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第六十話 漢中平定

 定軍山、陽平関を落とした俺達は本陣を定軍山に、陽平関には陳到を置き、関城の蒋琬と葭萌関の劉巴までのルートの整備を行わせた。


 ここまで来れば漢中は落としたも同然。


 焦って張魯の居る南鄭を攻める必要はない。

 それよりも真なる目的である益州攻めの為の布石をして置かないと行けない。

 その為には道の整備は欠かせないのだ。


「張魯には降伏の使者を送りましょう」


 定軍山に入る事十日後、張魯に対して全く動かなかった俺達はようやく次の行動を起こした。

 軍議では張魯に対しての行動を聞いていた。

 このまま攻めるのか、降伏を迫るのか?

 結論は既に出ているがね。


「使者は誰が良い。元直」


「法正殿。と言いたいところですが……」


「私では駄目でしょう」


 徐庶の推挙を受けた法正はそれを断った。

 法正はまだこの時は劉璋の配下だ。

 法正が行って張魯を降伏させると、張魯が劉璋に降伏した形になってしまう。

 そうなると漢中の統治の正統性は俺達から劉璋に移ってしまう。

 それでは先の戦いで死んでしまった荊州の将兵は納得しないだろう。


 もちろん俺も納得しない。


 定軍山を攻めた時の高沛の態度を思い出せば、あんな奴らに漢中を渡してたまるかと思ってしまう。


 では法正以外に誰が居るのかと言われれば、それは陸遜しかいない。


「伯言。頼めるか?」


「御意。お任せを」


 陸遜は俺に付いて呉からやって来た事で、当初は呉のスパイのように思われていたが、先の戦いでの活躍でそれも払拭されつつある。

 陸遜はこれからも俺の側近として活躍して貰わねばならないので実績作りは大事な事だ。

 ここで陸遜の名声を高めるのは悪くない。

 史実よりかなり早く、陸遜の名前は中央に知れ渡る事だろう。


「護衛には、そうだな。文長、お前に任せる」


「はは」


 魏延なら問題ないだろう。

 それにこういう場に付き合わせるのも悪くない。

 色々な経験をさせる事が将来に繋がる筈だ。


 これで張魯に対しては良いだろう。

 次は…… 何だっけ?

 俺は徐庶に目配せする。


「陽平関の陳到殿よりの報告です」


 ああ、そうだった。曹操と馬超が潼関(どうかん)で戦っているんだったか?

 何とかあの戦いに介入出来ないかなと思っていたんだ。

 ここ漢中での戦いがあっさりと終わりそうなので、それも可能かな?


 陳到の報告では曹操の先発隊と馬超の交戦が確認出来たそうだ。

 戦端が開かれたばかりらしい。


 さて、どうするか?


「曹操と馬超が争っている間に漢中の支配を完全なものにしましょう」


 ああ、そうか。まだ俺達は漢中を支配してないもんな。

 俺達が支配しているのは軍事上の要所だけで、これでは漢中を支配しているとは言えない。

 まずは足場固めだ。


「分かった。葭萌から承明を呼び出せ」


「はは」


 潘濬に漢中に関する政務を任せよう。

 後は補佐役が誰か欲しいな。

 劉巴に誰か推挙して貰うかな。

 あれからまた人が増えただろうから、誰か居るだろう。



 こうして張魯には陸遜を送り、葭萌から潘濬を呼び出し漢中平定後の統治の準備をしていた俺達に劉璋から使者がやって来た。

 陸遜が戻らず、既に十日が経っていた。

 定軍山の戦いから一月近くが過ぎていたのだ。


 それできっと劉璋は俺達がもたもたしているので、早く張魯を何とかするようにと言いに来たのだろうと思った。


李恢(りかい) 徳昂(とくこう)と申します。劉将軍に御会いできて光栄です」


 李恢?


