第六十一話 順風満帆
楊懐、高沛を斬り捨て白水の兵を吸収した俺達は、一路葭萌関を目指した。
大将 俺(劉封)
副将 黄忠 霍峻 張衛
武将 魏延 張南 孟達 卓庸 呉蘭 雷同
軍師 徐庶 陸遜 法正
護衛 傅彤 孫尚香 孫英
後方担当 蒋琬
総勢五万の軍勢を率いている。
尚香と英が当然のように付いて来ているが、もう何も言わなかった。
漢中守備には陳到と楊昂を、漢中太守張魯の補佐には潘濬、李恢を残した。
それと李恢には馬超と連絡を取る役割を与えている。
馬超達が曹操に負けた時に漢中で匿う可能性を高める為だ。
馬超ら涼州軍、特に彼らの騎馬隊が欲しい。
俺達荊州兵の大半は歩兵で騎馬の数が圧倒的に少ないのだ。
城攻めは良いとして、野戦では機動力のある騎馬が有れば戦術の幅が広がる。
先の事を考えれば彼らを取り込む事が出来れば、涼州平定も可能だ。
これには徐庶も賛成してるしな。
ただ問題なのは、馬超達が俺達の傘下に加わるのかと言う事だけだ。
本で読んだ感じの馬超はとにかくプライドの高い人物だ。
何せ『錦馬超』だからな。
一筋縄では行かないだろう。
恩を着せたくらいで靡く人物ではない筈だ。
「私を将に? なぜだ!」
「張衛。私は君の采配と兵の統率ぶりを高く評価している。それに降伏した漢中兵は日の浅い我らより君の言う事なら聞くだろう。それが理由だ」
「信じられん。私が反乱を起こすとは考えないのか?」
「起こすのか?」
「そ、それは」
「その時は私の見る目が無かっただけだな」
「ふぅ、分かりました。劉将軍に従いましょう」
張衛は呆れ顔から、満足したような顔になって頷いた。
正直今は兵を率いる将が足りない。
と言うか、万の兵を率いる将が居ないのだ。
黄忠と陳到、それに霍峻は大丈夫だが、魏延と張南はまだ万の兵を率いるほどの力量はない。
これは鬼軍曹が言っているから間違いない。
陳到は漢中の守備に残さざるえないので、他に使える将と言えば張衛しか居なかったのだ。
張衛の指揮ぶりは先の戦いで見ているので、安心出来る。
それに降伏したばかりの漢中兵が俺達の指示をまともに聞くのか分からない。
それならばと張衛に全て丸投げしてしまおうと思ったのだ。
確かに彼の言うとおりで、反乱を起こされたら困るが、そこは張衛と漢中兵を信じるしかない。
ちなみに徐庶と陸遜が張衛が反乱を起こす可能性は低いと言ったので、実は張衛より徐庶と陸遜を信じたのが真相だ。
関城で蒋琬と合流して白水関を通り、葭萌関に着いた。
葭萌関では劉巴と張松が待っていた。後、馮習も。
「張松 子喬と申します。劉将軍に御逢い出来て光栄です」
「劉考徳だ。張松殿。ご無事で何より。心配したぞ」
「これは申し訳なく。ご注意を受けながら勝手な事をしてしまい。ご迷惑を御掛けしました」
「訳は中で聞こう」
「はは」
張松から成都での様子を聞くと劉璋配下の家臣達の危機感がかなり高かった事が分かった。
特に俺達に漢中を平定されたら返す刀で自分達に牙を剥くのではないかと言われていたらしい。
そこで張松はそれならばと劉備に好意的な劉璋を俺達に穏便な形で帰って貰おうと説得したそうだ。
内容は全然穏便じゃないがな。
それが俺達に益州を攻めさせる大義名分になるとは考えなかったのかと言いたい。
そして張松は自分が接待役を務め、そこで俺を説得すると言う事で葭萌関にやって来たそうだ。
自分の身の安全を謀りつつ、俺達に大義名分を与える張松って本当に有能だよな。
そして張松は俺達にもう一つのお土産を用意してくれた。
巴西郡太守龐羲を俺達の味方にしたのだ。
龐羲
龐羲は劉璋の息子に娘を嫁がせて縁戚になったが、張魯の侵攻に備えて私兵を集めると劉璋に反乱を疑われて謝罪する。
その後は劉備が益州を治めるとその配下になった人物だ。
龐羲は縁戚にもかかわらず劉璋に疑われた事があるのでそれを根に持っていたそうだ。
張松の誘いに迷うことなく従った。
張松グッジョブ!
龐羲を味方に出来たのは大きい。巴西郡は葭萌から東側の郡だ。それに龐羲は更に東の巴東郡にも影響力を持っている。
これで東からの敵を心配する必要がないばかりか、荊州との連絡も取れるようになった。
これで俺達は益州で孤立する事が無くなって、いつでも援軍を呼べる事になる。
正に張松様々だ。
そしてその龐羲は俺達に援軍を寄越した。
その数五千。龐羲の劉璋に対する不信は相当なようだ。
そしてこの軍勢を率いて来たのが。
「王平 子均と申します。劉将軍の兵の末席に御加えください」
おおー! 王平がやって来るとは!?
王平
元は曹操に仕えていたが、定軍山の戦いの時に劉備に降伏。その後は孔明の北伐に参加して活躍。孔明が亡くなった後、漢中太守となって魏の侵攻を防いでいる。
紛れもない蜀の名将ですよ!
