手傷を負ってこれまた重症。しかし二人共に命に別状はなかった。


 正直油断していた。


 雒城やそれに付随する砦からは離れていたので、まさか偵察隊に出会うとは思っても見なかった。

 尚香が陸遜と黄忠を呼んでくれなかったら、死んでいたと思う。

 これでまた彼女に頭が上がらなくなった。


 俺は傷を治す為に綿竹まで下がり、指揮は徐庶に一任した。

 徐庶は法正と協議して雒城攻めを行い、これを攻め落とした。

 しかし、雒城攻めは当初予想した通りに手間取り、攻め落とすのに年明けまで掛かってしまった。


 ちなみに陸遜は俺と一緒に綿竹に居た。

 俺は怪我で動けないからここに居る必要はないと言ったが、彼は傅彤の代わりだよと言って側を離れなかった。

 少し嬉しかった。


 そして、雒城を守っていた劉循と張任はどうなったかと言うと……


 劉循は雒城が落ちる前に逃げ出して成都に向かったが劉備に捕まった。

 この時既に劉備が成都を包囲していたからだ。

 張任は劉循を逃がす為に城に残って戦っていたが、負傷して捕らえられた。


 二人共、劉璋が降伏した後に劉備に降伏した。


 劉循は劉備に仕える事になり、張任は劉備に仕えるを良しとせず下野した。

 その後しばらくして、劉璋と劉循の説得を受けて劉備に仕える事になった。


 なら最初から仕えろよと思ったが、劉璋に忠誠を誓っていたので、再度誰かに仕えるには一度下野する必要があるらしい。建前と言うやつだ。

 劉備を警戒して劉璋に忠告していた王累と黄権も下野した後に劉備に仕えている。


 劉備に降伏した多くの者はこうして一旦は野に下り、それから誰かの推挙を得てから劉備に仕えると言う面倒くさい事をしていた。



 成都に入った劉備は益州牧を名乗り『左将軍府』と言うのを開くと益州の政務を執り行った。

 劉備はそこで今まで劉備に従っていた者達に官位を与え恩賞を取らせ、さらに成都の国庫に蓄えられた銭を兵や民に配る大盤振る舞いを行い、民衆の支持を得た。


 こうして劉備の人気はうなぎ登りになり、劉備の益州取りを非難する声は全く無かった。


 ちなみに国庫を開いた事で軍資金が不足して困った劉備を劉巴が献策して救っている。


「ははは。この程度の事造作もない。ははは」


 劉備は劉巴の才を高く評価して劉巴を更に重用するようになるのだが、彼は劉備を嫌っているので仕事を真面目にする事はしなかった。

 要するに手を抜いていた。


 そして劉巴は俺の姿を見て笑った。


「くくく。なんと悪運の強い男だ。お前は。ははは」


 成都が落ちた後にしばらくして俺も成都に入った。

 この頃になると傷も大分癒えて来ていたが、俺は無理して出仕せずに大人しくしていた。

 劉備からも無理せず傷を治すように言われたしな。


 俺に従って益州攻めに参加した者達は劉備に恩賞と然るべき職を与えられたが、俺は何も貰えなかった。

 いや、貰ったな。

 光禄大夫(こうろくたいふ)と言う名誉職と長期療養と言う休みを貰った。


 成都で劉璋一族が使っていたバカでかい屋敷を与えられて、そこで療養している。

 今の俺は復帰しても軍権もなく、政治に介入する事も出来ない。


 あれだな。引退した政治家みたいなもんかな?


 名誉職を与えられて給料は出るので生活の心配をする事はない。

 それに戦に出る必要も無くなった。もう将軍じゃないからな。

 それに呼び出されない限り出仕する必要もない。

 これで面倒な執務をする事もない。


 孫呉に居た時のようにのんびり生活している。


 ひゃっほー、ニート最高!!


 そんな時に劉巴がひょっこり現れて俺を笑ったのだ。


「何がそんなに可笑しいんだ。俺は病人だぞ!」


「ははは。病人なのに顔は笑っているぞ。ははは」


「はぁ。まあ、仕事しないで生活出来るからな。ふふふ」


「全く良い御身分だな」「そうだな」


「「ははは」」


 俺と劉巴は一緒になって笑った。


 そして劉巴は笑い終わると真面目な顔になった。


「さて、お前は本当ならここでこうして居なかったかも知れん。自覚は有るか?」


「また問答か? はっきり言え。はっきり!」


「分かった。説明してやる」


 それから劉巴の話を聞いて俺の顔色は真っ青になったと思う。

 血の気が引くのを感じた。


「俺、ひょっとして死んでた?」


「悪くすればだ。まあ、その可能性は低かったがな」


 劉巴が言うには劉備の周りの者達から俺は非難されていたそうだ。

 まず、独断専行しての漢中平定がまずかったらしい。

 漢中攻めは劉備にお伺いを立てる必要が有ったようだ。

 そして、楊壊、高沛を斬り捨てた事も問題になった。

 劉璋に意見し、劉備の判断を仰ぐ事をしなかったと。

 止めが益州攻めに行き詰まり、援軍を頼んだ事。


 それら全てを罪に問われる事になったかも知れないと言われたのだ。


 難癖じゃないか!