 確か、馬超を説得して劉備に仕えさせて、孔明の南蛮制圧に従いこれに貢献、その後も南蛮に残っていた人で、縁の下の力持ちみたいな人物だ。


 その人物が何でやって来たんだろうか?


「それで、何用かな。李恢殿?」


「はい。実に申し上げにくい事なのですが…… 劉将軍には葭萌に、いえ。荊州にお戻り頂きたいと我が主は申しております」


「なんじゃとー!」


 黄忠、俺のセリフを取らないでくれ。


 しかし、どういう事だ。


 もう少しで漢中を平定出来るのに、何で今さら荊州に戻れと言っているんだ?


「まさか。父上に何か有ったのか!」


「あ、いえ。それはないです」


 違うのか。思わず立ち上がってしまって格好が付かないな。


「では、何だと言うのです。我らの張魯討伐が終わろうと言うこの大事な時に、荊州に戻れとはどういう事ですか?」


 徐庶の声には静かな怒気が含まれていた。

 と言うかこの場の誰もが怒りを感じている。

 漢中平定の後一歩まで来ていて帰れと言われれば誰だって怒るだろう。


「これまでの劉将軍の働きで張魯討伐の目処が付きました。後は我らだけで行います。劉将軍には一度葭萌に戻られそこで祝宴を用意しております。皆様の労をそこで労いたいと我が主は申しております」


 なん、だと。


 これは、あれか。


 俺達に戦わせるだけ戦わせて、良いところだけ持って行こうと言う事か?


「ふざけるなー!」


「りゅ、劉将軍。落ち着かれよ」


「これが、落ち着いて要られるか! 劉璋は我らを利用しただけか!」


「分かります。劉将軍のお気持ちはよく分かります。どうかお静まりくださいませ。そして、私の話をお聞きくださいませ」


 ふぅ、ふぅ、ふぅ、はぁ~。


 くそ、つい怒ってしまった。


 俺はどっかと腰を下ろすと李恢を睨み付ける。

 しかし、李恢はそれに怯える事もなく、真っ直ぐな瞳で俺を見ている。

 それを見て俺は少し冷静になれた。


 李恢はこの失礼な申し出を言いに態々やって来たのだ。

 何かしら含む事が有るのかも知れない。

 聞くだけ聞いてやろう。


 俺は今にも飛び出して李恢を斬り突けようとする者達を手を上げて止める。


「良いだろう、李恢。話せ」


「はい、ありがとうございます。私がここに来たのは劉璋の言葉を伝える為ですが、本当の目的は違います」


 劉璋。今呼び捨てにしなかったか?


「続けろ」


「私は葭萌にて劉巴殿と会い。劉将軍の下で働きたいと思ったのです。そして、劉将軍の目的の為に土産をお持ちしたのです」


 俺の下で働きたい? 劉巴に会ってと言う事は李恢は俺達の目的を知って仲間に成ったのか。それに土産ってなんだ?


「劉備様と劉璋との間に交わされた約束は二つ。一つは張魯討伐。一つは曹操の侵攻を防ぐ事。間違い御座いませんか?」


 俺は徐庶を見る。


「間違い有りません」


「劉璋は張魯のあまりに呆気ない負けを知って拍子抜けしたのです。これなら劉備様の力を借りなくとも自分達で何とか出来ると思ったのです」


 なんだそれは?


「それは、誰かが劉璋を煽ったのではないのですか?」


 徐庶の問いに李恢はニヤリと笑みを浮かべた。


「我らが謀主張松殿です」


 どわー! やりやがった!