こんなところで会えるとは思っても見なかった。
でも何で龐羲のところからやって来たんだろう?
曹操の配下だけどこの辺りに住んでいた事は知ってる。でも詳しくは知らないんだよな。
「私は元は張魯殿に従っていた族長の一族の者です。張魯殿が劉将軍に降伏し、龐羲殿の下に身を寄せようとしたら、その、龐羲殿が劉将軍の傘下に加わったので、それで……」
……たらい回しかよ。
張魯の保護下に有った異民族が龐羲を頼ったけど、龐羲は保護する代わりに俺のところで働いてこいと言って送り出したと言う訳だ。
なるほど、王平が引き連れている兵達の姿を見れば武装が俺達とは違うのがよく分かる。
まあ、何にせよ。将が増えた事を素直に喜ぼう。
それに王平は使える将だ。
まだまだ経験不足なので鬼軍曹に預けて鍛えてやろう。
最近魏延が独り立ちし始めて寂しそうにしてるからな。また刺激を与えないと。
王平。頑張るんだよ!俺は応援してるからな!
葭萌で軍の再編を行い、早速進軍を開始した。
向かう先は涪県。
ここを抑えて南下するのが成都への近道だ。
迂回するルートも有るがそれだと補給の問題が有るので難しい。
それなら真っ直ぐ成都を目指したほうが良いと決定した。
「どおおりゃあぁぁー!」
先陣を任せた黄忠の怒声が戦場に響き渡る。
黄忠は漢中戦では大して働いてなかったので『是非先陣を』と懇願されたので彼に任せた。
その黄忠の左右を魏延と参加したばかりの王平が続いている。
涪県涪城の前に陣を敷いていた劉璋軍に真っ直ぐ突っ込んだ先陣の黄忠。
無茶すんなよ。
「敵将は誰だったかな?」
「確か、劉璝と言ったかな?」
俺の問いに陸遜が答えた。
そうか。雑魚だな。
「相手になりませんな」
徐庶の言うとおり、黄忠の突撃を受けて劉璝軍は壊滅した。
城の前に布陣するとか馬鹿なのかと言いたい。
まともに戦った事がないのか。それとも単に俺達を舐めていたのか。
まあ、どうでもいいか。
「敵将討ち取ったりー!」
ああ、どうやら黄忠が劉璝を討ち取ったみたいだな。
史実ならここで負けても生き延びて、この先の雒城まで逃げる筈だったのにな。
劉璝が死んだ事で涪城は呆気なく落ちた。
大した損害も出さずに完勝だ。
こんなに簡単で良いのかと問いたい。
しかし、今は士気が上がっている。
これを維持して早め早めに行動しないとな。
もたもたしていると年を越してしまう。
漢中からこの涪城を落とすまで二ヶ月が過ぎていた。
季節は夏から秋に変わり始めていた。
そして漢中に残していた李恢からの書状で曹操と馬超の戦いが膠着状態になっている事を知った。
「潼関を捨てて、長安で籠城すれば一年は持つでしょうな」
「そうですね。ですがそれはしないでしょう。馬超の噂を聞けば籠城をするような人物には思えません」
「野戦に拘る。これは馬超の負けです」
徐庶、陸遜、法正がそれぞれ意見を述べる。
結論は出ている。史実通りだ。
「曹操はどうでると思う?」
「長安までは来るでしょう。そこからは」
「配下の将に任せて都に戻る。あまり長く離れると反乱が起きるかも知れないからね」
「孫権が動きます。涼州を攻めた事で再び大軍を動かすのは難しく。これを見逃すとは思えません」
さすがに我が軍師達は的確な判断をしている。
俺は史実でこの後の流れを知っているが、漢中平定と益州攻めが早まった事で曹操や孫権がどう動くのか分からない。
曹操と孫権が史実と違った動きをするのではないのかと思ったので彼らに分析して貰ったのだ。
「では孫権が曹操と争っている間は安心して劉璋を攻められるな」
「はい。ですがこれからが大変です」
「雒城は天険を利用した城。攻め落とすのに時間が掛かりましょう」
法正は雒城を知っている。なら弱点を知らないだろうか?
いや、知っていたら史実で劉備が一年も掛かって攻め落とす事にはならないよな。
これは先に援軍を呼ぶべきかな?
「荊州に連絡して援軍を要請しよう。俺達が雒城に攻めて敵の主力を引き付けて、援軍に成都を突かせるのはどうだろうか?」
「それは良い案だ」
「そうですな。無理に雒城を落とす必要もなく。兵を温存出来ましょう」
うん。これで行こう。
陸遜と法正は賛成したが、徐庶は何も言わなかった。
どうしたんだ。徐庶?
「何か有るのか。元直?」
「あ、いえ。私も賛成です。ですが、まずは雒城まで兵を進めましょう。まだ敵の防備が整っていないかも知れませんからな」
まあ、雒城の前に綿竹関が有るけどあそこはそんなに警戒する必要はないんだよな。
だってあそこを守っている李厳は既に俺たちの味方だ。
俺達が漢中を攻めている間に劉巴が李厳と会って味方に引き入れたのだ。
劉巴の名声は本当に凄いよな。
「よし、では行こう」
こうして俺達は綿竹関で李厳を味方に加えるとそのまま雒城まで向かった。
益州攻めは順調過ぎるほど順調だった。
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