 しかし俺は雒城攻めの最中に負傷した。戦で負傷した人間を裁くのはどうかとなり、それに漢中平定と言う武勲も立てたので、それを持って罪を帳消しにして罰として名誉職を与えて政治の中枢から離されたそうだ。


 ちなみに俺の負傷は狩りをしている最中に襲われたのではなく、偵察していた所を襲われた事に成っている。


 劉巴は関係者と口裏合わせをして、張任にも確認を取ったそうだ。

 張任は俺と遭遇したのは偶然だったので、俺達が何をしていたのかは知らないと言ったそうだ。

 知らない訳無いのにな。これは張任に借りを作ったのかも知れない。


「どうだ。私と元直がお前を庇って玄徳に直言したんだぞ。感謝すると良い。ははは」


「知ってたなら言えよ!」


「漢中を平定しろとは言わなかっただろうが!あれはお前の責任だ! それに援軍に関しては私に相談しなかった。せめてあれは相談して欲しかったぞ!」


「うう、すまん。あっ!でも漢中攻めは俺の責任じゃないぞ! あれは周りの者がだな……」


「それを抑えるのが大将の役目だろうがー!」


「うひ。す、すまん」


 駄目だ。反論しても返される。


「いや、まあいい。今回は危なかったと自覚しろ。次も上手く行くとは思えんぞ」


「え、いやいや。次はないだろう。俺はもう戦場に立つ事も出来ないし」


 劉巴の目付きが鋭くなった。


『嘘を吐くな。もう立てるし、槍も振るえるようになったのではないか』と目で言っている。


 今の俺は床に伏して上半身だけ起こしている状態だ。

 傷が癒えた事が知られたらまた戦場に送られかねないと思ったので、客人が来る度にこうして演技していた。

 劉巴には見抜かれたがな。


「はぁ。だがまあ、孔明の悔しそうな顔を見れた。それだけが収穫だな」


「孔明?」


「お前は本当に自覚してるのか!」


「す、すまん」


 劉巴が言うには俺を処断する、つまり殺すように動いたのが孔明だったと言うのだ。


「それは、本当なのか?」


「お前を抑える自信がないそうだ。阿斗が大きくなって玄徳の後を継いだら、誰がお前を抑えるのかと言っていたそうだ。これは元直から聞いた話だがな。だが、それが本当なら孔明は阿斗なら操れると言っているようなもんだな。あれは権力には興味が無いと思っていたが、そうでは無いのかも知れんな」


 あ、危なかった。俺は孔明に殺されるところだったのか?

 いや、ちょっと待て! 徐庶は知っていたのか?


「元直は、俺が殺されるのを知っていたのか?」


「薄々は気づいていたそうだ。だが、お前を処断するとは思っていなかったそうだ。せいぜい軍権を取り上げるか、閑職に回されるくらいだとな。孔明にお前の裁定をどうするのかと聞いて、そう聞かされたそうだ。もちろん反対したそうだ。あいつはお前に恩義が有るからな。後で詳しい話を聞け」


「俺が殺されるかも知れないのを知っていたのは誰だ?」


「玄徳と元直。そして提案した孔明くらいだ。それに俺とお前だな」


「そ、そうか」


 まさか、死亡フラグが立っていたなんて知らなかった。

 どうやら俺はやり過ぎてしまったようだ。

 孔明に危険人物だと認識されているとは思わなかった。


 いや、違うな。


 俺は分かっていた。孔明が俺を後継候補から外そうとしていた事を知っていた。

 それを知りながらも俺は楽観視していた。

 ミスさえしなければ俺をどうこうする事は出来ないと思っていた。


 しかし、今回の益州攻めで俺は殺される可能性が有った。

 難癖に近い言いがかりで、俺を殺す気だったのだ。


「玄徳はお前を処断する気はない。今のところはな。だが、人は変わるぞ。気を付けろ」


「あ、ああ。なぁ、どうしたら俺は助かる?」


「それは簡単だ。玄徳を殺してお前が後を継げ」


「それは無理だ」


「なら孔明をどうにかするんだな。玄徳はあれを信用し過ぎている。危ないぞ?」


 劉巴の奴、面白がってないか?


「どうにか出来るのか?」


「無理だな。あれはお前と違って隙がない。追い落とす事も出来まいよ」


「子初。お前は俺の味方だよな?」


「何を今さら。私は老いた狼より、若き龍に賭けたのだ。私をこれ以上失望させるな。いいな!」


「分かった。それとありがとう」


「泣く奴があるか。確りしろ本当に」


「ああ、ああ」


 ポロポロ涙が落ちる。

 拭っても拭っても涙が止まらなかった。


「お前が戻って来るまでに、お前を主と仰ぐ奴らを集めてやろう。それに私は阿斗なんぞに自分の将来を託す気にはならないからな。我が主はお前だけだ!」


「子初~」


 頼りになるよホント。


「本当に大丈夫だろうなお前。ちょっと心配になってきたぞ」


「ああ、大丈夫だ。確り休んで機会を待つよ」


「そうしろ。たまに顔を出す。ではな」


 そう言って劉巴は帰っていった。



 そうか。俺は歴史通り孔明に殺されるかも知れないのか。


 そんな事に成ってたまるか!


 俺の敵は曹操でも孫権でもない。


 孔明だ!


 俺が生き残るには孔明を排除しないと行けない事がはっきりと分かった。


 これから先は俺と孔明の権力争いだ!


 絶対に負けられん!


 孔明に殺されてたまるかー!


ようやくサブタイトルを回収。

今さらかよ!と言われると思いますが、蜀ファンの保君にとって孔明も憧れの存在なのです。

その複雑な心中をお察しくださいませ。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


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