「なるほど。張松殿も危ない橋を渡るものですね。下手をしたら斬られたかも知れないのに」


 同盟の手筈を整えた人物が、それを反古にするように動くとは。


「この話には他の家臣達も同意しております。劉備様を快く思わない者達は多いですからな。彼らは劉璋の決断を喜んでおりましたよ」


 こんなに簡単に乗せられるとは劉璋ってやっぱり駄目な人なのね。

 だんだん劉璋に対する怒りが治まって来て、逆に哀れみを感じるようになって来たよ。


「分かりました。張松殿の働きに感謝しましょう。してこの後の動きは?」


「高沛と楊懐が白水の兵を連れてやって来ます。その時に」


 黒い。黒すぎる。スッゴク怖いわ。徐庶と李恢。


「劉封様」


「言わずとも分かった。高沛と楊懐を斬って、白水の兵を引き入れて劉璋を攻めろと言うのだろう?」


「ご明察を」


 徐庶は良く出来ましたと言う顔をした。


「李恢。手土産感謝する。それで君はどうする?」


「このまま劉将軍の下で働きたく存じます」


「分かった。これから沢山働いて貰うぞ」


「望むところですな」


 ふむ。李恢なら太守に任じても大丈夫だろう。

 それに兵の指揮も出来る。

 それに史実通りならこいつを馬超の使者に出来るだろう。

 便利な奴が来てくれたもんだ。

 おそらく劉巴が動いたんだろうがな。


 それにしても劉璋は俺達と戦うとは思わないのかね?


 それを李恢に聞いてみると。


「また葭萌で百日宴をすれば良いだろうと。それに兵の少ない劉将軍が戦いを挑む筈がないと、張松殿が」


 百日宴なんて二度と御免だ。でも大丈夫なのか張松は?


「張松殿は既に葭萌に居ります。ご安心下さい」


 そうか、なら遠慮なく殺るとしようか。



 それからほどなくして陸遜が張魯を伴ってやって来た。


 張魯は降伏を即座に受け入れたが、信者達を説得するのに時間が掛かったそうだ。

 しかし、時間を掛けた説得で漢中の民は俺達の支配を受け入れてくれたそうだ。


「張魯 公祺(こうき)に御座います。遅くなってしまい申し訳なく。この通りで御座います」


 張魯は膝を着いて両手を前に組み頭を下げた。


「いやいや、話は聞いていた。良く決心してくれた。こちらこそ礼を言おう。無駄な血が流れなくて良かった」


「は、ははー」


 張魯が降伏を受け入れた事で漢中を根拠地に出来た。


 張魯には引き続き漢中太守を任せて補佐には潘濬を付けた。

 そして張魯からは閻圃(えんほ)を俺の参謀にと薦められた。

 何でも張魯に降伏を薦めたのが閻圃らしい。


 閻圃か。名前しか知らないな。何した人だっけ?


 まあ、いいか。何かの役には立つだろう。



 そして、問題の高沛、楊懐がやって来た。


「漢中張魯討伐ご苦労であった。後は我らに任せて貰おう」


 高沛の奴、何偉そうにしてやがる。


「それで裏切り者の張魯の首はどうした。早く持ってきて貰おうか」


 彼らは張魯が降伏した事を知っている。

 と言うか降伏したのを確認してからやって来たのだ。

 どこまでセコい奴らだ。


「張魯は俺が許した。首など有るわけがないだろう」


「何? それでは約定が違うではないか!」


「そうだ。張魯の首が無ければ、恩賞が出んのだぞ?」


 はぁ、もういいや。こいつらの相手をしたくない。

 説得して仲間にしようかとも思ったけど、その必要は無かったな。


「分かった。首が必要なんだな。ではお前達の首を劉璋に届けよう。傅彤」


「はっ!」


「な、何を」「ま、待て。分かって」


 楊懐と高沛が何か言っていたみたいだが、最後まで聞く事は出来なかった。


「劉璋は我らとの約定を破った。と言うのは建前だな。これより我らは益州を取る!行くぞ!」


「「「おおー!」」」


 こうして俺達は益州攻めを始めた。


 この時俺は調子に乗っていた。

閻圃は曹操に認められ張魯と同格に扱われました。

かなり優遇されたようです。

後、高沛達が張魯を裏切り者と言っているのは、張魯が元は劉璋の配下だったからです。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします


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